
【クルマのメカニズム進化論 Vol.2】サスペンション編(1)~フロントサス~
最初に作られた四輪自動車は馬車の車台を改造したものだった。懸架装置はショックアブソーバーもなく、板バネを縦に組み合わせたもの。サスペンションはここから進化を続けてきた。
※この記事は、オートメカニック2018年1月号の企画記事を再編集したものです。
●文:オートメカニック車編集部
馬車の時代から採用されていたサスペンション
サスペンションを日本語にした懸架装置という言葉が長く使われていた。その名のとおり、初期のサスペンションは車輪を車体から吊すものととらえられていたのだ。
サスペンションは自動車が発明される前の馬車の時代から存在していた。板バネを単体、または複数組み合わせて、進行方向と平行に設置した。この方式はダイムラーによって開発された世界初の4輪ガソリン自動車にも踏襲された。
1902年に製造されたベンツ。馬車の車台から大きく抜け出したものではなく、前後に板バネを組み合わせたサスペンションを装着していた。
シンプルでありながら路面の凹凸を吸収するこの方式は1930年代まで自動車のサスペンションの主流となり、板バネを横に置くバリエーションも出現した。
1931年に製造されたベンツ170。板バネを上下に配置。構造材としても活用し、ダブルウィッシュボーンのような効果も持たせている。シンプルでありながら工夫に富んだ形式。
フロントサスペンションは操舵機能と組み合わされる。タイヤを転舵してもサスペンションの動きに影響を与えない構造でなくてはならない。そこで考案されたのがキングピン。両端にキングピンを備えたトランスバースリンクを板バネで吊るという方式に行き着いた。
1926年製のベンツ。頑丈なフレームで左右のキングピンを繋ぎ、それを板バネで支える形式へと進化した。この方式は1900年代前期の多くのクルマに採用された。
コイルスプリングの登場 、そしてダブルウィッシュボーンの時代へ
前後長の長い板バネを車体にセットするにはかなりのスペースを必要とする。リヤサスペンションではこの規制はかなり緩和されるが、フロントサスペンションでは車体構造の進化とともに成り立ちにくくなっていった。そこに登場したのがコイルスプリングだった。ショックの吸収性に優れ、しかも広いスペースを要求しない。1940年代から自動車製造メーカーの多くがコイルスプリングを用いたダブルウィッシュボーン方式のサスペンションをフロントに採用するようになっていった。
この方式はフロントサスペンションの主流となり、多くの自動車に採用されたが、1951年、革新が起こる。アメリカのエンジニア、マクファーソンが考案したストラット形式のフロントサスペンションがイギリス・フォード製のコンサルに採用されたのだ。
ダブルウィッシュボーンは優れた構造には違いないが部品点数が多く、重く、スペースを必要とする。ストラットは構造がシンプルで部品点数が少なく、軽量で設置スペースも少ない。最初は懐疑的な目で見られた革新も次第に採用車が増え、ストラット方式はフロントサスペンションの定番として今に至っている。
アウディA4のフロントサスペンション。アッパーアームの先端はツインピボットとなり、仮想のピボットはその先に設定される。これによってキングピンオフセット設定の自由度が高まり、理想的なセッティングが行えるようになった。
ダブルウィッシュボーンは過去のものになったわけではない。ストラットに主役の座を奪われてからも、上級車やスポーツカーになくてはならない方式だった。バンプ、リバウンドによるキャンバー変化の制御がストラットに比べて格段にしやすいそれは、接地性を最優先するクルマになくてはならないものだった。今でもオープンホイールのレーシングカーのすべてがこの方式を用い、スポーツカーの多くが採用している。
さらに熟成されたホンダが発明したフロントサス
1982年、2代目のホンダ・プレリュードが登場した。開発の命題はフロントフードを100㎜下げスタイリッシュなデザインにすること。従来のストラットを用いたのでは不可能なこの命題に応えたエンジニアが考案したのはダブルウィッシュボーンの新種だった。この方式だとキャンバーコントロールの他にキングピン角度の設定の自由度も高まる。
ハイマウントアッパーアーム方式はしだいに世界の自動車メーカーに普及する。初期のホンダのそれは一本のアッパーアームだったが、複数のリンクを用い、さらに仮想のピボットを設けられるリンク構造を採用するものも現れた。ストラットが最初の革新だとすれば、ホンダ方式は第2の大革新だといえる。ホンダだけでなく、他の国内メーカー、そしてアウディ、ダイムラー、ポルシェなどヨーロッパ各メーカーの上級車にとって、なくてはならないフロントサスペンション形式となっている。
ダブルウィッシュボーンが過去のものになかったわけではない。一部のスポーツカーやレーシングカーにとってなくてはならない形式だ。写真はホンダNSX。
インディカーのフロントサスペンション。オープンホイールのレーシングカーのすべてがこのようなシンプルな構成のダブルウィッシュボーンを採用していた。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(旧車FAN)
