ホンダのN-BOXとスズキのスペーシアは、昨年ともにフルモデルチェンジしたが、スペーシアの大躍進の影響でこれまでにない「競った戦い」を繰り広げている。この秋もアウトドア仕様のN-BOX JOY(ジョイ)とスペーシアギアを同時期に投入するなどお互い引くに引けない状況、この秋はこれまで以上に熾烈な争いを繰り広げるのは間違いなさそうだ。当然、販売の最前線となるディーラーレベルでも、この秋の主役はこの2台とヒートアップ中だ。ディーラー取材で判明した最新情報をお届けしよう。
●文:松本隆一
スーパーハイト軽ワゴンで勃発した「ホンダ」VS「スズキ」 の1位争いに注目が集まっている
担当 新車の納期の遅れ、近頃はどうなってますか?
松本 かなり改善されてきたね。日産とかマツダは1か月で納車OKのモデルが多く、ほぼほぼ通常ペースに戻っている。トヨタはあいかわらず2~3か月は当たり前、へたすりゃ半年待ちって感じだけど、これも「9月以降は増産によって納期のスピードをあげてくる」との情報が流れている。理由は「円高によって海外輸出優先の方針を変更して国内にまわそう」ってことだそうだけど、はっきりしたことはわからない。
担当 おっ、今回は「トヨタの納期が早くなる!」つて話題ですか?
松本 いや、その話は現時点ではまだ情報がたりていないので、次回にまわそう。今回はこの企画では初めての軽自動車に焦点をあてようじゃないか。
担当 なるほど、で、テーマはなんですか?
松本 ズバリ、N-BOX対スペーシアの熾烈な争いをとり上げよう。
担当 おおっ〝仁義なき戦い〟! 生々しくてぞくぞくするじゃないですか(笑)
松本 N-BOXやスペーシアみたいなタイプを〝スーパーハイト軽ワゴン〟っていうけれど、これって軽自動車といっても値段は150万円を軽く超えて、中心は200万円超だ。オプションを〝盛り盛り〟で購入するユーザーも多いので、メーカー/ディーラーにとっては儲けがめちゃ大きい。
担当 100万円前後のアルトとかミライースを2台売るより、スーパーハイトを1台売るほうが〝おいしい〟って感じでしょうね。
松本 その通り。で、スーパーハイト軽ワゴンで一番販売台数が多いクルマといえば?
担当 ホンダのN-BOX!
松本 正解。まあ、N-BOXはスーパーハイト軽ワゴンってくくらなくても、軽自動車のナンバー1、ひいては普通車も含めた車名別販売台数ランキングのトップに座ることが多いけどね。
担当 まさに〝ベストセラーカー〟ですね。
今年の5月に、スズキ・スペーシアが月間販売ランキングの首位を奪還
松本 N-BOXは軽自動車の月間販売ランキングの首位をずっと続けていたけれど、今年の前半に異変が起きたんだ。昨年末にスズキが投入してきた新型スペーシアによって、5月はその座を奪われてしまった。
担当 (資料を見ながら)5月はスペーシアが1万5160台で1位ですね。N-BOXは1万4582台……(電卓をたたいて)……その差はわずか578台。
松本 翌月の6月はN-BOXが1万6803台、スペーシアが1万2425台。4378台もの大差をつけて、N-BOXが圧勝している。
担当 ホンダ、がんばりました! でも、ちょっとムキになってませんか?(笑)
松本 しらんよ(笑)。ついでに前月の4月をみると、N-BOXが1万4947台、スペーシアが1万2532台で、その差は2415台だ。
担当 7月はN-BOXは1万6500台、8月は1万4441台、一方、スペーシアは1万3073台、1万1166台なんで、スペーシアが首位を獲ったのは5月だけってことですね。
松本 ホンダの販売関係者にいわせると「5月はスズキさんが〝1か月だけでもいいからN-BOXを止めろ〟って仕掛けた結果だ」ってことらしい。要するに「届け出台数を意図的に5月に集中させて、N-BOXの連続首位を止めた」っていいたいわけだ。
担当 そうなんですか?
