
5月31日、ENEOSスーパー耐久シリーズ2025 Empowered by BRIDGESTONE 第3戦「富士24時間レース」の決勝日に、ENEOSホールディングスとST-Qクラスに参戦するトヨタ、スバル、マツダ、日産モータースポーツ&カスタマイズが共同記者会見を開き、エタノール混合の低炭素燃料を活用し、レースの現場で鍛えながらその普及を推進する「共挑(きょうちょう)」の取り組みを発表した。
文/写真:松永和浩(月刊自家用車編集部)
カーボンニュートラルの実験場としてのスーパー耐久
スーパー耐久シリーズでは、メーカーの技術開発車両による参戦のためにST-Qクラスが設けられている。これまでもGRスープラや日産フェアレディZ(RZ34)をベースとしたGT4マシンの開発に活用されてきた。
水素カローラー TGRR GR Corolla H2 concept
2021年以降、ST-Qクラスは“カーボンニュートラル技術の実証実験の場”として進化。水素を燃料とするGRカローラや、バイオディーゼル燃料を使うマツダ2、CNF(カーボンニュートラル燃料)を使ったGR86やスバルBRZといった多様な車両が参戦しており、各社がそれぞれの技術でカーボンニュートラルに挑んでいる。
中でも水素エンジンは話題性もあり知名度は高まってきたが、インフラ面や技術成熟度の観点ではまだ発展途上である。一方、CNFやバイオディーゼル燃料は、製造と供給体制が整えば、より早期の社会実装が期待できる。
バイオエタノール混合の低炭素燃料を使うTGRR GR86 Future FR concept
CNFの理想形とされるのが、大気中の二酸化炭素を回収し、水素と合成して作られる炭化水素系の合成燃料(e-fuel)である。しかし現状ではCO₂の直接回収(DAC)には高コストや効率の課題があり、より現実的な手段として植物による間接回収=バイオマス由来エタノールの活用が現実解とされている。
ENEOSがバイオエタノール燃料を供給し知見を増やすという取組
記者会見では、ENEOSホールディングス株式会社 常務執行役員 津山由紀郎氏が、「オールジャパンによる“共挑”」をキーワードに、ST-Qクラスでの各社の取り組みを強調。世界的にも様々な燃料技術を併存させる“マルチパスウェイ”の重要性が認識され始めているとして、日本からもバイオ燃料や合成燃料の推進が不可欠であると語った。
バイオエタノール混合の低炭素燃料を使うSUBARU HighPerformanceX Future Concept
ただしバイオ燃料については、日本では2023年に「GX実行会議」で普及促進が閣議決定されたものの、日本工業規格(JIS)での品質基準が未整備であり、普及に向けた道筋はまだ模索段階にある。そうしたなか、ENEOSはスーパー耐久のST-Qクラスにバイオエタノール混合の低炭素燃料を供給し、走行データを収集・分析することで、その品質や課題を明確にし、実用化へつなげる知見を蓄積しようとしている。
バイオエタノール混合の低炭素燃料を使うMAZDA SPIRIT RACING RS Future concept
トヨタ自動車株式会社 取締役 副社長・CTO 中嶋裕之氏は、再生可能エネルギーの活用、CNF導入、CO₂回収技術の統合が重要であると述べたうえで、トヨタとしてもFFV(フレキシブルフューエルビークル)やハイブリッド車で多様な対応を図っていることを紹介。また、ブラジルにおけるエタノールのコスト優位性を例に挙げ、特に新興国において有効な選択肢になると指摘した。
今回の富士24時間レースでは、バイオエタノール混合の低炭素燃料を使用するST-Qクラスの車両として、以下の3台が参戦した:
61号車:SUBARU High Performance X Future Concept
12号車:MAZDA SPIRIT RACING RS Future concept
28号車:TGRR GR86 Future FR concept
ENEOSホールディングス株式会社 常務執行役員 津山由紀郎 氏
24時間耐久レースという過酷な環境下では、普段の走行試験では見つけにくい課題が顕在化しやすく、短期間で多くの実用的データが得られる。こうした特性を活かし、燃料の品質向上や車両とのマッチング、さらには社会的認知度の向上にもつなげる方針だ。
もし近い将来、街のガソリンスタンドでバイオエタノール混合の低炭素燃料を見かけるようになったなら、それは富士24時間レースで実際に鍛え上げられた“レース由来の燃料”と言っても過言ではない。
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