
スポーツカーにどれほどの運転支援が必要か。特に手動変速のMT車の愛好家ならば、悩んでいるユーザーもいるだろう。今回、スバル・BRZとトヨタ・GR86に導入されたMT車向けのアイサイトは、そんな悩みに答えてくれる注目のシステムといえる。
●文:川島茂夫
機能は少し省かれているが、アイサイトの安心感はやっぱり大きかった
スバルが展開するアイサイト。現行世代のスバル車のAT車にはアイサイト・コアテクノロジーが導入されているが、このシステムは全車速型ACCこそ採用されているものの、車線維持支援は補正操舵型のLKAではなく、逸脱警報タイプ。周辺センシングなどのハードウェアは最新世代だが、機能としては初期のアイサイトの延長線にあるものといえる。
今回、スバルBRZとトヨタGR86に導入されたMT車向けのアイサイトは、これよりもさらに機能が制限される簡略版ともいっていいシステムだ。具体的には、プリクラッシュブレーキこそ機能の制限はないものの、ACCは全車速型ではなく作動下限速度が30km/hとなり停車まではサポートされない。また、ペダル踏み間違いを防ぐ誤発進抑制機能なども外されている。
ただ、変速操作をドライバーが行う必要があるMT車の特性やメカニズムを考えれば、ACCが停車までサポートしないのも当然で、実際、クラッチ踏み込み状態とミッションのニュートラル状態が5秒を超えると、自動的に巡航設定が解除される。誤発進抑制についても発進時にアクセルとクラッチの同時操作を行うMT車の場合は、皆無とは言わないものの誤発進を行う可能性は極めて低く、装着されていないのも納得できる。
なお、AT車用と比べるとかなり簡略されたものなのだが、MT車用のアイサイトを採用するに際して、クルマ側の走行ハード機能はなんら変更は加えられていない。
ぶつからないプリクラッシュブレーキの性能は、AT車と同じ
テスト時の天気は視界を損ねるほどではない大きな粒の雨が降っていた。さらに夕闇という時刻でもないが、厚い雲に覆われていることもあって、少し暗い環境での衝突回避機能体験となった。
毎回、この手の体験試乗だと本能的なブレーキペダル操作を我慢することになるが、そんな乗り手のストレスや心配とは関係なく、プリクラッシュセーフティのお陰で衝突は回避される。フロントガラスにはそれなりに雨粒が付着していたが、まったく問題なくシステムは作動してくれる。
ただ、クラッチが繋がったまま救急制動がかかるので、当然クラッチを切る余裕もなく、必然的にエンジンは停止直前にはストールしてしまう。感覚としてはクラッチ操作を失敗した時のエンストに近い。AT車との大きな違いはここに尽きる。もちろん、エンストしてしまうのは機能的には正常で、エンストしつつも、しっかり、きっちりと止まってくれる。
BRZもGR86も、これまでMT車にはプリクラッシュブレーキも非装着だっただけに、アイサイトの標準化の意義は大きい。
前述したとおり、AT車用のアイサイトと比べると機能面がかなり省かれているが、実際のドライブならば、正直これで十分と感じた。今回はACCの走行体験ができなかったのは残念だったが、プリクラッシュブレーキがもたらす、人やクルマとの事故を低減できることは何よりも代え難いことを再確認できた。「MT車にも、もっと早く装着してくれてれば……」というのが率直な感想だ。
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