不遇の時代が生んだ異端のGT。「ジャパン」と呼ばれたスカイライン、その数奇な生涯を解説│月刊自家用車WEB - 厳選クルマ情報

不遇の時代が生んだ異端のGT。「ジャパン」と呼ばれたスカイライン、その数奇な生涯を解説

不遇の時代が生んだ異端のGT。「ジャパン」と呼ばれたスカイライン、その数奇な生涯を解説

「日産・スカイライン」といえば、日産を代表する高性能“GT”のシリーズです。“GT”とは英語で「グランドツーリング」の略で、ゲームでも名が通っている「グランツーリスモ」はイタリア語の読み方です。ヨーロッパ大陸で呼び方が広まり、意味は長距離を快適に走破するためのクルマということです。そのため、高性能でパワーにゆとりのあるエンジンを搭載して、長い道のりを走行するのにドライバーや乗員にできるだけ疲労を与えないような足まわりやシートを装備しているのが特徴です。「スカイライン」は日本を代表する“GT”として、公道の走破性はもちろん、レースの世界でもその名を轟かせてきました。今回は、そのシリーズの中から5代目の「ジャパン」にスポットをあてて紹介していきます。

●文:月刊自家用車編集部(往機人)

“GT”として不遇の時代を生きた悲劇のスカイライン

スカイラインシリーズとして5代目にあたる「C210系・スカイライン」は1977年に誕生しました。
このモデルは「ジャパン」という愛称で呼ばれていて、その由来はCM等のキャッチコピーだった「SKYLINE JAPAN」から来ています。

1957年に初代が発売された「スカイライン」の20周年を記念するモデルとなったことに合わせて、「スカイライン」の父と言われる「櫻井眞一郎」氏の提案で、日本の風土で育まれた日本を代表するクルマという想いが込められているそうです。

シャーシは先代の「ケンメリ」こと「C110系・スカイライン」から引き継いだものをブラッシュアップしたもの。

このシャーシは元を辿ると「プリンス自動車」の設計が色濃く残る3代目の「ハコスカ(C10系)」から受け継がれたもので、「プリンス」のDNAによる最後のシャーシとも言えるでしょう。

足まわりの、前:マクファーソンストラット式、後ろ:セミトレーリングアーム式という4輪独立懸架スタイルも「ハコスカ」からの延長にあります。

外観のデザインは、1980年代を先取りするような近未来感のあるシャープでスマートなものでしたが、その印象からスポーティさや力強さのイメージが遠のき、一部では“GT”としての迫力に欠けると評価されてしまいます。

内装も外観のテイストに合わせて直線基調を採り入れた挑戦的なものでしたが、これも既存の“GT”らしさから遠のいたと受け取られ、“おじさんのクルマ”というイメージで扱われてしまいます。

今改めて「ジャパン」のデザインを見ると、内外装共にとても完成度の高い印象を抱きますが、当時の風潮にはあまりウケが良くなかったようです。

ライバルに煽られながらも、ターボ搭載で立場逆転

発売当初、エンジンのタイプは「ハコスカ」からの流れをそのまま引き継ぎ、直列4気筒の「L16型」と「L18型」の2種と、直列6気筒の「L20E型」というラインナップで、どれもアピールポイントに乏しいSOHCタイプだったため、DOHC搭載モデルをラインナップしていたライバルの「トヨタ・セリカ」のCMで「名ばかりのGT達は、道を開ける。」という挑発を受けていました。

この状況は、この時期に施行された厳しい排気ガス規制によるところが大きく、新たなハイパワーエンジンの開発がかなり難航していたせいでした。

その状況を打破すべく「日産」が投入したのが、日本初となるターボ仕様エンジン「L20ET型」です。
この「L20 ET型」エンジンは、先に高級車の「セドリック/グロリア」に搭載され、それから4ヶ月後に「ジャパン」に搭載となりました。

CMなどではその新機構のイメージを際立たせるために「TURBO」の言葉を多用して高性能な印象をアピールして、ライバルの「セリカ」に一矢報いることもできましたが、実際は今のダウンサイジング・ターボと同様に燃費性能を高めるという側面が大きく、今あらためて乗ってみるとターボとしてはやや物足りなさを感じます。

しかしながら、それ以上に出力低下を余儀なくされていた他のエンジンたちよりも1歩抜きん出た加速だったようです。

6気筒系では最終型で2.8Lディーゼルの「LD28型」搭載モデルが追加されます。

4気筒系では、1気筒あたり2本のスパークプラグを持つ“ツインスパーク”の急速燃焼方式で高燃費と低排出ガスを実現した「Z16型/Z18型」エンジンを1978年に投入して、厳しい排気ガス規制に対応しました。

