
クルマのメカニズム進化論 駆動系編(2) 〜前輪駆動〜
長い間、後輪駆動車FRの時代が続いたが、ミニの登場によってその流れが変わった。操舵と駆動をスムーズに行えるドライブジョイントの開発によって、前輪駆動車FFは普及し、今では駆動系の主流となっている。今回は、今では主流となったFFという駆動方式について、解説していこう。
※この記事は、オートメカニック2017年の企画記事を再編集したものです。
●文:オートメカニック編集部
FFミニの成功は車体レイアウトの先進性とバーフィールド型ジョイントの開発が大きな要因であった
ミニの誕生には、革新的レイアウトが驚きの目をもって迎えられたことには違いないが、多くのメーカーがそれにどっと続いたわけではなかった。駆動と操舵を同じタイヤで行うことへの懐疑がその理由だった。前輪駆動を成立させるためには駆動と操舵をスムーズに行えるジョイントが必要だ。
既にダブルカルダン型ジョイントが開発され、初期のシトロエン7CVのホイール側にはダブルフックジョイントが用いられた。しかしこれらのジョイントは360度の回転の中で発生する回転変動をゼロにすることは不可能な構造だった。
ミニが採用したのは鋼球を入れたインナーレースとアウターレースを組み合わせたバーフィールド型ジョイントだった。この構造だとタイヤの向きにかかわらず、限りなく回転変動を抑えて駆動力を伝えられる。ミニの成功は車体レイアウトの先進性もさることながら、ハーディー・スパイサー社が開発したこのジョイントの登場によるものだった。
車体側ジョイントの革新、ダブルオフセット型の登場
しかし、ミニが採用したバーフィールド型ジョイントは車輪側のみで、トランスミッション側にはカルダン型が使用されていた。
ミニ以後のFF車の多く、といってもそれをベースにしたオースチン系はこの方式を踏襲したが、1966年、ジョイントに革新が起こる。富士重工業がNTN(旧東洋ベアリング)と共同でトランスミッション側に用いるダブルオフセット型ジョイントを開発し、スバル1000を登場させたのだ。
このジョイントは回転変動を抑えながら、さらに軸方向にスムーズにスライドする機能を備えていた。トランスミッション側にはその後トリポード型も開発され、多くのFF車がタイヤ側にはバーフィールド型、トランスミッション側にトリポード型を採用するようになる。
優れた居住性を大きな利点としていたFFだが欠点も抱えていた。車体前部にほとんどの重量物を配置することによってハンドリングが強いアンダーステアになること、限られたタイヤのグリップ力を駆動とコーナリングフォースに使うため、これもアンダーステアを導くこと、旋回中にアクセルオフをするとオーバーステア(タックイン)が発生すること、左右のドライブシャフトの長さが異なることに起因するトルクステアが発生することなどが主なものだった。
よいのは居住性だけ。操縦性に限ればFRが圧倒的に優位にあった。このため、FF化に舵を切ったのはスバル、ホンダなどの中小メーカーで、トヨタ、日産は慎重なラインナップを構成した。日産はサニーをFRのまま残し、チェリーでFFに参入。トヨタは一番遅れてターセル/コルサで参入し、主力車種のカローラをFF化したのは1983年のことだった。
国産FF車のパイオニア、スズライトSS。1955年に製造された。ドライブジョイントはカルダン型。メカニズム的には完成されたものではなかったが、先進性はおおいに評価された。
1966年に発表されたスバル1000。トランスミッション側に世界初のスライド機構を持ったダブルオフセット型等速ジョイントが採用されていた。
日産は主力車種のサニーをFRとして残し、新たに開発したチェリーをFFとした。コンパクトながら優れた居住性を持ち、軽快な走りが特徴だった。
ウイークポイントを解消、駆動方式の主流へ
コンパクトカーでFF化が進むとFFの持つウイークポイントが年を追うごとに改良されていった。トルクステアは等長ドライブシャフトの採用で解消され、アンダーステアはサスペンションの動的ジオメトリーの解析によって、常にタイヤを適正に接地させられるようになった。タイヤの進化もそれに大きく貢献した。
ジョイントの構造に大きな革新はなかったが、細かい部分で改良が進められた。タイヤ側に用いられるバーフィールド型では鋼球を小さくして数を多くすることで、大トルクに耐え、さらに屈曲角度を大きくしたものが登場した。これによって回転半径の縮小が図られた。ケース内のトラックを軸方向に傾斜させ、フリクションロスを低減したものも実用化されている。
1900年代初期には異種と思われていたFFだが、今では駆動方式の主流となり、それから派生した4WDも多くのメーカーがラインナップしている。
トヨタは前輪駆動化に最も慎重なメーカーだった。ターセル/コルサでまず参入し、主力車カローラがFF化されたのは1983年のことだった。
カローラFFのシャシー。フロントはストラット。リヤにもパラレルロワリンクを用いたストラットを採用した。トヨタの本格的なFF化はここから始まった。
ドライブジョイントの進化がFFを普及させた
バーフィールド型ジョイントの登場によって操舵しながらスムーズに動力を伝えられるようになった。完成されたように見えるジョイントだが、コンパクト化、操舵角の向上など、常に細部にわたって改良が加えられている。
バーフィールド型ジョイントは常に改良され、進化を続けている。剛球を小さくし、数を多くして、ハウジングをコンパクトにする他、屈曲角度も拡大されている。図はNTNのもので、溝の角度を最適に設計することでフリクションロスを軽減している。