松本 しらんよ……まあ、業界の噂話ってことで(笑)……でも、たしかに〝連続1位〟ってのは宣伝効果が大きい。
担当 そうですね、ユーザーには〝売れてるクルマはいいクルマ〟って印象をもたせますよね。連続1位って、宣伝費に換算するといくらくらいですかね?
松本 しらんよ(笑)……そうね……億単位の効果があるとみていいんじゃないか。
担当 いちどでも首位をすべっちゃうと〝愛されて連続1位〟みたいなキャッチフレーズが使えなくなっちゃいますよね。5月の失敗を肝に銘じたのか、その後、N-BOXは気を引き締めて首位を続けていますね。
6月以降はホンダ・N-BOXが1位に返り咲いたが、その台数差はかなり縮まっていて……
松本 ところが、再び危うくなってきている。
担当 N-BOXは7月が前年比7.9%ダウン、8月が14.1%ダウンですが、スペーシアは33.3%アップ、27.3%アップと、好調ですね。このままスズキが勢いをつけて、再び首位を奪うってことですか?
松本 いや、勢いだけじゃひっくり返すのはむずかしい。ここで〝新たな武器〟が登場する。9月20日に追加されるスペーシアギアがそれだ。
担当 スズキのWebサイトじゃ、1か月も前から、はでなティザー(予告)キャンペーンを展開していましたし、売る気満々じゃないですか。
松本 ここ数年、軽自動車を車中泊などのアウトドアに使うユーザーが増えているけど、スペーシアギアはまさにこうしたニーズに合わせている。スズキのディーラーでは「ギアの加入で再びN-BOXを首位の座から落とせる」と自信満々だね。
話題のスペーシアギアで首位奪還を狙うスズキ、ホンダもホンダもN-BOX JOYを投入することで対抗
担当 ホンダ、ヤバイじゃないですか。
松本 いやいや、手をこまねいてみているなんてことはないよ。スペーシアギアの発売にタイミングを合わせて、キャラが被っているN-BOX JOY(ジョイ)を9月26日に投入してくる。スズキ側も〝首位獲り〟にやる気満々だけど、ホンダ側も〝連続首位を死守せよ〟って檄を飛ばしているそうだ。
担当 まさに〝目には目を、歯には歯を〟のガチンコ対決じゃないですか! でも、N-BOXって、スペーシアに比べると、ちょっと設定価格が高いような気がしますね。
1位を守る(奪う)ためには、もうお互い仁義なき戦い(値引き勝負)をするしかない
松本 たしかに比べると、そんな印象を持つユーザーは多いだろう。そこでホンダ側は〝値引きでカバー〟戦術を採ってくるとみていい。実際、昨年末、新型スペーシアが発売されたのをきっかけにN-BOXの値引き条件は緩む傾向が出てきている。
担当 具体的にはどんな感じですか?
松本 N-BOXの値引きの基本は5万円程度に設定しているディーラーがほとんどだ。もっとも、セールスマンに本音を訊くと「この程度の値引きで買ってもらえるとはまったく思っていない」そうだ。実際は10万円前後を出してくるケースが目立つ。
担当 10万円ですか……ここからが勝負(笑)ですよね。
松本 ここからは攻め方しだいだね。タントやルークスをぶつけても反応は鈍いけれど、相手がスペーシアとなると、ホンダ側は本気になってくる。正直、付属品をたっぷり付けたら15万円引きでもものたりない。ズバリ、20万円超を目指したいところだ。
担当 軽自動車で20万円オーバーとなると、気持ちがググッと動きますよね。スペーシアはどうですか?
松本 おとなしく商談すると「新型なのであまり値引きできません」なんていって、7~8万円引きでストップしてくるケースが目立つね。でも、相手かN-BOXとなると、とたんに「負けてなるか!」と上乗せしてくる。これまた付属品の値引きを含めて20万円オーバーが狙えるだろう。それに買得なのはN-BOXとスペーシアだけじゃないよ。タントやルークス/eKスペース、デリカミニといったクルマも競合交渉を仕掛ければ〝値引きで勝負〟に出てくることは間違いない。
担当 この秋はバリエーションが拡大されるN-BOXとスペーシアが台風の目になるでしょうから、つまり、軽スーパーハイトワゴンがまさに〝買い頃、たたき頃!〟ってわけですね。
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