不人気だった「サメブル」が人気旧車になったワケ【凶暴なペットネームの理由も解説】│月刊自家用車WEB - 厳選クルマ情報

不人気だった「サメブル」が人気旧車になったワケ【凶暴なペットネームの理由も解説】

不人気だった「サメブル」が人気旧車になったワケ【凶暴なペットネームの理由も解説】

旧車と呼ばれる国産の古い年代のクルマの中には、その特徴的な外観の印象から、いろいろなペットネームが付けられて、愛着を持ってそう呼ばれている車種がいくつかあります。代表的なところでは、四角いフォルムから「ハコスカ」と呼ばれている日産・スカイラインや、テールのボリュームあるデザインから「ブタケツ」と呼ばれる日産・ローレル、ヒゲのように見えるバンパー形状などから「ダルマ」と呼ばれるトヨタ・セリカなどいろいろです。その中でも、比較的珍しい魚類のペットネームが付いた車種があります。それがここで紹介する「サメブル」です。サメと名付けられたのがどんな車種なのか見ていきましょう。

●文:月刊自家用車編集部(往機人)

1ランク上を目指した610系は、影の薄いブルーバード

サメという凶暴さを象徴する魚類の名前で呼ばれる車種というのは、4代目の「日産・ブルーバードU(610系)」です。

4代目の610系ブルーバードは、日本と北米でヒットを記録した「510系・ブルーバード」の後継モデルです。

510系がコンパクトなボディにパンチのある直列4気筒エンジンを搭載してラリーなどのモータースポーツで活躍し、その高い性能をアピールして人気を博していましたが、後継の610系では、旧モデルの510系を併売しながら、時代の流れで大型化&高級志向に方針をスイッチしました。

そのためブルーバードUは、スポーツ性能のイメージが薄れ、その後の人気が継続せずに終わった感があるモデルです。

しかしそのやや影の薄い感のある610系ブルーバードのうち、「GT」グレードだけが唯一、今に続く旧車ファンの支持を集め続けているモデルとなっています。

それが「サメブル」と呼ばれる「ブルーバードU セダン 2000GT(G610型)」です。

1975年式 2ドアハードトップ 2000GTX-E

L型6気筒を強引に搭載するために、独自パッケージを採用

発売は1973年。610系の「ブルーバードU」がマイナーチェンジするタイミングで追加されたグレードです。

最大のトピックは、スカイライン系に搭載されている直列6気筒のL20型エンジンを搭載したことです。

元々は510系からの流れで直列4気筒エンジンを搭載する設計ですが、そこにプラス2気筒の直列6気筒エンジンを、なかば強引に搭載してしまいました。

そんな理由もあってか、キャビンから前の寸法が205mm延長されています。ホイールベースは150mm伸ばされていますが、ここはおそらくスカイライン系と駆動系を共用する都合もあったのではないかと思われます。

キャビンはそのままでノーズだけ205mmも延長すると、バランスがおかしくなりそうなものですが、そこはデザインの処理でうまくまとめています。

そして、このクルマが「サメブル」と呼ばれる理由は、このデザインにあります。

左がブルーバードU(G610・ハードトップ 2000GT)、右がスカイライン(C110・ハードトップ 2000GTX-S)

睨むような目つきとエラ形状が、「サメブル」と名付けられた理由

まずその顔つきがポイントです。オデコが突き出た逆スラント形状のフォルムに、独立して面に埋め込まれた4眼のヘッドライトが睨みを効かせたような表情をかもし出しています。

サイドに回ってフェンダー部分には、ホイールアーチの前にサイドマーカーとセットでフィン状の意匠が彫り込まれ、さらにホイールアーチの後ろにもそれと対になるフィン状の意匠が彫られています。

この追加された意匠が引き伸ばされた側面にアクセントとして働いて、「間延び感を緩和している」と思います。

このフィン状のディティールがサメのエラを連想させるということで、睨むような目つきと合わせて「サメ」のような「ブルーバード」で「サメブル」というペットネームが定着したのでしょう。

ちなみに当時はブルーバードGTというグレード名を縮めて「ブルG」とも呼ばれていたようです。

1975年式 2ドアハードトップ 2000GTX-E

1975年式 2ドアハードトップ 2000GTX-E

運動性能は「やや期待はずれ」。良質なツアラーとしては高く評価

こんな強引なプロセスで直列6気筒エンジンを搭載された「サメブル」ですが、走りの性能はどうでしょうか?

端的に言ってしまうと、あまり良い評判は聞きません。

構成としてはGTXグレードに搭載されたL20型エンジンは、SUツインキャブレター仕様で125psを発揮します。

サスペンションは前がマクファーソンストラット、後ろがセミトレーリングアーム式という4輪独立懸架で、これはスカイライン系と同じ方式です。

ホイールベースはスカイライン系より40mm長い2650mmで、トレッドは前が15mm広く、後ろが10mm狭くなっています。車重は1145kgで、これはスカイライン系とほぼ同じです。

ザックリ言ってしまうと、スペック的にはほぼ同時期のスカイラインGTと同じ構成と言っていいでしょう。

それなら、50勝を挙げたスカイラインと同じく走りも良いのでは?と思いますよね。

しかしこの時期の「ケンメリ」と呼ばれる「C110系・スカイライン」は、ボディが大きくなり、エンジンの性能やサスペンション方式は据え置きという構成だったため、ほとんどレースで活躍していません。

ブルーバードは引き続きラリーで活躍していましたが、それは直列4気筒の「SSS」グレードが中心で、この「サメブル」に走りの面で期待する人はあまりいなかったようです。

筆者が実際に試乗した感覚でも、スポーツ性能を楽しみたくなるようなキビキビ感はあまり無く、長距離をストレスなく走るような、ある意味本来の「GT」らしい印象でした。

さてこの「サメブル」ですが、中古車市場では人気がそれなりに高いのにタマ数が極端に少なく、価格もややプレミア度が高い設定になっているようです。

熱狂的なファンから人気が高いこともあって、狙いやすいとか、おトクとかはない旧車ですが、刺さる人にはとことん刺さってしまう、希少な一台であるのは間違いないでしょう。

1975年式 4ドアセダン 2000GTX-E

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