運転そのものに歓びを見出しドライバーの心に刺さる国産FRスポーツ、BRZ。2代目となる新型が、パワートレーン、シャシー、装備等々、すべてをブラッシュアップしてデビューした。公道でその進化を川島茂夫が体験した。
●文:川島茂夫 ●まとめ:月刊自家用車編集部 ●写真:奥隅圭之 ●外部リンク:SUBARU
サーキットで振り回すのも日常の快適ドライブも意のまま
低く後方にマウントされたパワートレーンに後輪駆動。ドライバーはホイールベースのほぼ中央、つまり重心近くに座を置く。4輪に掛かる荷重の変化を掴みやすく、自身の描くコーナリングを実現するために状況に応じて最適な荷重配分へとコントロールする。
強いブレーキングから軽く制動を抜いてステアを深く切ると大きくヨーが変化、後輪に荷重が乗ったところでオーバーパワー気味のアクセル、大カウンターステアのコーナリング―という走り方もBRZならそう難しくもなく、サーキット試乗時は年甲斐もなくちょっとはしゃいでしまったが、それがBRZの走りの本質ではない。
オーバーアクション気味の走りはFRスポーツの「技」のひとつだが、非効率的であり、何よりデリカシーに欠ける。例えばBRZのコーナリング性能の特徴のひとつは後輪が滑っている状態でのトラクション。ここがしっかりしていないと、アクセルを踏んでも横を向くだけで失速してしまう。後輪が踏ん張って蹴り出せることこそFRスポーツの本分である。それは先代から新型へと引き継がれたコーナリング性能のテーマであり、車体周りやサス周りに施されたこだわりの改良が確実なステップアップをもたらしている。
面倒なマニア視点なら、トラクションを活かせるスリップアングル維持の制御が神経質、とか言いそうだが、そういった部分を追い込むと限界を超えた途端に制御不能&コースアウトとなりかねない。無邪気に大舵角カウンターステアの練習もできるところで按配を付けているのがBRZのコーナリング性能でもある。 FRスポーツのドライビングトレーナーとして懐深く、同時にタイムを出すための効率的な走りでは精度の高い制御を要求するモデルなのだ。裾野が広く頂が高いタイプとも言える。
このフットワークを活かすのが新開発のFA24型2.4ℓ水平対向4気筒だ。従来のFA20型も高回転まで綺麗に回る心地よいエンジンだったが、その美点を継承しながら全域トルクアップを果たしているのがFA24型である。
本領は4000回転以上。荒々しさも威圧感もなく7000回転超まで加速を持続。それでいて常用域を2500回転以下、巡航回転数を2000回転以下に抑えた省燃費走行でもきっちりついてくる。アクセル操作に対して正確に反応するトルクが幅広い回転域で発生。単純な意味での速さだけでなく、回転域や駆動力のアレンジ能力の高さが、様々なドラテクの駆使を容易にする。
この柔軟性とアレンジ能力はスポーツドライビングに限定したメリットではなく、日常用途等々の使い勝手向上にも有用なのは前述のとおり。公道試乗したのは6速MTでマニアック向けの選択ではあるが、決して実用の困難を伴うマニア限定モデルではない。
■SUBARU BRZ S(6MT)
視野が広く頂の高いスポーツクーペだ
ならば、ハードなスポーツドライビングにあまり興味のないドライバーにとって BRZはどうか。主キャラクターは本格FRスポーツカーだが、副キャラクターも新型BRZの見逃せない特徴である。前記した走行性能面の長所は日常用途にも使えるカップルズクルーザーとしての資質も向上。クーペとしては汎用性にも優れるのだ。
今回の公道試乗は6速MTで行ったが、BRZはR/Sともに MTとATが設定されている。ATには電子制御式6速を採用し、パドルシフトやパワートレーンの制御モード切替機能などを採用する。レブリミット直前に回転数を維持するような走り方ではMTに及ばないが、ロックアップクラッチの巧みな制御もあってダイレクト感のあるコントロール感覚でマニアックなスポーツドライビングを2ペダルで楽しめる。
AT車でもうひとつ見逃せないのはアイサイトの装備である。現在スバルが展開しているアイサイトファミリーでは基本型となるが、プリクラッシュブレーキや車線逸脱警報などに加えて全車速追従型ACCも装備。安全&運転支援の充実はタウン&ツーリング適性の向上に大きく寄与する。
■6ATもスポーツマインド満載
■運転負荷軽減のアイサイトを装備
さらに、限界走行にも耐えるサスチューニングでありながら意外と乗り心地がいい。サーキットでの試乗でも確認済みだが、そこで得た印象から想像する以上に乗り心地が穏やか。サスストローク自体は引き締まっているが、短めのストロークをしなやかに使う。また、段差や目地の乗り越えでの突き上げが穏やかであり、荒れた舗装路面もあまり気にならない。エンジン音は軽く滑らか。騒音の体感静粛性が高いこともあり、ツーリング時の快適性はスポーツモデルとしては高水準にある。
ちなみに今回の試乗では全行程の 3分の1くらいを3人乗車で過ごしたのだが、後席は一般乗用車に比べて余裕はないものの、さほど苦にはならなかった。コロナ対策のマスク着用にも拘わらず車内での会話の通りも良く、盛り上がる。街中での取り回しも良好な全長4.3m弱のクーペとは思えない居住性を備えていた。
サーキットの印象ではスポーツドライビングを楽しむ、あるいは学ぶためのモデルだったが、公道に乗り出して高速や山岳路等々を走らせていると、それだけで終わらせるのが勿体なく思えてくる。スポーツドライビングを楽しむのに最適な選択でありつつ、プレ&ポストファミリーにも勧めたくなる。若い頃はクーペでよくデートしたという熟年カップルにも勧めたい。クルマ趣味と適応用途でも裾野が広く頂の高いモデルなのだ。
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