
スーパー耐久富士24時間レースで大注目の液体水素カローラやミッドシップのGRヤリスなど、ST-Qクラス参戦で磨かれる技術があります。
●文/写真:松永和浩(月刊自家用車編集部)
液体水素カローラはJR鉄道総合研究所とのコラボ
6月6~7日に富士スピードウェイで開催された「ENEOS スーパー耐久シリーズ2026Empowered by BRIDGESTONE 第3戦 富士24時間レース」(富士24時間レース)。
この中で、2022年からスーパー耐久のST-Qクラスに参加し続ける水素カローラ「TGRR GR Corolla H2 concept」ですが、2026年では新たなパートナーとしてJR鉄道総合研究所(鉄道総研)が仲間に加わったという発表がなされました。
水素カローラTGRR GR Corolla H2 concept
水素カローラの燃料は、2022年では気体水素を使用していましたが、2023年からはよりエネルギー密度が高い液体水素を搭載するようになり、マシンへの積載量や給水素設備の小型化などが年を追うごとに進化。
しかし、液体水素を使用する場合に大きな課題のひとつとなるのが燃料ポンプ。これまではタンクから露出した燃料配管にポンプを置くことで運用していました。この方式では燃料ポンプと燃料タンクの組み合わせがかなり大きくなってしまうことがネックとなっており、タンク内部に燃料ポンプを配置しようと開発を行ってきました。
問題点はマイナス253℃という液体水素の環境下では潤滑油が使えないということ。そのため、通常の金属を使う燃料ポンプでは歯車のかみ合わせなどでの摩耗が大きくなり、耐久性が乏しくなるなど問題が山積みとなります。
水素カローラTGRR GR Corolla H2 conceptのドライバー陣
ここで鉄道総研のノウハウが生きてきます。鉄道総研はあのリニア新幹線を開発しており、リニア新幹線のコア技術に超電導があります。
超電導とは、物質を極低温まで冷やすと電気抵抗がゼロになり、なおかつ物質内部の磁場を排除する現象が同時に起きる相転移現象です。電力ロスが無く、強力な磁場を発生させることができるとされています。
この超電導物質の研究開発から、製造ノウハウに至る技術と超電導の利用ノウハウを蓄積しているのが鉄道総研で、この超電導技術を使ってマイナス253℃の極低温下でも動き続ける燃料ポンプを開発することがコラボの目的です。
水素カローラTGRR GR Corolla H2 concept
今年、2026年の富士24時間レースではこの超電導技術を使った回転子モーターの燃料ポンプを搭載する燃料タンクを使用して航続距離向上を狙います。燃料ポンプや補器類の耐久性を考慮して、それらをまとめた燃料タンクユニットを1回交換することを織り込んで、24時間での目標周回数は500周を目指しました。
ミッドシップのGRヤリスとGRヤリスのオートマDAT
液体水素カローラの他にトヨタではGR Team ORC FieldからミッドシップのGRヤリス「GR YARIS M concept」、GR Team SPIRITからは「GR Yaris DAT Racing Concept」をST-Qクラスに投入。
ミッドシップのGRヤリス GR YARIS M concept
GR YARIS M conceptは単にミッドシップにしたGRヤリスということだけでなく、2L 4気筒ターボの新エンジン「G20型」エンジンの開発も担っているため、使用される燃料はガソリンとなります。
GR Yaris DAT Racing Conceptはスポーツ用8速オートマチックトランスミッションのDATをさらに磨き込むために
参戦。こちらは低炭素燃料としてバイオエタノール20%をブレンドした「E20」燃料を使用しています。
スポーツATのGR Yaris DAT Racing Concept
これらのマシンの気になるレースですが、今年の富士24時間レースの特徴としては、途中で雨が降ったものの赤旗中断になるような雨量や霧にならず、FCYが何度か入った程度でした。
24時間ほぼフルにレーシングスピードでのレースが展開され、ST-Qクラスのトヨタ勢にとっても予期せぬトラブルが出る可能性は否めません。実際、スタートから5時間経過の20時頃にオイルクーラー破損から出火するというアクシデントに見舞われました。
幸いオイルクーラーから漏れたオイルが排気管の熱で出火しただけで、マシンのダメージはほぼ無く、オイルクーラーなどの一部の部品を交換したのみでレースに復帰。
しかし5時間後の深夜2時頃に今度はタービン異常、そのまた5時間後の午前8時頃にはオイルラインの異常があり、それぞれの修復をしてコースに戻ることに。走ることで壊れた部分を自ら晒していくという公開開発を実践するような状況でした。
ミッドシップのGRヤリス GR YARIS M concept
同じくGRヤリスながらオートマチックミッションで走ったGR Yaris DAT Racing Conceptは特に大きなトラブルに見舞われることなく順調に走り続け690周で完走。マニュアルミッションのGRヤリスが走るST-2クラスと同等の周回数となります。
スポーツATのGR Yaris DAT Racing Concept
また、これは最初から予定された流れではありますが液体水素カローラ「TGRR GR Corolla H2 concept」は深夜2時頃に燃料タンク交換のために2時間ほどのピットイン。それ以外は特に大きなトラブルはなく、目標の500周には届きませんでしたが、これまでの素功カローラでは最大周回数の483周を達成しました。
ミッドシップのGRヤリス GR YARIS M concept
レースの現場で開発を進めることによりその様子を公開し、なおかつ目標設定を明らかにすることで開発スピードを上げていく、という開発姿勢には共感をする方々も多いのではないでしょうか?
すぐに実用化されるかもしれない技術から、水素の様な未来のための基礎研究に近い開発まで、レースの現場で作り上げられていく技術には目を見張るものがあります。
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