
5代目が生産終了してから24年。ホンダの伝統モデルが満を持して復活する。ブランドイメージ回復を託された新型プレリュードは、ハイブリッドシステム「e:HEV」を搭載し、前輪駆動クーペとして、再び新しい時代のクルマ像を提示。果たして、その走りとコンセプトは、現代のユーザーにどう響くのだろうか。
●文:渡辺陽一郎 ●写真:本田技研工業/奥隅圭之
前輪駆動のクーペは絶滅危惧種
「ホンダ・プレリュード」の車名を聞いて懐かしく感じるユーザーは、相応の年齢に達していると思う。
プレリュードはミドルサイズのクーペで、1978年に初代モデルを発売した。
人気が高かったのは、1982年に登場した2代目と1987年の3代目。両世代とも内外装が洗練させたデザインな上に動力性能も良好。さらに前輪駆動ということもあって、運転感覚が馴染みやすかったことも大きな理由だろう。
こんな風にプレリュードは、クーペであっても後輪駆動のスポーツカーのような体育会系の雰囲気ではなく、同好会のような気楽さを持ったモデルだった。デザインと機能のバランスが優れていたのが特徴だ。
プレリュードのこんなクルマ造りのスタイルは、1980年代のモテる男子とも重なっていたように思える。勉強もスポーツも適度にこなし、ルックスには清潔感があって会話も楽しい。プレリュードが人気だった時は、男子もクルマも、洗練された品行方正がウケていた時代だったと感じてしまう。
つまり、プレリュードを買うのは男子でも、その背景には、女子に対する気遣いがあったワケだ。
それ以前の男性諸氏は「俺は中古のフェアレディZに乗る、キミは助手席に座っていろ」というスタンスだったが、1980年代に入ると、女子に優しくなった男の子がプレリュードを選び、有名な「デートカー」という言葉も生まれることになる。
ブランドイメージの回復が託された救世主
この後、プレリュードはフルモデルチェンジを重ねたが、2001年に5代目で販売を終えている。そんな大看板を24年も経過してから復活させる理由を開発者に尋ねると、このような答えが返ってきた。曰く「近年、ホンダのブランドイメージが変わってきていて、若い人ほど印象が薄い傾向があります。そこで改めてホンダ車の操る喜び、チャレンジ精神を表現すべくプレリュードを復活させたいと思っています」
ホンダは、プレリュードを終了した2001年に初代フィットを発売して、その翌年には2002年国内累計販売台数が250,790台(自販連調べ)となり、国内の登録車販売において第1位になった。その10年後の2011年には、初代N-BOXを発売してヒットさせ、2代目の先代N-BOXが登場した2017年以降は、ほぼ毎年国内年間販売ランキングの総合1位を占めている。
2025年1〜7月のホンダの国内販売状況を見ると、軽自動車が44%を占める。そこにフリード+フィット+ヴェゼルも加えると、国内で売られるホンダ車の76%に達している。つまり、今の30歳以下の人達にとって、ホンダは「小さくて背の高い、安価な実用車を造るメーカー」というわけだ。
本来ならこの対策は、先代N-BOXが発売された2017年頃に実施すべきだったと思う。それでもホンダが往年の輝いていた時代を目指し、ブランドイメージの回復に乗り出したことは、クルマ好きとしては嬉しい。
実際、海外でもクーペの人気は下がっていて、北米ではシビッククーペが廃止されている。そのためなのか今後はシビックから切り離された別の車種として、北米でもプレリュードを販売する計画があるそうだ。
ハイブリッド離れした楽しい運転感覚を実現
ホンダにとって大事な「プレリュード」を名乗ることもあって、新型も歴代モデルと共通点が多い。今のクーペが採用する駆動方式は、輸入車を含めて大半が後輪駆動だが、プレリュードは新型も歴代モデルと同じく前輪駆動を踏襲する。これはこれで今となっては貴重な存在だ。
初代や2代目は希薄燃焼方式のCVCCを採用して、クーペでありながら運転の楽しさと優れた環境性能の両立を図っていたが、新型もハイブリッドのe:HEVを搭載した上で、運転の楽しさを追求している。
その象徴となるのが「S+シフト」と名付けられた新機能だ。e:HEVは、高速巡航時を除くと、エンジンが発電を行って駆動はモーターが担当するため、通常走行時はエンジンと駆動輪は繋がっていない。
ところがS+シフトをオンにすると、有段ATのように疑似的なシフトダウンを行うし、それに応じてエンジン回転数も高まってくる。モーター回生による充電量も増え、あたかもエンジンブレーキが強まったような減速が生じる。このモードで運転していると、ハイブリッドとは思えず、ダマされて使いこなすと、かなり楽しい走りが体感できてしまう。
