
6月5日の国内導入が発表された、ヒョンデの高性能EV「IONIQ 5 N」だが、正式発売に先駆けて試乗する機会がやってきた。ニュルブルクリンクで鍛えられたと評判の650PS級モンスターマシンは、どれほどの実力を秘めているのだろうか?
●文:川島茂夫 ●写真:編集部
見た目は普通だが、宿る戦闘力はトップ級。まさに羊の皮を被った狼
システム最高出力は478kW(650ps)。サーキット走行に対応した設計となれば、試乗するまではロードコーイングレーサーなんだろうと考えていた。
そんな思いを抱きながら実車を目の当たりにした印象は、なんとも「地味」。性能向上をことさらアピールしてくるエアロパーツやエアインテーク/アウトレットがてんこ盛りというわけではなく、正直、このルックスで478kWもの大出力を内包するとは、とても思えない。
そもそもヒョンデが立ち上げた「N」ブランドはどのようなものなのか?
過去の日本からのブランド撤退による印象は決して好ましいものではないが、2022年からの日本再参入からは、環境性能面も意識した先進的モデルを中心に導入しており、具体的にはBEVのIONIQ(アイオニック)5と、KONA(コナ)、FCEVのNEXO(ネッソ)の3モデルに限定している。購入に関しては、全国各地の拠点で試乗は可能だが、販売方式はオンライン限定となり、ブランドイメージの再構築を図っている最中ともいえる。
徹底した高性能化に見合った、実のある強化がてんこ盛り
今回導入される「IONIQ 5 N」は、KONAの上級に位置するIONIC5をベースに、高性能化を図ったモデル。「N」の名称は「N」モデルの開発にも用いられ、高性能スポーツ車の性能指標にもなるニュルブルックリンクとヒョンデR&Dセンター所在地の韓国・南陽(ナムヤン)に由来する。
やはり最大の見どころはパワートレーン。すでに導入済みのIONIC 5の標準仕様車は、最も高いパワースペックを持つAWD仕様でもシステム出力は225kW(305ps)だ。これでも十分にパワフルなのだが、今回導入されるNモデルは、2倍以上のパワーアップが施されている。
具体的には前モーターが70kWから175kW、後モーターが155kWから303kWとなり、システム合計出力は478kW(650ps)までパワーアップ。
全負荷時の前後輪の駆動力配分は若干前輪寄りとなったが、それでも37/63くらいの見当で、後輪駆動ベースの高性能AWDらしい設定だ。ちなみに標準AWD車に対する重量増は200kg弱ほどで、1割増にも満たない。なお、このシステム最高出力はハイパワーモードとなるHGB(N Grin Boost)時のものだが、ノーマル時でも448kW(609ps)を発揮する。
これほど強烈なパワースペックで、さらにサーキット走行も前提としているならば、シャシーにも大幅な改良が加えられるわけで、サブフレームも含めてサス周りや車体骨格の構造強化を施すだけでなく、ホイールGセンサーと6軸ジャイロ(3軸×角速度&加速度センサー)を用いた大容量の電子制御ダンパーを採用している。
前輪ブレーキも大径対向4ピストンを用いて制動力を大幅に強化。回生制動を0.6Gまで引き上げて効率アップを図っているのもBEVらしいチューニングだ。装着タイヤは専用開発のピレリP-ZEROの275/35R21を履く。諸元表に現れない部分にも、650ps級スポーツ車に相応な強化が加えられている。他社の高性能スポーツのようなアピール感が少ないこともあって、ざっくり見たレベルでは同じようなモデルに思えるが、Nモデルの中身は完全に別物だ。
基本的なレイアウトは標準車と変わらないが、ステアリングはマニュアル変速(疑似)用のパドル、走行モード切替用、NGB用、ふたつのNボタンと四つのスイッチが備わる。舵輪でありながらコマンダー的な役割も兼ねている。
フロントシートはフルバケット型ながらリクライニングとシートリフターも備わり、スポーツシートとしては乗降性も良好。リヤシートも左右独立スライド機構を備えているなど、上級モデルらしい贅沢な仕様になっている。