世界に通じる内容を携えて、マイカー元年に発売された技術者集団の渾身の小型車 1966年を日本のマイカー元年とすることに、異を唱える人は少ないだろう。同年4月23日の日産サニーと、同年11月5日のトヨタ[…]
1981年にデビューした2代目セリカXXは、北米では「スープラ」の名前で販売されていた。(写真は北米スープラ) 初代は“高級な”スペシャリティカー路線、ソアラの前身となったモデルだった 「セリカ」は、[…]
サンバーライトバンデラックス(1964年型) 経済成長に沸く1960年代、軽四輪トラックが街の物流の主役だった 戦後の復興期から高度経済成長のピークとなった1960年代末にかけての日本の経済・産業の構[…]
ツインターボの圧倒的なトルクパワーは当時から評判だった。でもなぜV6なのに横置きにしたのか? 三菱「GTO」が発売されたのは1990年です。 当時の国内メーカーは、280馬力の自主規制の枠内でいかにハ[…]
ホンダの四輪黎明期を彩る個性派モデル ホンダは、軽トラックの「T360」をリリースし、続けてオープンスポーツの「S500」を世に放ち、ホンダの意気込みを強く印象づけました。 そしてその後に本命の大衆[…]
最新の関連記事(ホンダ)
多岐にわたるコンテンツを、メインプログラムにも出展 「ジャパンモビリティショー2025」の日本自動車工業会主催のメインプログラムでは、体験型の未来モビリティが集結。 ホンダは、未来の移動からモビリティ[…]
今年2月に開催された「Modulo THANKS DAY」の1カット。 モデューロと無限の熱き共演が実現 「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」は、ホンダアクセスが手掛けるホンダ純正の[…]
発売後1ヶ月で月間販売計画の8倍を記録 プレリュードは、発売から約1カ月後の10月6日時点で累計受注台数が約2400台を記録するなど、月間販売計画の300台を大幅に上回る約8倍の好調な滑り出しを見せて[…]
軽四輪順位は、10年連続の第1位を達成 N-BOXシリーズは、2011年12月の初代発売以来、累計販売台数は順調に増加し、2023年12月には250万台を達成。さらに、直近の年度実績でも、軽四輪車順位[…]
「12R」は、最高出力200PSを誇り、フルバケットシートなどの専用装備を備えた200台限定のメーカーコンプリートモデルになる。 「ロードスター 12R」は商談予約抽選を実施 両モデルとも、スーパー耐[…]
人気記事ランキング(全体)
家族で出かけたくなる「軽」な自由空間 週末に川遊びや登山、キャンプなどで思い切り遊んだあと、そのままクルマで一晩を過ごす――。そんなシーンを想定して生まれた軽キャンパーがある。限られたボディサイズの中[…]
なぜ消えた?排気温センサー激減のナゾ 排気温度センサーは、触媒の温度を検知し、触媒が危険な高温に達したときに排気温度警告灯を点灯させるためのセンサーだ。このセンサーは、いつのまにか触媒マフラーから消滅[…]
自動車整備の現場では、かなり昔から利用されているリペア法 金属パーツの補修材として整備現場ではかなり昔から、アルミ粉を配合したパテ状の2液混合型エポキシ系補修材が利用されている。 最も名が通っているの[…]
積載性が優れる“第三の居場所”をより快適な車中泊仕様にコンバージョン ロードセレクトは新潟県新潟市に本社を構えるキャンピングカーや福祉車両を製造•販売している会社。オリジナルキャンピングカーはロードセ[…]
普段使いのしやすさを追求した「ちょうどいい」サイズ感 キャンピングカーに憧れても、運転のしやすさを考えると二の足を踏む人は多い。特に女性ドライバーや家族で使う場合、「軽では狭いけれど、フルサイズは扱い[…]
最新の投稿記事(全体)
車中泊を安心して、かつ快適に楽しみたい方におすすめのRVパーク 日本RV協会が推し進めている「RVパーク」とは「より安全・安心・快適なくるま旅」をキャンピングカーなどで自動車旅行を楽しんでいるユーザー[…]
ポール・スミス氏が、MINIとポール・スミスの協業を示す大きな木箱の上に座っているイメージが公開された。木箱の中におさまる「MINI ポール・スミス・エディション」がジャパンモビリティショーで発表され[…]
24C0239_017 サーキットを速く走るための、特別なチューニングがプラス 「Mercedes-AMG GT 63 PRO 4MATIC+ Coupé」は、サーキットでのパフォーマンスを追求したい[…]
低域から超高域まで情報量豊かに表現するハイレゾ音源再生にも対応したエントリーモデル パイオニアのカロッツェリア・カスタムフィットスピーカーは、純正スピーカーからの交換を前提としたカースピーカーで、車室[…]
車中泊を安心して、かつ快適に楽しみたい方におすすめのRVパーク 日本RV協会が推し進めている「RVパーク」とは「より安全・安心・快適なくるま旅」をキャンピングカーなどで自動車旅行を楽しんでいるユーザー[…]