
2024年12月20日、与党である自民・公明両党が令和7年度与党税制改正大綱を決定し発表した。ニュースで大きな話題になっている「年収103万円の壁(控除額を123万円に引き上げる)」だけでなく、ついに「自動車取得時における負担軽減等の課税のあり方を見直す」と明記された。ここで「ついに」と書くのは、過去、今まで、自動車取得時の車体課税については、日本自動車工業会や地方自治体の首長から幾度も提言が行われてきた問題だからである。どう変わるかは、令和8年(西暦2026年)度税制改正で結論を得る、とされているが、“クルマを買う”時と所有中の税負担軽減へ期待が高まる!
●文:月刊自家用車編集部
マルチパスウェイ戦略の下で、多様なパワートレーンが併存していくことをふまえた税制とする
そもそも現行の自動車税制が何が問題なのかといえば、購入時の“自動車税の環境性能割”は消費税との二重課税。毎年払う自動車税や軽自動車税は、エンジンの小排気量化やBEV(電気自動車)など電動車の時代に対応できていないし、クルマが贅沢品時代の資産課税として課税されている。重量税についても高度成長期の旧暫定税率が約50年も残存しているという状態だ。
この課題について日本自動車工業会や愛知県をはじめとする8県知事2政令市長は、問題定義を行い、自動車諸税におけるユーザー負担の一段の軽減と簡素化など、抜本的な見直しを働きかけてきた。
今回の税制改革大綱では、働きかけで要望されてきた見直し内容がほぼ反映された内容になっている。
まず、自動車産業は「基幹産業」と明記され、技術面や国際環境など、大きな変化を迎えている中、自動車関係諸税の見直しについて、わが国の技術的優位性をふまえた「マルチパスウェイ」などの自動車戦略/カーボンニュートラル目標をふまえて、車体課税/燃料課税を含む総合的な観点から検討し、産業の成長と財政健全化の好循環の形成につなげていく、としている。
そして、自動車関係諸税の総合的な見直しとして、「2050 年カーボンニュートラル」目標の実現に積極的に貢献するものでなければならない、としたうえで、マルチパスウェイ戦略の下で、多様な動力源(パワートレイン)が併存していくことをふまえた税制にする、と明記された。
このマルチパスウェイ戦略とは、トヨタ自動車が提唱し実行している戦略で、ガソリン車(ICE)/ハイブリッド(HEV)/BEV(バッテリーEV)/FCEV(燃料電池)/PHEV(プラグインハイブリッド)などが併存して存在、その用途に適した領域で併存していくというものだ。
具体的な方向性は示されていないが、車体課税の見直しについては、国と地方の税収中立の下で、取得時における負担軽減など課税のあり方を見直すとともに、自動車の重量および環境性能に応じた保有時の公平/中立/簡素な税負担のあり方などについて、関係者の意見を聞きながら検討するとしている。
また、利用に応じた負担の適正化に向けた課税の枠組みとして、異なるパワートレーン間の税負担の公平性や将来へ向けた安定的な財源の確保やユーザーの納得感の観点から、利用に応じた負担について使途、執行/関係技術等をふまえ検討し、車体課税の見直しとともに、令和8年度税制改正において結論を得る、としている。
自動車関係諸税について問題定義を行ってきた日本自動車工業会会長・片山正則氏は、「自動車業界が置かれている現状に十分目配りをしながら、自動車関係諸税見直しの方向性を取り纏めた関係者の皆様方のご尽力に、深く感謝申し上げます。今回の税制改正大綱で、当会が車体課税に関して強く主張してきた“国内市場活性化の観点からの取得時の負担軽減”や“自動車の重量及び環境性能に応じた保有課税の税負担のあり方”について、見直すことが明確に示されたことは大きな前進であると受け止めております」とコメント。
令和7年度税制改正において「自動車諸税の抜本的な見直しを求める緊急声明」に参加した首長のひとりである愛知県知事・大村秀章氏も「引き続き、全国の有志の知事/市長、自動車関係団体の皆様とともに、自動車諸税の見直しが適切かつ確実に実施されるよう、政府/与党に対する働きかけを継続し、地域経済の活力や雇用の維持/拡大に全力を傾注してまいります」とコメントしている。
今回の税制改正大綱では、「消費税に一本化する」「環境性能割の廃止」など具体的な方針は示されておらず、今後に向けて含みを持たせる言い方となっている。見方によっては令和8年度税制改正へ結論を先送りしたようにも見えるが、自動車関係諸税見直しについて具体的な文言が入ったのは素直に評価したい。
ただし、現在の国会は衆議院において与党過半数割れの状態にあり、野党の賛同なしには税制改正も行えないのが実情だ。2025年7月には参議院選挙も控えており、結果によってはさらに混迷を深める可能性もあるが、長年、自動車ユーザーを悩ませてきた自動車関係諸税の問題について、きちんと答えを出してもらいたいものだ。今回、税制改正大綱に書かれたことを私たちメディアも注視し、その行方から目をそらさずに追いかけていくつもりだ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(交通/社会問題)
