ポルシェが初採用。モータースポーツ由来の技術が欧州で普及。スポーティな走行が楽しめるのが魅力。その仕組みを解説│月刊自家用車WEB - 厳選クルマ情報

ポルシェが初採用。モータースポーツ由来の技術が欧州で普及。スポーティな走行が楽しめるのが魅力。その仕組みを解説

ポルシェが初採用。モータースポーツ由来の技術が欧州で普及。スポーティな走行が楽しめるのが魅力。その仕組みを解説

【クルマのメカニズム進化論 Vol.1】トランスミッション編(4)〜ツインクラッチ〜
モータースポーツ用としてポルシェが開発したツインクラッチトランスミッションはアウディによって市販車に採用された。VWグループをはじめ、ヨーロッパではステップATに代わるものとして普及している。
(※この記事は、オートメカニック2016年当時の記事を再編集したものです。)

●文:オートメカニック車編集部

偶数段と奇数段の2つのクラッチを交互に切り替えるのがツインクラッチ

第3のオートマチックトランスミッションともいえるのがツインクラッチを採用したトランスミッションだ。偶数段と奇数段用の二つのクラッチを備え、交互に切り替えていく。

クラッチの断続とギヤの選択は電子制御されたアクチュエーターによってコントロールされるため、ドライバーの仕事はなく、ステップATやCVTのようなイージードライブが可能だが、マニュアルによってギヤを選択することもできる。

各メーカーが採用したが、普及には及ばなかった…

クラッチ断続の自動制御は新しいメカニズムというわけではない。1960年代、ヨーロッパでは煩雑なクラッチ制御をなんとかしようと、盛んに自動クラッチの開発が行われた。電磁式、油圧式、機械式などのほかに真空式でクラッチの断続を行うものも実用化された。

国産車でもコロナ、ブルーバード、日野コンテッサが取り入れた。その後、いすゞアスカ、トヨタMR2が油圧アクチュエーターで乾式クラッチを自動断続する方式を採用したが、普及しなかった。

アウディA3に搭載されたDSGの構造図。同心円上に二つのクラッチがあり、それぞれが偶数段と奇数段の断続を受け持った。ATのほかギヤのマニュアル選択も可能とした。

VWに採用された初期のDSGの構造。偶数段用と奇数段用のクラッチは各4枚で構成されている。ユニット内はフルードで満たされた湿式となっている。

ポルシェがCカーに初採用。ツインクラッチでシームレスシフト

クラッチを二つ用意し、それを交互にアクチュエーターで断続すれば、マニュアルトランスミッションのような高い伝達効率とオートマチックトランスミッションのようなタイムラグの少ないスムーズな変速ができる。これを思いついたのはポルシェだった。大排気量のターボエンジンを搭載したレース用の962にPDK(ポルシェ・ドッペル・カップルング)と名付けて搭載した。しかしすぐには市販車への搭載には結びつかなかった。

1980年代Cカーレースでライバルに伍して最強を誇ったポルシェ962。PDKと名付けたツインクラッチを採用したトランスミッションを搭載していた。

2003年、アウディはコンパクトなA3にツインクラッチトランスミッションを採用した。市販車では世界初のことだった。以後、VWグループは採用車を拡大していった。

2003年になって同様のアイディアを採用したトランスミッションがVWグループとボルグワーナーによって実用化され、DSG(ダイレクトシフト・ギヤボックス)と名付けられてアウディA3に搭載された。市販車のツインクラッチトランスミッションの元祖といえるものだ。

マニュアルトランスミッションのような乗り味が楽しめるツインクラッチ

ポルシェ962のPDKがクラッチのみを自動切り替えするのに対し、アウディA3のそれはギヤの選択も自動化された。ドライバーはクラッチ操作もギヤシフト操作もなしに、マニュアルトランスミッションと同様のスリップ感のないドライバビリティが得られるようになり、さらに手動でギヤ選択もでき、スポーティなドライビングも楽しめるようになった。

メカニズムは二つのクラッチ、偶数段と奇数段のギヤ、電子制御油圧アクチュエーターからなっている。それぞれのクラッチは奇数段のギヤシャフト、偶数段のギヤシャフトに繋がれ、奇数段のクラッチが繋がれている時は次に使われる偶数段のギヤは噛み合ってはいるがクラッチが開き、偶数段の出番になると瞬時にクラッチが繋がれる。シフトアップ、シフトダウンのたびにすべてのギヤがシームレスに活用される。

これにエンジン回転制御が加わる。シフトアップではエンジン回転を抑え、ダウンではブリッピングが行われる。

軽量モデル用として開発されたVWグループの7速DSG。シングルクラッチが同心円上ではなく、並列に配置されているのが大きな特徴だ。

大出力車用に用いられているVWグループの最新DSG。構造は初期のそれと大きく変わることなく、同心円上に二つのクラッチが設けられ、湿式でクラッチの冷却に対応している。

二つのタイプのDSG。乾式と湿式を使い分け

A3に採用されたDSGのクラッチは同心円上に大、小の多板クラッチを配置し、満たしたフルードで冷却する。その後、VWグループが採用したのは乾式クラッチを並列に並べた7速で、主に大トルクエンジンではない小型車に採用され、エンジンの最大トルクによって湿式と乾式を使い分けている。

国産車では三菱がランサー・エボリューションに並列湿式、日産GTRも同様のトランスミッションを採用。ホンダはフィット・ハイブリッドにシェフラー製の並列式、NSXに9速を採用している。

国内では小型車はCVT、中・大型車はステップATの採用例が多いが、ヨーロッパではマニュアルトランスミッションの普及率がこれまで高く、それに代わるものとしてツインクラッチトランスミッションの普及が始まっている。

VW乾式7速DSGの二つのクラッチとギヤ配置。偶数段が図で紫色に区別されたクラッチに、奇数段が緑色に区別されたクラッチに接続され、交互に変速を繰り返す。VWは7速だが、ホンダは9速を実用化している。

ポルシェ911が採用するツインクラッチトランスミッション。962の時代と同様のPDKと名付けられている。こちらのほうが元祖ともいえなくはない。

※この記事は、オートメカニック2016年当時の記事を再編集したものです。

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