1966年に革命が起こる。「富士重工業がNTN(旧東洋ベアリング)と共同開発」。トヨタは一番遅れて1983年に参入。「よいのは居住性だけ」と言われながら、技術革新で今は主流に。│月刊自家用車WEB - 厳選クルマ情報

1966年に革命が起こる。「富士重工業がNTN(旧東洋ベアリング)と共同開発」。トヨタは一番遅れて1983年に参入。「よいのは居住性だけ」と言われながら、技術革新で今は主流に。

1966年に革命が起こる。「富士重工業がNTN(旧東洋ベアリング)と共同開発」。トヨタは一番遅れて1983年に参入。「よいのは居住性だけ」と言われながら、技術革新で今は主流に。

クルマのメカニズム進化論 駆動系編(2) 〜前輪駆動〜
長い間、後輪駆動車FRの時代が続いたが、ミニの登場によってその流れが変わった。操舵と駆動をスムーズに行えるドライブジョイントの開発によって、前輪駆動車FFは普及し、今では駆動系の主流となっている。今回は、今では主流となったFFという駆動方式について、解説していこう。
※この記事は、オートメカニック2017年の企画記事を再編集したものです。

●文:オートメカニック編集部

FFミニの成功は車体レイアウトの先進性とバーフィールド型ジョイントの開発が大きな要因であった

ミニの誕生には、革新的レイアウトが驚きの目をもって迎えられたことには違いないが、多くのメーカーがそれにどっと続いたわけではなかった。駆動と操舵を同じタイヤで行うことへの懐疑がその理由だった。前輪駆動を成立させるためには駆動と操舵をスムーズに行えるジョイントが必要だ。

既にダブルカルダン型ジョイントが開発され、初期のシトロエン7CVのホイール側にはダブルフックジョイントが用いられた。しかしこれらのジョイントは360度の回転の中で発生する回転変動をゼロにすることは不可能な構造だった。

ミニが採用したのは鋼球を入れたインナーレースとアウターレースを組み合わせたバーフィールド型ジョイントだった。この構造だとタイヤの向きにかかわらず、限りなく回転変動を抑えて駆動力を伝えられる。ミニの成功は車体レイアウトの先進性もさることながら、ハーディー・スパイサー社が開発したこのジョイントの登場によるものだった。

FF車のサスペンションと駆動系。操舵と駆動機構をコンパクトにまとめているのが特徴。ドライブジョイントの進化によってFF車は小型車のスタンダードとなった。

FF車のドライブジョイントの構造。ナックル側には剛球を内蔵したバーフィールド型が、トランスミッション側にスライド機能のあるトリポード型を採用する例が多い。

車体側ジョイントの革新、ダブルオフセット型の登場

しかし、ミニが採用したバーフィールド型ジョイントは車輪側のみで、トランスミッション側にはカルダン型が使用されていた。

ミニ以後のFF車の多く、といってもそれをベースにしたオースチン系はこの方式を踏襲したが、1966年、ジョイントに革新が起こる。富士重工業がNTN(旧東洋ベアリング)と共同でトランスミッション側に用いるダブルオフセット型ジョイントを開発し、スバル1000を登場させたのだ。

このジョイントは回転変動を抑えながら、さらに軸方向にスムーズにスライドする機能を備えていた。トランスミッション側にはその後トリポード型も開発され、多くのFF車がタイヤ側にはバーフィールド型、トランスミッション側にトリポード型を採用するようになる。

優れた居住性を大きな利点としていたFFだが欠点も抱えていた。車体前部にほとんどの重量物を配置することによってハンドリングが強いアンダーステアになること、限られたタイヤのグリップ力を駆動とコーナリングフォースに使うため、これもアンダーステアを導くこと、旋回中にアクセルオフをするとオーバーステア(タックイン)が発生すること、左右のドライブシャフトの長さが異なることに起因するトルクステアが発生することなどが主なものだった。

よいのは居住性だけ。操縦性に限ればFRが圧倒的に優位にあった。このため、FF化に舵を切ったのはスバル、ホンダなどの中小メーカーで、トヨタ、日産は慎重なラインナップを構成した。日産はサニーをFRのまま残し、チェリーでFFに参入。トヨタは一番遅れてターセル/コルサで参入し、主力車種のカローラをFF化したのは1983年のことだった。

国産FF車のパイオニア、スズライトSS。1955年に製造された。ドライブジョイントはカルダン型。メカニズム的には完成されたものではなかったが、先進性はおおいに評価された。

1966年に発表されたスバル1000。トランスミッション側に世界初のスライド機構を持ったダブルオフセット型等速ジョイントが採用されていた。

日産は主力車種のサニーをFRとして残し、新たに開発したチェリーをFFとした。コンパクトながら優れた居住性を持ち、軽快な走りが特徴だった。

ウイークポイントを解消、駆動方式の主流へ

コンパクトカーでFF化が進むとFFの持つウイークポイントが年を追うごとに改良されていった。トルクステアは等長ドライブシャフトの採用で解消され、アンダーステアはサスペンションの動的ジオメトリーの解析によって、常にタイヤを適正に接地させられるようになった。タイヤの進化もそれに大きく貢献した。

ジョイントの構造に大きな革新はなかったが、細かい部分で改良が進められた。タイヤ側に用いられるバーフィールド型では鋼球を小さくして数を多くすることで、大トルクに耐え、さらに屈曲角度を大きくしたものが登場した。これによって回転半径の縮小が図られた。ケース内のトラックを軸方向に傾斜させ、フリクションロスを低減したものも実用化されている。

1900年代初期には異種と思われていたFFだが、今では駆動方式の主流となり、それから派生した4WDも多くのメーカーがラインナップしている。

トヨタは前輪駆動化に最も慎重なメーカーだった。ターセル/コルサでまず参入し、主力車カローラがFF化されたのは1983年のことだった。

カローラFFのシャシー。フロントはストラット。リヤにもパラレルロワリンクを用いたストラットを採用した。トヨタの本格的なFF化はここから始まった。

ドライブジョイントの進化がFFを普及させた

バーフィールド型ジョイントの登場によって操舵しながらスムーズに動力を伝えられるようになった。完成されたように見えるジョイントだが、コンパクト化、操舵角の向上など、常に細部にわたって改良が加えられている。

バーフィールド型ジョイントは常に改良され、進化を続けている。剛球を小さくし、数を多くして、ハウジングをコンパクトにする他、屈曲角度も拡大されている。図はNTNのもので、溝の角度を最適に設計することでフリクションロスを軽減している。

ハウジングの中に剛球を配置したジョイントを組み合わせるバーフィールド型ジョイント。このジョイントの発明によってFF車の普及が促進された。

ハウジングの中に三つ股のジョイントを配したトリポード型。ニードルベアリングが内蔵され、スムーズに軸方向に移動する。トランスミッション側に使用される。

バーフィールド型に軸方向のスライド機能を加えたダブルオフセット型ジョイント。FF車のトランスミッション側の他、FR車にも採用されている。

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