「軍用として評価された技術」日本国内では1972年にスバルが乗用として発売。トヨタは1998年に、アクティブトルクコントロールタイプ搭載モデルを発売した。│月刊自家用車WEB - 厳選クルマ情報

「軍用として評価された技術」日本国内では1972年にスバルが乗用として発売。トヨタは1998年に、アクティブトルクコントロールタイプ搭載モデルを発売した。

「軍用として評価された技術」日本国内では1972年にスバルが乗用として発売。トヨタは1998年に、アクティブトルクコントロールタイプ搭載モデルを発売した。

クルマのメカニズム進化論 駆動系編(3)〜4輪駆動〜
軍用やヘビーデューティな仕様が主だった4WDはレオーネの登場によって乗用市場が開拓された。その後、センターデフを採用したフルタイム方式のアウディの登場によって“市民権”を得るようになっていった。
※この記事は、オートメカニック2017年5月号の企画記事を再編集したものです。

●文:オートメカニック編集部

もともと4WDはレース目的で造り出された駆動システムだった

4WDというとヘビーデューティなジープタイプのクルマを連想するが、ガソリンエンジン世界初の4WDはヒルクライムレースのために造り出されたものだった。1902年に現れたオランダのスパイカー兄弟の手による“スパイカー”は世界の4WD 1号車でありながら、2速のトランスファーを持ち、センターデフまで与えられていた。

それ以後も4WDは少数ながら造り出されたが、いずれもレースでの勝利を目的とした特殊なものだった。アメリカではインディ500に出場するミラーが製造され、ヨーロッパでもGPのためにブガッティ、チシタリア・ポルシェなどが登場した。F1では1969年にはロータス63、マクラーレンM7、マトラMS84が登場したが、成功を収めることなく退場した。

レースでは勝利をつかめなかった4WDだが、軍用では高い走破性が評価された。ダイムラー社によって世界初のオフロード用軍用車が製造され、1940年にはアメリカでジープが誕生する。

その後ヨーロッパではランドローバー、アメリカではハードトップを付けた大型4WDが開発され、軍用から民生、レジャーに用いられるようになっていく。国内ではスバルがレオーネバンをベースに4WD化し1972年に発売。ヘビーデューティな4WDに対し、乗用4WDと呼称された。

“ヨンク”といえばジープタイプがすべてだった時代に現れた乗用4輪駆動車がレオーネエステートバン。マニュアルトランスミッションで、2WD、4WDを手動で切り替えた。

アウディ・クワトロの登場、フルタイムで全輪を駆動

1980年、アウディ・クワトロが登場した。フルタイム4WDを標榜し、前後の駆動軸の間にセンターデフを採り入れた。アウディは市販直後、WRCに“クワトロ”を投入。FRによるドリフト全盛だったラリーの世界では4WDを懐疑的に捉えていたが、参戦2年後、アウディにワールドチャンピオンシップをもたらした。アウディはラリーでの成功を格好の宣伝材料として、ロードゴーイング4WDの新しい世界を切り開いたのだ。

ビスカスカップリングの実用化も4WDの世界を押し広げた。西ドイツのビスコドライブ社によって開発されたそれはシンプルな構造ながら、主駆動軸と従駆動軸の間に回転差が生じると、自動的に動力を伝えるという特性を持っている。

国産車で最初にこれを採用したのは1986年のニッサン・パルサーで、GNKと栃木富士産業のジョイントベンチャーであったビスコドライブジャパンによって供給された。以後、低コストの4WDとして定着し、今では多くの軽自動車にも採り入れられている。

乗用4輪駆動車に革命をもたらしたアウディ・クワトロ。センターデフを備えた常時4WD。新しい駆動方式の登場には懐疑的な意見も見受けられた。

アウディはクワトロをWRCに登場させ、女性ドライバーが初ウィナーとなった。これによって4WDのハンドリングへの懐疑が払拭された。

1986年からアウディのセンターデフに用いられたトルクセンシング型。遊星歯車で構成され、かかるトルクによって解放、締結が自動的に行われる優れた構造だ。

多板クラッチと遊星歯車で構成されたスバルのVTDと呼称されるセンターデフ。スバルは車種によって4WDシステムを使い分けてきた。

4WDは前後の駆動配分だけでなく、左右の駆動配分も制御し、操縦性を向上させる時代に入った。ニッサン・ジュークは電子制御カップリングをリヤに設け、操縦性を向上。

4WDのメカニズムは大きく4種に分類

4つのタイヤを駆動する4WDにも様々な種類がある。パートタイム4WD、オンデマンド4WD、フルタイム4WD、アクティブトルクスプリット4WDの4種に大きく分類できるが、それらの方式の中で、動力分配機構やセンターデフにも違いがある。また、FR車をベースにしたものとFF車をベースにしたもの、縦置きエンジン、横置きエンジンなどによっても分類できる。

前後の駆動配分にもさまざまなバリエーションがある。電子制御方式では0対100から50対50の間で、路面状況やグリップ状況に合わせて最適に制御されるものもある。

モーターとのハイブリッド駆動を備えたものも登場した。トヨタ、ニッサンはスリップしやすい路面での駆動力を補うものとしてサブ的なモーターを後輪に取り入れた車種をラインナップしているが、ホンダ・NSXは前輪に二つのモーターを備え、トルクベクタリングを可能にし、積極的に操縦性に関わらせる方式を採用している。

4WDの代表車、“ジープ”のイメージとは大きく変わり、現代の4WD車は様々なメカニズムによって成り立っている。

アクティブ4WD。電子制御によって多板クラッチの締結を制御し、運転状況に応じて前後の駆動配分を制御する。図は1998年に登場したトヨタアクティブトルクコントロール。

ハウジングの中に複数の向かい合わせたクラッチを内蔵し、粘度の高いオイルを封入したビスカスカップリング。オイルのせん断抵抗によって動力を自動断続する。

新世代の4WD。ホンダ・NSXは後輪をエンジンとモーターで、前輪は左右二つのモーターで駆動する。加速性能だけでなく、ライントレース性能も高いレベルで追求されている。

前後、左右のトルク制御システムの塊のようだったランサーエボリューションの4WDシステム。ターマックでもグラベルでもドライバーの意のままに操縦が可能だった。

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