とはいえ、これは単なる遊び道具的な機能ではないのか? さらに燃費への悪影響も気になってしまったので、開発者にそんな疑問をぶつけたところ、「シフトダウンに似せた疑似的な変速風の制御と言われますが、スポーティに走る時は、モーターも大量の電気を必要としますので、実はエンジン回転を高めて発電量を増やすことは理屈に合う。燃費もさほど悪化しない」とのこと。
疑似的な制御を加えるならば、S+シフトでシフトダウン風の操作をした時は、もう少しモーターの回生による減速力を強めて欲しいと感じた。理由としては、エンジン回転数が威勢良く高まる割に、速度があまり下がらないからだ。
このあたりについては、開発者は「S+シフトでの減速は0.1Gに抑えていますが、S+シフトを解除して、パドルシフトにより回生の制動力を一番高めると0.2Gになります」と答えてくれた。つまり、峠道を気持ち良く流す時はS+シフト、攻めた走り方をしたい時は、パドルシフトを用いたマニュアル操作と、使い分けがおすすめだという。
独自の技術とセッティングにより、ダイレクトな駆動レスポンスと鋭い変速フィールを実現。最新の電動制御技術は、良い意味でハイブリッドのイメージを覆してくれる。
カップルのためのデートカーとしての資質も申し分なし
プラットフォームはシビックと共通。足回りの設定は、ショックアブソーバーの減衰力を変化させる機能も含めてシビックタイプRに準じている。走行安定性を高めるアジャイルハンドリングアシストは、制御範囲をフットブレーキ作動時まで拡大して、峠道のカーブに進入する時から挙動が安定している。前輪が踏ん張って良く曲がるが、それ以上に後輪の接地性を高め、危険を避ける時も安定している。高速道路の横風にも強いだろう。
S+シフトとは別に、スポーツ/GT/コンフォートのドライブモードも設定。特にコンフォートモードでは、ショックアブソーバーの減衰力が柔軟に制御され、乗り心地も快適だ。カーブを曲がる時にボディの傾き方が大きめになるが、唐突な挙動変化は生じない。これなら助手席に座る同乗者も不安を感じることないだろう。走りの楽しさと同乗者も含めた快適性の両立は、歴代プレリュードが重視した「デートカー」の魅力。新型にもその美点がしっかりと宿っているようだ。
低く水平基調のインストルメントパネルによって、クリーンな視界が確保。Googleを搭載した9インチのHonda CONNECT ディスプレイは、使い慣れた機能を車内でシームレスに利用できるため、パーソナライズされたドライブ体験を提供してくれる。
運転席はスポーツ走行に適したホールド性を高めている一方で、助手席は包み込まれるような快適さを追求。ライバルとは異なるアプローチも面白い部分。ほかにも手の触れる部分に上質な表皮素材が採用されるなど、スペシャリティカーらしい細部までのこだわりを感じさせてくれる。
600万円超えのプレリュード、 シビックタイプRとの違いは明白
プレリュードの価格は617万9800円で、受注を再開したシビックタイプRも同額になる。プレリュードには特別なクーペボディと上質な内装、e:HEVが備わり、シビックタイプRは高性能なターボエンジンと熟成された足回りが採用される違いがある。
つまり、両モデルはプラットフォームや価格などを共通化しながらも、クルマの性格は大きく異なることになる。ホンダはこの個性が違うスポーツカーを世に送り出すことで、ブランド力の回復を狙うことになるわけだ。
プレリュードは前輪駆動のクーペだからライバル車を見つけにくいが、価格も考えると日産フェアレディZのバージョンS(634万7000円/9速AT)が近い。
フェアレディZはV型6気筒の3Lツインターボを搭載して後輪を駆動するスポーツカー。昔を知るユーザーほど「プレリュードの価格がフェアレディZと同じ!?」と思うだろうが、復活したプレリュードは上級スペシャルティクーペ。生産終了となっていなければ、レクサスRCも近い関係になっただろう。
ちなみに首都圏のホンダ販売店では、「1回目の予約受注は、8月の上旬から24日まで実施して一度締め切ることになりました。この中から抽選で選ぶ流れです。今後、2回目の予約受注を行って、9月21日に締め切って抽選を行う」とのこと。購入を希望しているなら、とにかく早めに動くことをオススメしたい。
ライバルは、後輪駆動のスポーツカーばかりだが、プレリュードは環境性能と運転の楽しさを両立していることが強み。特に「S+シフト」がもたらす新しいスポーツ走行体験は、刺さる人にはかなり刺さるだろう。「デートカー」としての快適性への配慮も、他のクーペにはない独自の魅力といえる。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
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