BEVだけど内燃機車っぽい、極めて自然な制御が好印象
走り出しの出力特性は、BEVらしくアクセル入力に俊敏に応えてくれるが、走り込んでいくと一般的なBEVとは違った挙動が目立ち始める。BEVにレブリミッターがあるわけもないのだが、マニュアル変速モードを選択した状態で回し過ぎれば、レブリミッター的な制御が出てくる。それも妙に生々しい。
開発陣によれば、アクセルを抜いた時の駆動力の変化は、内燃機車のものを忠実に再現したそうで、高性能スポーツ特有のエンジン音も再現されている。何も知らされずに乗れば、内燃機車として思い込んでしまうレベルだ。
前後輪駆動力配分は、0:100〜100:0まで設定が可能。特設コースでのドリフト試乗では0:100、すなわち後輪駆動モードでの試乗だったが、パイロンターンのような狭いコースでの後輪駆動モードは、とにかくじゃじゃ馬感がすごい。思い通りに操るには、相当な修練が必要だ。
前輪後輪の駆動配分を自在に設定できるほか、サーキット走行に適した特性が強まるトラックモードなど走行モードも充実。一時的に動力性能をブーストされるN Grin Boost(NGB)などの、最新スポーツEVらしい機能も目白押しだ。
サーキットから一般路まで、腕を磨ける優秀なパートナー
サーキットを強く意識させるモデルだけに、サーキット試乗では、本領発揮のトラックモードで色々試してみたが、中高速コーナーで巻き込むような挙動が少し気になるものの、加減速や操舵時に各輪にかかっている負荷の変化が掴みやすいことに好印象。後輪を滑らせながらの立ち上がりのトラクションの利きがよく、クルマを意のままに操れる、良質な操縦感覚に思わず昂揚してしまうほど。速さを競うだけではなく、腕を磨くにはもってこいの特性だ。
そして意外だったのは、一般道での乗り心地の良さ。サーキット試乗でもストロークを使うタイプと感じていたが、一般道路をスポーツモードで走っても荒々しさはまったく感じない。モータースポーツを強く意識した「N」になっても、IONIC 5の標準車で高く評価されている、落ち着きのある走りという美点は、いささかも損なっていない。高性能車でも、普段使いで普通に走れる一般性を持つことは大きなアドバンテージといえるだろう。
最近はスポーツ性能を重視するBEVも珍しくなくなってきたが、IONIC 5 Nは、圧倒的な動力性能を堪能することもできるし、マニュアルシフトの内燃機車のようなリズムを活かした走りで、優秀なトレーナーのような振る舞いもしてくれる。多様多彩な走り方、楽しみ方ができる、これまでにないとてもユニークな一台といえる。
良く動くサスペンションの恩恵もあって、乗り心地に優れる良質な走りを披露してくれる。普段使いを苦手にしている一般的な高性能スポーツとは異なり、普段使いでも安心して使うことができる。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(ヒョンデ)
Hyundai N × TOYOTA GAZOO Racing Festival 開催された「Hyundai N × TOYOTA GAZOO Racing Festival」は、世界ラリー選手権(W[…]
Hyundaiの⾼性能ブランド「N」のエッセンスを注入 今回導入される「KONA N Line」は、Hyundaiの⾼性能ブランド「N」の感性を加えたモデル。日本市場に導入される最初の「N Line」[…]
ライフスタイルに寄り添う家と車 ヤマダホームズは、ヤマダホールディングスグループが掲げる「くらしまるごと」戦略の下、グループシナジーを最大化した究極のスマートハウスである近未来スタンダード住宅「YAM[…]
会員登録&アンケート回答で、24時間お得に試乗 本キャンペーンは、Hyundai公式ページでの会員登録およびアンケートに回答するだけで、もれなくお得なクーポンが発行されるというもの。さらに、体験後のア[…]