ハウジングの中に剛球を配置したジョイントを組み合わせるバーフィールド型ジョイント。このジョイントの発明によってFF車の普及が促進された。
ハウジングの中に三つ股のジョイントを配したトリポード型。ニードルベアリングが内蔵され、スムーズに軸方向に移動する。トランスミッション側に使用される。
バーフィールド型に軸方向のスライド機能を加えたダブルオフセット型ジョイント。FF車のトランスミッション側の他、FR車にも採用されている。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
a
最新の関連記事(大人気商品)
クルマの内窓掃除が面倒になる理由はクルマの進化にあった 車内のガラス掃除は、外装洗車に比べて軽視されやすい。しかしフロントガラス内側の汚れは、夜間や逆光時に視界を大きく損なう要因になる。にもかかわらず[…]
タッチパネル時代の宿命、車内の指紋汚れ問題 カーナビやディスプレイは、もはやクルマに欠かせない存在だ。目的地案内はもちろん、エアコン操作や各種設定まで担うようになり、触れる回数は年々増えている。その一[…]
ドリンクホルダー不足は意外と深刻な“あるある問題” クルマの中にあるドリンクホルダーは、飲み物だけを置くものではない。小腹を満たすスナック、ボトル入りガム、灰皿、芳香剤など、実際は“なんでも置き場”と[…]
一見すると用途不明。だがSNSの反応は異常に熱い バズったカーグッズの多くは、見た目のインパクトが強かったり、使い方が一見わかりにくかったりする。このGONSIFACHA製スマホホルダーもまさにその代[…]
置くだけで成立するスマホスタンドという潔さ スマートフォンをどう置くか。この小さなテーマのために、これまで何度カー用品売り場をうろついたか思い出せない。エアコン吹き出し口に固定するタイプ、ゲル吸盤で貼[…]
最新の関連記事(ニュース)
来年開催のGREEN×EXPO 2027特別仕様ナンバーが交付受付中 最近、よく見かけるようになった図柄ナンバープレート。さりげないイラストが特別感を醸し出してくれる。全国のユーザーが申請することがで[…]
今も息づく農業機械の魂、ランボルギーニ・トラクター フェラーリと双璧をなすイタリアのスーパースポーツカーメーカー「ランボルギーニ」。創業者のフェルッチオ・ランボルギーニは大の車好きで、自らがチューニン[…]
サーフ文化と電動MINIが融合 オーストラリアで誕生したDeus Ex Machina(デウス・エクス・マキナ)は、単なるファッションブランドの枠を超え、モーターサイクル、サーフィン、スケートボードと[…]
国内最大級のファンイベント。今年は紅葉の季節に開催 詳細な実施内容は、順次オフィシャルウェブサイトなどで発信 「ルノーカングージャンボリー」は、ルノーカングーのオーナーのみならず、車種を問わずクルマで[…]
チームカラーとして継承してきた赤・黒・白を基調に、グリーンのアクセントカラーをプラス ホンダは、2026年のSUPER GT GT500クラスに新型マシン「PRELUDE-GT(プレリュードGT)」で[…]
人気記事ランキング(全体)
ロッドを効率良く収納できる革新的なアイテム アウトドアアクティビティの中でも、愛好者が多いジャンルの1つに釣り(フィッシング)が挙げられる。釣りは、様々な道具を使用し、ハマるとどんどんと必要なタックル[…]
車中泊を安心して、かつ快適に楽しみたい方におすすめのRVパーク 日本RV協会が推し進めている「RVパーク」とは「より安全・安心・快適なくるま旅」をキャンピングカーなどで自動車旅行を楽しんでいるユーザー[…]
猛暑も怖くない機能が詰まったキャビン空間 東和モータースの最新モデル「バディ108」は、ダイハツのハイゼットトラックをベースにした軽キャンピングカー。軽自動車特有の取り回しの良さと、本格的なキャンピン[…]
伝説の名車「マイバッハ・ツェッペリン」に敬意を表したデザインを採用 「Mercedes-Maybach S 680 V12 Edition」は、究極のラグジュアリーを追求するマイバッハの名を冠する特別[…]
ドアのストライカー部分の隙間を埋めてボディの剛性をアップ 今回紹介するアイテムはアイシンのドアスタビライザー(※株式会社アイシンの登録商標)は、車両のドアをボディと一体化させることで、走行性能を向上さ[…]
最新の投稿記事(全体)
伝説の名車「マイバッハ・ツェッペリン」に敬意を表したデザインを採用 「Mercedes-Maybach S 680 V12 Edition」は、究極のラグジュアリーを追求するマイバッハの名を冠する特別[…]
小型モーターがエンジンをアシスト 導入されたマイルドハイブリッドモデルには、小型モーターがエンジンをアシストする48Vマイルドハイブリッドシステムを搭載。スムーズな発進や加速、燃料消費率の向上、そして[…]
猛暑も怖くない機能が詰まったキャビン空間 東和モータースの最新モデル「バディ108」は、ダイハツのハイゼットトラックをベースにした軽キャンピングカー。軽自動車特有の取り回しの良さと、本格的なキャンピン[…]
コンパクトなのに本格派。商用バンベースの挑戦 Rakuneru Leiは、タウンエースをベースに仕立てられたミニバンサイズのキャンピングカーだ。取り回しやすいコンパクトなボディはそのままに、キッチンを[…]
車中泊を安心して、かつ快適に楽しみたい方におすすめのRVパーク 日本RV協会が推し進めている「RVパーク」とは「より安全・安心・快適なくるま旅」をキャンピングカーなどで自動車旅行を楽しんでいるユーザー[…]






























