
スズキが軽トラック「キャリイ」をベースとした電気自動車(BEV)の実証実験を2026年2月に開始した。静岡・愛知・熊本の農家が実際の農作業で使用しながらV2H技術も検証。農業現場の電動化と、太陽光エネルギーの「自産自消」という新しい農村ライフスタイルの実現を目指す取り組みだ。
●文:月刊自家用車編集部
4地域の農家が参加、約1年間の本格実証
BEV軽トラは単なる「電気の農作業車」ではない。農家のエネルギーインフラそのものになり得るかもしれない。
スズキ株式会社は2026年2月より、軽トラック「キャリイ」をベースにしたBEV軽トラックの実証実験を開始した。協力農家は静岡県浜松市、静岡県湖西市、愛知県豊川市、熊本県阿蘇郡の4地域に及ぶ。期間は約1年間を予定しており、実際の農作業や日常の移動でBEV軽トラックを使いながら、車両データや使い勝手に関するフィードバックを積み上げていく構成だ。
実証の主役はあくまで農家の現場。畑への資材運搬、収穫物の搬出、農道での走行など、軽トラが日常的にこなしてきた作業をBEVでどこまでこなせるか、航続距離・積載性・耐久性といった実用面が問われる試みとなる。スズキが農家の声を直接収集しながらデータを取得するという手法は、カタログスペックだけでは見えてこない”農業リアル”を反映した製品開発に向けた姿勢を示している。
クルマが”家電”になる! V2H活用がカギ
今回の実証実験において特に注目されるのが、V2H(ビークル・ツー・ホーム)システムの活用だ。V2Hとは、EVに蓄えた電力を住宅に供給する技術で、BEV軽トラックを走る蓄電池として機能させる考え方である。農作業が一段落した夜間や雨天時には車両のバッテリーから自宅に電力を送り、エネルギーコストの削減と停電時の備えを同時に実現できる可能性を秘めている。
さらに今回は、一部の農家において自宅に設置した蓄電池からBEV軽トラックへの逆方向充電も行われる。これは太陽光パネルで発電した電力を蓄電池に貯め、そこからクルマへ充電するという流れで、エネルギーの”自産自消”サイクルを農村で確立できるかを検証するための取り組みだ。農閑期には電力を自宅や地域に融通し、繁忙期には農作業に専念させるといった柔軟な運用も視野に入る。
軽トラBEV化がもたらす農業・農村への影響
軽商用1BOXバンのエブリイはすでにBEV化され販売を開始している。スズキ初の軽商用バッテリーEV 新型「e エブリイ」として2026年3月9日に発売。こちらはスズキ株式会社、ダイハツ工業株式会社、トヨタ自動車株式会社の3社が共同開発した、BEVシステムを搭載した軽商用バンのEVモデルだ。
軽トラックは日本の農業を支える縁の下の力持ちだ。農水省の調査でも、農家の保有車両において軽トラックは圧倒的な普及率を誇る。その軽トラがBEV化されれば、農業現場のカーボンニュートラル推進という観点でも大きなインパクトを持つ。政府が推進する2050年農林水産業のカーボンニュートラル目標とも方向性が一致しており、補助制度や税制優遇との組み合わせによって導入コストを抑えられる可能性もある。
また、農村部はガソリンスタンドの閉鎖が進む地域でもある。自宅や農場で充電が完結するBEVは、燃料調達という農家の悩みを根本から解消するポテンシャルを持つ。太陽光発電との組み合わせによる自給自足型エネルギー運用が軌道に乗れば、電気代・燃料代の大幅削減も現実味を帯びてくる。スズキが「By Your Side」を合言葉に掲げる通り、農家の暮らしに寄り添う移動・エネルギーインフラとしてのBEV軽トラの価値は、今回の実証を経てさらに具体化されていくはずだ。
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