●文:松本隆一
納車はもちろん、契約すらまともに進められない、売る立場からしても深刻な状況
松本 先日、複数のトヨタのセールスマンと話をする機会があったんだけど、彼らからは異口同音に「売るクルマが少なくなっちゃって、ほんと、まいってます」って、嘆きが聞こえてきたね。で、今回はトヨタで続出している「オーダーストップ」の話をしよう。
担当 じゃ、そもそも「オーダーストップってなんですか?」ってとこから始めてください。
松本 国産車は原則として「注文生産方式」で販売する商品なんだ。正規ディーラー(販売店)がユーザーの注文を受けてメーカーに発注し、それから生産するわけだね。もちろん在庫車を販売するケースもあるけれど、基本は「注文→生産→納車」という流れだ。で、「オーダーストップ」の説明だけど、これは業界の専門用語で、わかりやすくいうと「注文受付の停止」だね。
トヨタの人気モデルは〝ほぼ全滅〟という異常事態
担当 なるほど。要するに、事実上の「販売停止」と考えていいですね。
松本 そういうことになるね。現時点(8月上旬)で、オーダーストップとなっているトヨタ車をざっとあげてみよう。アルファード/ヴェルファイアにノア/ヴォクシー、グランエース、ハイエース……。
担当 おっ、ミニバンは全滅……じゃないか……、注文できるのはシエンタだけですね
松本 全滅といえば、ランドクルーザーシリーズは300だけでなく、250も70も止まっているから、全滅だね。それからハイラックスにライズ、ヤリスクロス、クラウン・セダン、カローラフィルダー&アクシオといったところがオーダーストップとなっている。
担当 売れ筋モデルが多いなあ、セールスマンが嘆くのも無理なしですね。
松本 とくにアル/ヴェルとノア/ヴォク、ヤリクロ、ライズあたりのストップが「痛い!」っていってるね。
無制限に受注を受け付けてしまうと、のちのちトラブルの原因に……
担当 でも、どうして注文を取らないんですか? 納期が半年先、1年先になっても契約をしてしまえばいいじゃないですか?
松本 それがそうかんたんにいかない事情があるんだ。新車は原則として1年から1年半くらいで、仕様・装備などを若干変更した「一部改良」ってのを実地するよね。
担当 「年次改良」とか「小変更」っていうこともありますね。
松本 最近、この「一部改良」のタイミングで価格改定、すなわち値上げをするのが常態化しているんだ。
担当 自動車メーカーはニュースリリースで「一部改良に伴い、価格改定を行った」なんて発表しますよね。
松本 一部改良前の契約でも価格が据え置きなら〝一改〟後のクルマをそのまま納車しても問題にはならない。ユーザー側は「値段はそのままで改良した新型を納車してくれるなら、そのほうがいい」ってことで納得するよね。ところが、値上げがあった場合はそうはいかない。販売店側が「値上げ分を負担してもらいたい」なんていうと「勝手なこといわれても応じられない。契約通りに〝一改〟前のクルマを納車してもらいたい」といわれちゃう可能性が高いよね。
担当 過去にそういうことがあったんですか?
松本 実はあったんだ。数年前、ハリアーで起きたことなんだけど、納車待ちをしていたユーザーに対してディーラー側が「オーダーカット」という措置を打診してきたんだ。
担当 オーダーカット……聞きなれない言葉ですね。
松本 トヨタのベテランセールスマンも「初めて聞いた」っていってたね。要するに「お客様が注文したモデルは一部改良によって生産は終了してしまう。だから、注文を取り消させてください」(オーダーカット)っていってきたんだ。
担当 「おいおい、待ってくれよ!」ってことになりますよね。
松本 なるよな。しかも何か月も待たされていたんだから「そりゃないだろ!」って話だ。ただし、ここで、少しいい話が出てくる。「お客様には〝一改〟後の新型を優先的に納車できるようにします。しかも値引き条件は据え置きにします。普通、新型はここまで値引きしませんよ」などといってくるんだ。結局「値上げ分は払ってください」という条件がつくんだけど「優先的に納車」「値引き条件は据え置き」ってことで、ほとんどのユーザーがそのまま契約を続行、つまり〝一改〟後の新型に移行することに同意したんだ。
担当 日本のユーザーは寛大なので、そういうことで文句をつけませんよね。アメリカあたりだったら「契約は契約だ。ビタ一文、払わん!」ってことになるかも(笑)
松本 この「ハリアー・オーダーカット事件」を教訓にして、トヨタ側は「注文に応じられなくなるような契約はするな」となった。つまり、新車の売買契約をする際には「一部改良までの生産台数を超えないようにする」って内部ルールができたんだ。
一部改良までの生産台数を超える受注は受けつけない、これがオーダーストップの原因
担当 なるほど、具体的にはどうやって超えないようにするんですか?