あの「マシンX」のベース車輌にも

この「ジャパン」の大きなトピックのひとつとして真っ先に挙げられるのが、警察ドラマ「西部警察」の特殊車両として活躍したことでしょう。

後期のフラッグシップである「L20ET型」ターボエンジンを搭載した「2000ターボGT-E」グレードをベースにした「マシンX」です。

初登場は「Part.Ⅰ」の第45話「大激走!スーパーマシン」で、それから次期モデルの「スーパーZ」に引き継ぐまでの約1年間活躍したようです。

外観は、ブラックのボディカラーにゴールドのラインが入った「2000ターボGT-E」の代表色に、オプション装備の「カンパニョーロ」製マグネシウムホイール(ゴールド)を装着しています。

見どころは内装で、助手席は取り払われてスイッチや計器が多く並ぶコンソールが設置されています。
そして速さを演出するためにレースカーの方程式が導入され、ロールケージやバケットシート(レカロ製)、4点式シートベルト(ブリタックス製)、小径ステアリング(ナルディ製)などが装着されています。

劇中の“設定”では、出力が倍近い300psに引き上げられ、最高速度は240km/hとなっていますが、意外と当時のチューニングレベルで実現できるギリギリの数値になっているのは興味深いですね。

いまや直4モデルでも、相場は高騰

この「ジャパン」は、当時からの“おじさん用”という印象もあってか、中古車市場では旧車スカイラインとしてはかなり低い値付けがされていて、好きな人にとってはお買い得な車種でした。

しかし旧車全体が軒並み値上がりする中で、カスタムしやすいと評判の「L型エンジン」搭載車の注目が高まり、いつの間にかこの「ジャパン」もターゲットとなり、価格高騰に巻き込まれてしまいました。

4気筒モデルなら比較的安価のようですが、それでも300万円は下回らないでしょう。

写真ギャラリー

ハードトップ 2000ターボGT-E・Xタイプ
全長×全幅×全高:4600×1625×1375mm、ホイールベース:2615mm、トレッド(前/後)1370/1355mm、車両重量:1230kg、乗車定員:5名 ミッション:5速MT/3AT、駆動方式:FR、エンジン:1998cc直列6気筒OHCターボ、圧縮費:7.6、最大出力:145PS/5600rpm、最大トルク:21.0kg-m/3200rpm、ステアリング:リサーキュレーティングボール式、サスペンション(前/後):ストラット独立懸架式/セミトレーディングアーム独立懸架式、ブレーキ(前/後)ディスク/リーディングトレーリング、タイヤサイズ:185/70R14、販売価格:184.8万円(東京店頭価格)

“ジャパン”の愛称で知られる5代目C210型スカイラインは、当初はセダン(25車種)、ハードトップ(21車種)、バン(2車種)の3つのボディを選択可能だった。エンジンも1.6L、1.8L、2Lが用意され、1.8L車と2L車はキャブレター車のほか、ニッサンEGIを搭載するインジェクションも選ぶことができた。ミッションは4速/5速MTと3速ATが存在した。2Lのターボモデルは1980年のマイナーチェンジ時に追加されている。

グリルにはGT-TURBOの赤いバッジが備わる。逆文字のTURBOステッカーは純正オプションたった。

ボディサイドのサーフィンラインも継承しているが、あまり目立たない。ちなみにサーフィンラインの採用はジャパンが最後になる。

6気筒エンジンを搭載するGTシリーズのみ、先代のケンメリから引き続き丸型のテールランプを採用している。

セドリック/グロリアの搭載に続き、スカイラインにも採用されることになった2リッターのL20E-T型ターボエンジン。鮮やかに目に飛びこむ真っ赤なヘッドカバーは縮み塗装によるもの。燦然と誇らしげに“TURBO”の文字が刻まれている。

インテリアデザインも直線基調を強く意識したレーシー感溢れるイメージ。ステアリングは2本スポークのブーメランデザインが特徴。コンソール右から中央にかけて並列に並ぶメーターは開発陣のコダワリといわれている。

シートは幅広くホールド性はあまり良くないタイプ。

スポーティというよりはラグジュアリーなデザインとなっている。

オプションのサウンドコントロールレバーによって、前後、左右、自在に音場をコントロールできる。レグジュアリーな装備のひとつ。

インパネには6個のメーターが並び、0の位置が水平になっている。レーシーかつ未来的なイメージのデザインだ。

当時はカーオーディオも充実し始めた時代。AM/FMラジオ、カセットテープデッキがオプションで用意されていた。

天井にはヘッドアップのコンソールが装着されている。コクピットのイメージでこのコンソールは一時期流行した。

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