
SA22はまず日本で発売され、次いでメイン市場となる米国、そして欧州へと導入されていく。開発の前提にあったのがロータリーエンジンのアドバンテージを最大限に生かす「RE専用スポーツカー」であること。そしてもうひとつが「Affordable Price」(手が届く価格)。当初4000ドルあまりを目標として開発は進められたが、折からの円高もあって、米国での販売価格は6995ドルとなった。それでも欧州のスポーツカーより随分と安い。その高性能やフォルムも大いに評価され、米国販売直後は「早く欲しい」とプレミアムまでついたという。
●文:横田晃
サバンナRX-7リミテッド(1978年式)
●全長×全幅×全高:4285mm×1675mm×1260mm ●ホイールベース:2420mm ●車両重量:1005kg ●乗車定員:4名 ●エンジン(12A型): 直列2ローター573cc×2 ●最高出力:130PS/7000rpm ●最大トルク:16.5kg・m/4000rpm ●0-400m加速(2名乗車):15.8秒 ●最小回転半径:4.8m ●燃料タンク容量:55ℓ ●トランスミッション:前進5段、後進1段 ●サスペンション(前/後):マクファーソンストラット式独立/4リンク+ワットリンク ●タイヤ:185/70SR13 ◎新車当時価格(東京地区):169万円 ※3速AT車は173万円
前輪の車軸より後ろにエンジンを積む「フロントミッドシップ」は、コンパクトなロータリーエンジンと2by2という"割り切り" なくして実現しなかった。そしてこのレイアウトから、50.7対49.3という理想的な前後重量配分、極めて低いフロントノーズによる先鋭的なシルエットが生まれた。
「ガス喰い」と呼ばれたロータリーエンジンの不死鳥の如き闘い
自由の国、アメリカは、時に油断も隙もない国でもある。オイルショック直後の1973年秋にEPA(合衆国環境保護局)が発表したロータリーエンジンの燃費テストデータも、その一例だ。 彼らはロータリーエンジンにとっては悪条件となる、主に市街地を想定した低速モードの燃費テストの結果をいきなり公表。ご丁寧に「ロータリーエンジンはガスガズラー(ガス喰い)である」というコメントまで付けたのだ。そうして、東洋工業(現・マツダ)の独自技術であるロータリーエンジンは、頼みの北米市場において致命的なダメージを負ったのだった。
そもそもロータリーエンジンは、国内の自動車メーカーを数社に集約しようとする通産省(現・経済産業省)の構想に対抗して生き残るための、マツダの命綱だった。当時の西ドイツから不利な条件で購入した未完成の技術を、マツダは不屈の精神で完成。1967年のコスモスポーツを皮切りに、1970年のファミリア、1971年のカペラ、1971年のサバンナと、ロータリーエンジンの搭載車を増やした。その技術力は、米国のメーカーが達成不可能と主張した厳しい排ガス規制もホンダのCVCCエンジンに続いてクリア。マツダの北米における販売台数を、1970年の1万台以下から、1973年には15万台まで伸ばす原動力となった。
中東戦争によるオイルショックから発生した「燃費問題」 そのスケープゴードとなったロータリーエンジン
ところが、1973年に勃発した中東戦争を引き金に起こったオイルショックで原油価格が高騰すると、それまでガソリンをがぶ飲みする5L、6Lの大排気量車を愛用していたアメリカ人が、急に燃費を意識するようになる。そのタイミングに合わせたEPAのステートメントは、ビッグ3が造る大排気量車の燃費から目をそらさせつつ、急激に勢力を伸ばしてきた日本車をけん制するための、いじめにも似た政治的攻撃とも言えた。そうして、パタリと売れ行きが止まり、在庫の山を抱えたマツダでは、ひとつの商品企画がお蔵入りを余儀なくされた。1970年から検討されていた、コスモスポーツの後継車となるロータリーエンジン専用スポーツカーの企画だ。アメリカ発のロータリーエンジンへの燃費攻撃は日本にも飛来し、ロータリーの「ガス喰い」という評判はたちまち定着してしまった。のちにマツダ社長となる山本健一氏を始めとする開発陣は、フェニックス計画と名付けてロータリーエンジンの改良に取り組み、数年のうちにはじつに40 %もの燃費改善に成功するのだが、時すでに遅し。実用モデルに関しては、レシプロエンジン車をメインに商品構成を再構築するしかなかった。
S53年排ガス規制にも適合した12A型ロータリー
日本版マスキー法といわれた厳しいS50年規制の後も排ガス規制強化は続き、この頃国産のスポーツエンジンは次々カタログから消えていった。そんな中、NOx排出量が少ないロータリーは排ガス浄化がしやすく、RX-7はサーマルリアクター方式にEGRバルブを装着しただけで昭和53年規制をクリアしている。
ポルシェの性能を持つ本格的なスポーツカーを実用車並みの価格で提供した初代サバンナRX-7
しかしマツダは、ロータリーエンジンを諦めたわけではなかった。山本ロータリーエンジン開発部長は「ロータリーで失った地盤はロータリーで奪い返す」と決意を口にし、開発陣は燃費も動力性能もたゆまず磨き続けた。そうした努力が報われるきっかけは、1975年に行われた北米の市場調査の結果だった。商品企画担当者らが自ら現地に飛び、ユーザーからの直接の聞き取りなどで得たデータは、それまで国内だけで考えていたユーザー像とはまったく異なるものだった。当時、日本ではスポーツカーとは限られた若者の乗り物と考えられていた。それを求める人はレースなどに興味を持ち、ともすれば公道でも飛ばす暴走族と見なされることさえあった。作り手だけでなく、多くの国民や行政もそうした見方をしていたために、スポーツカーを堂々と名乗るクルマの販売は憚られる状況だったのだ。
イメージカラーのマッハグリーンはチェック柄のベージュインテリアを採用。スポーツカーというより、スペシャリティカー/セクレタリーカーといった印象だ。
リヤはフレームレスのガラスハッチを採用する。
ところが、北米のスポーツカーユーザーは違っていた。2人乗りでも主な使い方は通勤や通学であり、ユーザーの半数は女性。年代も幅広く、購入時には価格を重視する一方で、高性能への憧れも強く、多くの人がいつかはポルシェに乗りたいと答えたのだ。すなわち、ポルシェの性能を持つ本格的なスポーツカーを実用車並みの価格で提供できれば、大きな成功が約束される。そして、その商品企画の実現には、小型軽量で高性能なロータリーエンジンはうってつけだったのだ。オイルショック後の経営不振のために銀行から受け入れていた経営陣も、マツダの独自技術であるロータリーエンジンの特性を生かした企画に賛同した。そうして、開発は急ピッチで進み、本格的な設計着手からわずか1年3か月で量産にこぎつけたのがSA22型初代サバンナRX-7だ。
スポーツカーが色眼鏡で見られていた当時の日本では、2シーターは運輸省も認可しないという悪者扱い。そこで海外では2シーターと割り切った流麗なシルエットの中に、日本向けは狭いながらも後席を備えた2+2とした。
当時の海外向けのロータリーエンジン車には初代カペラ(RX-2)、初代サバンナ(RX-3)、2代目コスモ(RX-5)がラインナップされていたが、開発コードX605のロータリー専用スポーツカーはラッキー7を当て込んで、RX-7と命名された。本物のスポーツカーのフォルムと性能を大衆車の価格で実現させたRX-7は、日米双方の市場で数か月分のバックオーダーを抱える爆発的な人気を呼んだのだ。
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