
ブランド全体で電動化をリードするレクサス。そのラインナップで唯一内燃機関のみの設定だったのが、フラッグシップSUVの「LX」だ。発表当時、その話を開発者にすると、「現時点で生きて帰ってこれる“電動ユニット”が存在しないため」だと言われたことを思い出す。それから2年半、一部改良に合わせてLX初のハイブリットモデル「LX700h」が追加された。今回、春頃と言われている日本での発売に先駆けて、アメリカ・カリフォルニア州北部(ノースコースト)で北米仕様に試乗してきたので報告したい。
●文:山本シンヤ(月刊自家用車編集部) ●写真:レクサスインターナショナル
ハイブリッドでもフルタイム4WDシステムが使える
注目のハイブリッドシステムは、トヨタ&レクサスでおなじみのシリーズパラレル式(=THS II)ではなく、V6-3.5L直噴ツインターボと10速ATの間にクラッチとモータージェネレーターを配置したパラレル式を採用している。
内燃車と同じ10速AT+LOレンジ付のフルタイム4WDシステムが使えるため、前進/後退ともに同じ駆動力を担保。加えてシステムがダウンしてもエンジンのみで退避走行を可能にするためにオルタネーターとスターターを装着(通常のハイブリッドには必要ないモノ)している。
さらに駆動用バッテリーも防水トレイによる入念なパッキングを用いることで、内燃車と同じ渡河性能700mmを確保。まさに「生きて帰ってこれるハイブリッド」に仕上げられている。
ハイブリッドでも悪路走破性を犠牲にしていないことも見どころのひとつ。電動領域が不具合を起こしても内燃機の駆動力だけで走行することも可能という。
システム出力は内燃機車(LX600)の409hp/650Nmに対して、LX700hは457hp/790Nm(ともに北米仕様)にアップ。車両重量はLX600に対して160kg近く重くなっているが、実際に走らせると「クルマが軽くなった?」と感じるぐらい力強い。
低負荷走行時やアクセルOFF時にEV走行はするものの、モーターアシスト感は薄めで、どちらかと言うと「ターボラグがまったくないターボ」のようなイメージで、全域で滑らかなフィーリングが印象的。ちなみに走行環境の違いから北米仕様と日本仕様ではモーターアシストの味付けが異なるとのことで、日本仕様はもう少し電動車感が高めだとか。ハイブリッド化したにもかかわらず、オフロード性能はまったく犠牲になっていないどころか、むしろ「より楽に」、「より安心して」走ることができたと感じたほどだ。
その乗り味は、さらに自然なものに
走りの進化はLX700hのみならず、内燃車のLX600にも行われている。
具体的にはフロントのラジエターサポートまわりの剛性アップ、インパネリーンフォースメントまわりのステアリング支持剛性アップ(ブラケット追加/既存部品板厚変更)、12Vバッテリー搭載位置変更(エンジンルーム内→リヤのデッキ横)に伴うブレース追加、ボディとフレームを繋ぐキャブマウントの構造の変更(こじる動きをする際の結合剛性アップ)などをアップデートした。それに合わせてサスペンション(AVSのアクチュエーターのバルブ構造の見直し)やEps制御も最適化されている。
従来モデルでもボディオンフレームを感じさせない滑らかな走りだったが、新型はその精度が1ランク、いや2ランク高められている。もう少し具体的に言うと、従来モデルは “力ずく”ではなくきわめて“自然”に行なわれている。その結果、普通に乗っている限りはフレーム車であることを本当に忘れるレベルに来ている。
LX700h “OVERTRAIL”の寸法は、全長☓全幅☓全高:5085☓1990☓1885mm(※インチをミリに変換)。パワーユニットは3445ccV6DOHCツインターボ+モーターのパラレル式ハイブリッドを搭載。システム最高出力は457hp/790Nmを発揮する。北米での価格は11万6260ドル(日本円で約1746万円)になる。