松本 次の「一部改良」までの生産台数は決まっていて、これを全国の正規販売店に過去の実績から割り振りをするわけなんだけど、この「割り当て台数を超えたらいかん!」ってことで販売台数を制限するわけだ。だから、人気車はすぐにオーダーストップってことになってしまう。
担当 アル/ヴェルなんて昨年6月の発売直後にオーダーストップとなってしまいましたよね。今風にいえば〝秒〟で売り切れ(笑)……以来、販売を停止して現在に至ってますよね。
松本 ノア/ヴォクは今年の年末もしくは来年初頭にマイチェンされる予定だけど、すでにそれまでの生産分を受注してしまったので、これまた〝開店休業中〟となっているね。
担当 だったら「増産しろよ!」ってユーザーも多いと思いますが……。
松本 メーカーとしては、「半導体の供給不足が続いているという理由で、かんたんに増産できない」ってことになっているね。
担当 ちなみに旧型アル/ヴェルでは台数限定でゲリラ的にオーダーストップを解いたこともありましたよね。
松本 あれは異例中の異例で、期待しないほうがいい。
受注ストップしていても購入の意思を伝えることが、早期納車の鉄則
担当 ところで、オーダーストップの解除ってのはどのタイミングであるんですか?
松本 トヨタの場合、原則として一部改良の1か月くらい前になると、新型の価格がディーラーに告知される。その時点で先行販売がスタートすると思っていい。つまり、これがオーダーストップの解除=販売の再開ってことになる。
担当 「すぐにでも欲しい!」というなら、先行販売を待つわけですね。
松本 いや、事前にこちらから積極的に動いたほうがいい。オーダーストップ中からセールスマンに「販売再開の情報が入ったら、すぐに知らせてもらいたい」と〝商談申請〟を出しておくことをお勧めするね。それも1店だけでなく、トヨタには経営の違う販売店があるので、すべての店に申請しておくほうが得策だ。再開しても「あっという間にオーダーストップ」ということも多いので要注意だ。少しでも契約を早くすれば、それだけ納車も早くなる。
担当 早い者勝ちですね。ところで、トヨタはオーダーストップとなっていないクルマに関しても〝納期の遅れ〟が目立ちますね。
松本 それだけトヨタ車の人気が高いって裏付けだね。
担当 一時に比べると、他社はかなり解消されてきていますよね。
松本 とくに日産とマツダが早いね。この2社はトヨタ車と競合していることがわかると〝迅速な納車〟を強調した売り込みを仕掛けてくることが多いよ。たとえばセールスマンはこんな具合に売り込んでくる。「トヨタは納期に数か月かかるでしょ。へたをすると半年待ち、ひどいのは1年待ちですよね。そこいくと、うちは早ければ1か月以内、遅くても2か月でお届けできます!」。
担当 いいところ突いてきますね。そういうときはどんなふうに切り返せばいいんですか?
松本 すかさず「納期は気にしてませんよ。気長に待つつもりです」ってやるといい。さらに「納期より購入の決め手となるのは〝どれだけ安く買えるか!〟なんですよね。トヨタのセールスさんは納期の遅れを〝値引きでカバー〟してくれますよ」なんて攻めると効果的だよ。
担当 おおっ、いいセリフですね。トヨタのセールスマンの皆さん、「納期の遅れは値引きでカバー!」ですよ、よろしくね。
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