システム最高出力は478kW、モータースポーツ仕込みのスペシャルパーツを装着 今回国内導入が発表された「IONIQ 5 N」は、韓国・南陽(ナムヤン)をR&D拠点とし、独ニュルブルクリンクで走[…]
最新の関連記事(EV)
「MEB」を採用する、ID.ファミリーの第2弾モデル 今回導入される「ID.Buzz」は、長年「ワーゲンバス」の愛称で親しまれてきたフォルクスワーゲン「Type 2」のヘリテージを継承しつつ、最新の電[…]
機能が生み出す官能的なフォルム アルピーヌ A390のデザインは、ひと目でアルピーヌとわかるアイデンティティと、空力性能の徹底的な追求が見事に融合している。全長4615mmの伸びやかなボディは、同社の[…]
ベース車はホンダ N-VAN e: ! 大空間が魅力のEV軽キャンパーだ 今回紹介する軽キャンピングカーは岡モータース(香川県高松市)のオリジナルモデル、ミニチュアシマウザーCP。ジャパン[…]
中国市場で活躍が見込まれる新エネルギー車(NEV)第一弾モデル 中国で展開される新型EVセダンN7は、日産が2027年夏までに中国で発売を予定している9車種の新エネルギー車(NEV)の第一弾モデル。タ[…]
好評の特別装備を追加した買い得な限定モデル 今回発売される「Grateful PINK」シリーズは、小型ハッチバックEV「BYD DOLPHIN」をベースに、カーボン調のインテリアトリムや電動テールゲ[…]
人気記事ランキング(全体)
たった1秒でサンシェード。ロール式で驚きの簡単操作 ワンタッチサンシェードは、サンバイザーにベルトで固定しておけば、あとはシェードを引き下ろすだけ。駐車するたびに取り出す必要はない。収納もワンタッチで[…]
朝の目覚めは“二階ベッド”でロッジ泊気分 夜になれば、ベッドに横になったまま星空を眺めることもできる。天井高は180センチを超え、車内で立って着替えや調理もこなせるから、車中泊でもストレスは少ない。リ[…]
5年の歳月をかけて完成した独自処方のオイル系レジンコーティング カーメイトは2020年から、SUVの黒樹脂パーツの保護と美観維持に特化したコーティング剤の開発に着手した。黒樹脂パーツは表面の質感が独特[…]
大阪オートメッセでお披露目されたDパーツが、待望の製品化 今回発売されるカスタムパーツは、2025年2月に開催された大阪オートメッセのエーモンブースにて初お披露目された、新ブランド「BANDIERA([…]
ベッド展開不要の快適な生活空間 全長5380mm、全幅1880mm、全高2380mmという大型バンコンでありながら、その中身は大人二人、あるいは二人+ペットでの旅にフォーカスされている。7名乗車・大人[…]
最新の投稿記事(全体)
強烈な日差しも怖くない。傘のように開いて一瞬で守るサンシェード その名の通り、まるで傘のようにワンタッチで開閉できる設計。傘骨にはグラスファイバーやステンレスなどの丈夫な素材を使用し、耐久性と軽さを両[…]
単なるドリンクホルダーではない、1つで二役をこなすスグレモノ 車内でドリンクを飲む機会が増えるこのシーズン。標準装備のドリンクホルダーもあるものの、複数のドリンクを飲みたい場合や、乗車人数が多い場合な[…]
雨の日のサイドミラー、見えなくて困った経験 雨の日のドライブで、サイドミラーがびっしりと水滴で覆われてしまい、後方がまったく見えなくなることがある。特に市街地での右左折や、駐車場からのバックなど、後続[…]
ハイエースの常識を変える。“大人2段ベッド”の実力 ハイエースのスーパーロング・ワイド・ハイルーフは確かに広い。しかし全長が5mを超えるため、都市部では駐車場に収まらないことも多い。スーパーロングでな[…]
自分では気をつけていても、同乗者までは注意できない… どれだけ丁寧に扱っていても、どうしてもキズがつきがちなのが、車のドアの下部ではないだろうか? 乗降の際に足で蹴ってしまって、泥やキズが残ってしまい[…]
- 1
- 2