このあたりは従来モデルではAHC(ショックアブソーバー兼車高調整機能兼ガスバネ)の効果が大きかったが、改良新型は基本素性のレベルアップとの相乗効果が大きいのだろう。レクサスが近年熱心に取り組む“味磨き活動”のフィードバックが色濃く反映されている証拠ともいえる。今回はアメリカらしい速度域高めのワインディングも走らせたが、タイトコーナー以外は前後重量バランスが整ったクルマのように4輪を上手に使った綺麗な姿勢で旋回が可能だった。
国内仕様の目玉は「OVERTRAIL」
上記の印象は改良モデルに共通したモノだが、グレードによって味付けは異なる。新たに設定された「OVERTRAIL(日本専売のOffroadの進化系)」は、オフロード志向のセットアップ+265/70R18サイズのA/Tタイヤ(日本仕様は騒音規制の関係で265/65R18の専用M+Sタイヤを装着予定)の組み合わせ。
ロードノイズは他のグレードと比べると若干気になる所はあるが、ハンドリングは従来モデルのノーマル系並み。穏やかだけどダルではないゆっくりとした動きのボディコントロールで、「本当に君はオフロード向けなの?」と勘ぐってしまうぐらいダルさがない。乗り心地も入力を丸く包み込むような優しさを備えており、LS/LMに近いと感じた。
LX700h “OVERTRAIL”(北米仕様)
一方、「F SPORT Handling」は日本未導入のグレードで、オンロード志向のセットアップ+265/50R22の組み合わせに加えて、前後にパフォーマンスダンパー/リヤスタビライザー/リヤLSD(ヘリカル式)をプラス。オンロードではこれがLXのベストで、ワインディングではタイトコーナーは重量級を感じさせない身のこなし。まさにワインディング“も”走れるではなく、ワインディング“が”走れるLX。
常用域の乗り心地も他と比べると硬めだが、サスペンションだけでなくボディやフレーム含めて統一性のあるスッキリとした減衰感で、オンロード主体なら「これがノーマルでもいいかも?」と思うぐらいの絶妙な味付けだ。
LX700h F SPORT Handling(北米仕様)
LX700h F SPORT Handling(北米仕様)
ノーマル系はリヤ独立2座の「Ultra Luxury(日本向けのExecutive相当)」で、バランスの取れたセットアップ+265/50R22の組み合わせだ。走りはオーバートレイルとFスポーツのハンドリングのいい所取りで、穏やかすぎず、でも俊敏ではない絶妙な味付けだが、乗り心地に関しては欲張りすぎて、どこか中途半端に感じたのも事実…。中でも走行中に路面の悪い所を通過する時にバネ下のバタつきが大きいのと、サスペンションだけで吸収できずフレームにわずかにブルっと伝わる感じが気になったが、さて日本向けはどうなる?
派手さはないが、“待った甲斐があった進化”
ちなみにエクステリアは、OVERTRAILはヒカリモノを抑えた加飾に加えて、新色「ムーンデザート」のボディカラー、モノリスのインテリアカラーなど、プレミアムだけどワイルド系ディテールが新しいが、それ以外のグレードは間違い探しレベル。インテリアは12.3インチフル液晶メーターやエレクトロシフトマチック(LX700hのみ)、フロント席リフレッシュシート、置くだけ充電の進化など機能の充実が主となる。個人的にはせっかくなので次世代レクサスのデザインのエッセンスを少し加えてもよかったのかな…と。
このように、今回の改良は派手さこそないが、総じて言うと“待った甲斐があった進化”だと感じた。だからこそ、今回は欲しい人にちゃんと届いてほしいと願うも、すでに争奪戦が始まっていると言うウワサも…。グローバルモデルなので仕方ないところもあるが、もう少し日本のユーザーにも寄り添ってほしいところだ。
LX700h “OVERTRAIL”(北米仕様)
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