
かつて高速道路を走行中に頻繁に聞こえてきた「キンコン」音。今では耳にする機会はほとんどありませんが、昔のドライバーにとっては馴染み深いものでした。そもそも、このキンコン音にはどのような役割があったのでしょうか。また、なぜ消えたのでしょうか。
●文:月刊自家用車編集部(ピーコックブルー)
今はもう聞けない「キンコン」音の役割って?
「キンコン」音は、自動車に装備されていた「速度警報装置」から発されるもので、1970年代から1990年代初頭にかけて、多くのクルマに装備されていました。
速度警報装置は、クルマが一定の速度を超えると警告音を鳴らす仕組みで、ドライバーにスピードを抑えるよう促す役割を担っており、普通自動車は105km/h、軽自動車は85km/hを超えると、速度警報装置から「キンコン…キンコン…」という音を鳴らしてドライバーに警告していました。
速度警報装置の装備が義務付けられたのは、今から50年前の1974年のこと。
1970年代の日本では、クルマの安全機能や交通ルールが現在と大きく異なっており、当時のクルマには現代のような高度な安全装備がなく、交通事故防止のための対策が必要不可欠でした。
現在では標準装備となっているエアバッグですが、初めて市販車に搭載されたのは1987年のことで、広く普及し始めたのは1980年代後半から1990年代にかけてと言われています。
エアバッグやABSなど、現在販売されているクルマには多くの安全装置が装備されている
また、安全装置の代表とも言える「アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)」に関しても、1980年代から徐々に広がっていったため、1970年代には交通事故を防ぐ手段が不足していました。
そうした中で、事故防止の一つのアイデアとして誕生したのが、速度警報装置によるキンコン音だそうです。
速度警報装置は、スピード超過による事故を防ぐことを目的として、1974年に「道路運送車両の保安基準」により車両への装備が義務付けられました。
速度警報装置のキンコン音は、一時的な速度超過の防止や運転者の安全意識向上に一定の効果があったと考えられています。
今や過去の文明?なぜ「キンコン」音はなくなったのか
かつては当たり前のように耳にしていたキンコン音ですが、今ではこの音を聞く機会はほとんどなくなり、一度も耳にしたことがないドライバーも多いでしょう。
その理由は、速度警報装置の装備義務がすでに廃止されているため。
速度警報装置の装備義務は、1986年に「道路運送車両の保安基準の一部を改正する省令」によって廃止されました。
廃止の理由は明記されていませんが、2つの理由があると言われています。
まず1つ目は、海外から日本への自動車輸出に関する問題です。
キンコン音を発する速度警報装置は日本固有の規制に基づくものであり、海外の車両には装備されていないものでした。
当時、日本の車検制度では速度警報装置が装備されていないクルマは車検に通らず、外国車を日本で販売するためにはこの装置を取り付ける必要がありました。
速度警報装置を装備する手間とコストは、海外メーカーにとって日本市場にクルマを輸出する際に大きな障壁となっていたと言われています。
当時は現在ほど外国車の売れ行きが良くなく、速度警報装置の装備が難しかったとされている
また、車両価格の高さや燃費の悪さ、販売店の少なさなどが原因で、そもそも外国車が日本で売れにくい状況にありました。
これらの要因から、海外(特に米国のビッグ3)より日本独自の規制を廃止するよう強い働きかけがあり、結果として日本政府は速度警報装置の装備義務の廃止を決定したそうです。
そして2つ目の理由として、キンコン音の単調なリズムが運転中に眠気を誘う可能性があることも指摘されていました。
この音は一定の速度を超えると繰り返し鳴り続けるため、長時間の運転中にドライバーの集中力を低下させるリスクがあったと言われており、これも廃止理由の一つではないかと考えられています。
このように、キンコン音は1980年代に日本の高速道路を走るクルマでよく聞かれた音でしたが、国際的な圧力や、運転中の安全性を考慮した結果、廃止されました。
このキンコン音は過去の思い出として一部の人々の記憶に残り続けそうです。
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