ハチロクの搭載エンジン「4A-G」を深堀り! 走り好きから愛される理由とは?

昨今の国産旧車の人気はかなりの勢いが続いているが、中でもトヨタのカローラ・レビンと「スプリンター・トレノのハチロク兄弟は、マンガ「頭文字D」での大活躍もあって、ジャンルを代表する一台としても有名だ。今回はそんなハチロクのコア技術ともいうべき「4A-G」エンジンに注目。その特徴と強みの部分をお教えしよう。

●文:往機人

「4A-G」エンジンとは?

トヨタ中型エンジン「A型」の4世代目にあたる高性能ユニット

ハチロクの心臓部ともいえるエンジン。その形式は「4A-GE」で、1587cc直列4気筒DOHCユニットになります。Eを抜いて「ヨンエージー」というのが一般的な呼ばれ方です。

主なスペックは以下の通り。
エンジンタイプ — 直列4気筒DOHC(ツインカム)
排気量 — 1587cc
ボア×ストローク — 81.0 mm×77.0 mm
圧縮比 — 9.4
最高出力 — 130ps/6600rpm※
最大トルク — 15.2kgm/5200rpm
※出力はエンジン単体の計測値(グロス)

このエンジンはトヨタの中型排気量を受け持つ「A型」シリーズ(2代目)の系譜に属します。開発された順に「1A」から「8A」まで作られ、「4A」は真ん中辺りの世代の1600ccクラスのユニット。

「4A-GE型」は、ベースモデルであるSOHCヘッドの「4A-C型」から派生した「4A」グループの中で最も高性能な設計が施されたエンジンになります。

カタログ上の最高出力は130psとなっていますが、これはグロス値というエンジン単体での計測値なので、今の車軸で計測するネット値に換算すると約110ps強。

数値だけを今の基準と比較すると、低燃費タイプのエンジンと比べても見劣りしそうですが、当時の基準では最高レベルの出力を誇っていました。

ツインカムヘッドの開発にはヤマハが関与してた?

“4A-G”に関してはトヨタの自主開発。でも技術的な背景からすると、影響を受けたのは間違いなさそう

この“4A-G”ユニットは、それ以前に小型スポーツ車に搭載されていた“2T-G型”の後継機種として開発されたモデル。

その“2T-G型”をはじめ、その頃のトヨタのツインカム仕様エンジンはヤマハとの共同開発で製作されたモデルが多かったのですが、この“4A-G”に関してはトヨタの自主開発とされています。

しかしかなりの類似点がある兄貴分の“1G-GE型”ユニットは、ヤマハがヘッドを開発したということなので、直接ではないにしろ、それらで得た知見などが“4A-G”にも注がれたと見る方が自然でしょう。

エンジンの性格は?

速さは普通でも、心地よい加速フィールが楽しめるタイプ

出力こそ今の基準では平均に紛れてしまう数値ですが、ショートストロークに設計された腰下と、レース用エンジンの開発力に定評のあるヤマハ発動機のDNAを汲むツインカムヘッドの組み合わせにより、レッドゾーンの始まる7700rpmまで気持ちの良い回転の上昇感を味わうことができます。

実際の速さは大したことは無いのですが、回転を引っ張ってツインカムサウンドを響かせながら加速を楽しんでいると、速度計の数値は気にならなくなってしまうくらい、心地良い加速感が楽しめます。この爽快なフィーリングが楽しめることも、ハチロクが愛されている理由といっていいでしょう。

吸気圧力を検知して燃料噴射量を制御するEFI-Dなど、最新技術も導入され高性能と低燃費を両立した4A-GEU型エンジン。鋭い吹き上がりに定評があった。

1983年に登場したAE86。トヨタはライバルに比べるとFF化は比較的遅く、セダン系はこの世代からFFに移行しているが、2ドア系はFRプラットフォームのまま登場となった。写真は2ドアノッチバックのレビン。

エンジンの信頼性、耐久性は?

抜群の強度を誇る、際立つタフネスさも見どころ

その素性の良さからチューニングのベースとしても持て囃された「4A-G」ですが、実は隠れた最大のポイントと言えるのがそのタフネスさです。

例えば、ドリフト車輌で活用されているのもそのタフさの現れでしょう。

高回転を維持しながらリヤタイヤを空転させるドリフト走行では、エンジンに掛かる負担もかなりなものですが、4A-Gはそうして酷使されながらも音を上げないタフさを体現しています。

このタフネスさの要因ですが、まず鋳鉄製のシリンダーブロックの採用がその耐久性を下支えしている点が大きい。重量面では不利になりますが、強度の点ではアルミ製のシリンダーブロックに大きなアドバンテージを持っていますので、基本の耐久性をはじめ、高回転になるほど増してゆく振動や負荷に対する強さも発揮してくれるのです。

チューニングのベースエンジンとしても優秀

ボアアップがしやすい構造で排気量アップも容易

また「4A-G」は、チューニングにおいても有利なエンジンということも見逃せません。

パワーを求める方法のひとつにボアアップがありますが、これはピストンの径を広げて排気量を増やすメニューで、これにはシリンダーボア径の拡大が必須です。

ボアの径を拡大するということは内側の肉を削ることになるため、厚みが薄くなり、シリンダーの強度が落ちてしまいます。このときシリンダーの強度がモノをいうので、強度の高い鉄が有利になります。

また、ツインカムヘッドという仕様もチューニング心をくすぐるポイントのひとつ。

吸気と排気に別々の2本のカムシャフトを持つツインカムヘッドは、パワーを稼ぐには最も適したバルブ駆動方式。実際にハチロクがデビューした時代は、高性能エンジンの象徴としてトヨタが「ツインカム」というワードを用いていましたし、それ以前から現在に至るまで、レースシーンでは(一部を除き)ツインカム(DOHC)が前提となっています。

当時、純正エンジンのままでは、耐久性や環境性能などの制約があるため、そのポテンシャルをあまり発揮してはいませんが、ワークスマシンのエンジンは、レースを走りきる耐久性を確保しながら170〜190psを悠々と発生させていました。ちなみに現在の競技向けチューニングの最高域は200ps(1600cc仕様)に届いているほどです。

なお、4A-Gの系譜には、AE86型に搭載された初代から、AE92型に搭載された強化版とスーパーチャージャー仕様、そしてAE101型とAE111型に搭載された5バルブ仕様という進化のバリエーションがあります。最後期の“111版”ではノーマルで160psを発揮するので、パワーはそれくらいで充分という人には耐久性がたっぷり残された純正エンジンに載せ替えるという手法が刺さり、大いに流行ったほどです。

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