クルマ開発センター フェロー 御沓悟司氏が登壇 今回の安全技術説明会には、クルマ開発センターのフェローに就任し、車両安全技術全般の責任者も務める、御沓悟司氏が登壇。1990年の入社時から現在まで、長ら[…]
道路管理も先進技術で高度・確実に みなさんも見かけたことがあるだろう、黄色く塗られた高速道路の巡回管理車両。交通管理隊が使用する、「高速道路パトロールカー」だ。その名の通り高速道路上に異物、事故などの[…]
保険料引き上げのおもな理由は「2つ」 そもそも、なぜ保険料が値上がりするかというと、保険各社の「保険金の支払いが急増しているから」だ。交通事故増加などで支払いが増えれば、各社の収支は当然悪化する。これ[…]
自然と速度が落ちていく場所が、大渋滞のスタート地点 お盆シーズンは、長期休暇と相まって帰省や行楽地へ向かうクルマで大渋滞となるのが恒例です。どうしても出かけなければいけないなら、なんとかこの渋滞を回避[…]
病院などのそばに設けられている高齢者専用駐車場に、非高齢者が駐車してはいけないの? 高齢者専用駐車場は、病院/高齢者福祉施設/身体障害者施設/官公庁施設など、高齢者が日常生活で頻繁に利用する施設の周辺[…]
最新の関連記事(ニュース)
上質なコンパクトカーに新たな選択肢 プジョー208は、優れた取り回しと洗練されたデザインが評価されているハッチバックモデル。現行モデルは、独自設計のi-Cockpitの採用や、運転支援機能が強化された[…]
2026年度内の量産化を公言 スズキブースの目玉は「Vision e-Sky」と名付けられた、軽EVのコンセプトモデル。 スズキは「日々の通勤や買い物、休日のちょっとした遠出など、軽自動車を生活の足と[…]
クルマ好きに贈るとっておきの一冊 自動車がとても珍しかった戦前から、販売台数過去最高を記録した1990年代までのクルマ業界の成長を振り返ることで、ニッポンの物づくりの力強さと開発者たちの熱い想いを肌で[…]
STIと並ぶもう一つの柱として、大きな期待を持ってデビュー ベースとなるプラットフォームは生産もトヨタに委託しているソルテラと共通だが、スバルのBEVとしては初めて自社の矢島工場での生産となるトレイル[…]
クロストレックが「ゴツい」タフ仕様に進化 クロストレックは、コンパクトなボディに本格的なSUV性能とラギッドかつスポーティなデザインを兼ね備え、都会からアウトドアまで幅広いシーンで活用できる多用途性を[…]
人気記事ランキング(全体)
車内には、活用できる部分が意外と多い カーグッズに対して、特に意識を払うことがない人でも、車内を見渡せば、何かしらのグッズが1つ2つは設置されているのではないだろうか。特に、現代では欠かすことができな[…]
日常擁護型の本格キャンパー 街乗りの実用性とキャンピングカーの快適性。その両立は多くのモデルが言葉として掲げるが、実際に成し遂げるのは容易ではない。その点、日産のディーラー直営ショップが手掛ける「スペ[…]
ブラック加飾でスポーティ感を演出した、日本専用の上級グレードを投入 2022年より海外で展開している6代目CR-Vは、国内向けモデルとしてFCEV(燃料電池車)が投入されているが、今回、e:HEVを搭[…]
「’41」と名付けられた特別なミリタリーグリーン色を採用 ラングラー ルビコンは、世界で最も過酷な山道と言われるルビコントレイルを走破するモデルとして命名された、ジープのラインナップの中で最も高いオフ[…]
ホイールベース拡大を感じさせない、巧みなパッケージ設計が光る 2012年に登場した初代CX-5は、魂動デザインとSKYACTIV技術を全面採用した、マツダ社内では6世代商品と呼ばれているシリーズの第一[…]
最新の投稿記事(全体)
上質なコンパクトカーに新たな選択肢 プジョー208は、優れた取り回しと洗練されたデザインが評価されているハッチバックモデル。現行モデルは、独自設計のi-Cockpitの採用や、運転支援機能が強化された[…]
「’41」と名付けられた特別なミリタリーグリーン色を採用 ラングラー ルビコンは、世界で最も過酷な山道と言われるルビコントレイルを走破するモデルとして命名された、ジープのラインナップの中で最も高いオフ[…]
2026年度内の量産化を公言 スズキブースの目玉は「Vision e-Sky」と名付けられた、軽EVのコンセプトモデル。 スズキは「日々の通勤や買い物、休日のちょっとした遠出など、軽自動車を生活の足と[…]
BEVとしての基本性能を大きく底上げ 2021年にスバル初のグローバルバッテリーEV(BEV)として登場したソルテラは、電動駆動の利点を追求しつつ、余裕あるSUVボディや先進の安全装備機能が充実するな[…]
クルマ好きに贈るとっておきの一冊 自動車がとても珍しかった戦前から、販売台数過去最高を記録した1990年代までのクルマ業界の成長を振り返ることで、ニッポンの物づくりの力強さと開発者たちの熱い想いを肌で[…]
















