
トヨタは2027年のダカールラリーに、水素燃料電池車(FCEV)「DKR GR FC Hilux」を投入すると発表した。世界屈指の過酷なラリーレイドを開発の場と位置付け、燃料電池システムの耐久性や信頼性を磨き、市販車開発へフィードバックする狙いだ。水素エンジンに続く新たな挑戦として注目を集めそうだ。
●文:月刊自家用車編集部(清水) ●写真:トヨタ自動車株式会社/GAZOO Racing/TOYOTA RACING
過酷なダカールを開発の場に。燃料電池技術を鍛え、「もっといいクルマづくり」へ
DKR GR Hiluxをベースにした試作車「DKR GR FC Hilux」。
トヨタは7月9日、TOYOTA GAZOO Racing(TGR)を通じて、2027年のダカールラリーに水素燃料電池車(FCEV)「DKR GR FC Hilux(ハイラックス)」を投入すると発表した。世界屈指の過酷なラリーレイドを開発の場と位置付け、燃料電池システムの耐久性や信頼性を磨き、市販車開発へフィードバックする狙いだ。水素エンジンに続く新たな挑戦として、大きな注目を集めそうだ。
ダカールラリーで燃料電池技術を鍛える
ベースとなるのは、ダカールラリー最高峰カテゴリーで数々の実績を積み重ねてきた「DKR GR Hilux」。この車両にトヨタの燃料電池システムを搭載し、水素から発電した電力でモーターを駆動するFCEVとして開発が進められている。
走行時にCO₂を排出せず、排出されるのは水のみ。トヨタが掲げるカーボンニュートラル実現に向けた「マルチパスウェイ」戦略を象徴する1台となる。
参戦するのは、新技術や実験車両を対象とした「Dakar Future Mission 1000」カテゴリー。約1,000kmに及ぶ過酷なコースを走破しながら、燃料電池システムの耐久性や冷却性能、エネルギーマネジメント、安全性などを実戦の中で検証していく。
ダカールラリーは、2027年1月1日から1月15日までサウジアラビアで開催され、キング・アブドラ・エコノミック・シティがスタートおよびゴール地点となる。高温の砂漠地帯や巨大な砂丘、岩場、ワジ(涸れ川)など、世界屈指の過酷な環境で知られる。その極限状態で得られるデータは、将来の市販車開発にも大きく貢献するはずだ。
開発はすでにベルギーで始まっており、今後数カ月にわたり走行試験を重ね、2027年1月の本番へ向けて熟成を進めるという。
スーパー耐久から始まったトヨタの水素チャレンジ
6月5日~6日に富士スピードウェイで行われたスーパー耐久シリーズ富士24時間レースで、世界初の「超電導液体水素ポンプ」を搭載して出走した水素エンジンGRカローラ。
今回のダカール参戦は突然始まった取り組みではない。
トヨタは2021年、スーパー耐久シリーズに水素エンジンを搭載したGRカローラで参戦を開始。ROOKIE Racingとともに、水素エンジンの実用化に向けた開発を続けてきた。
当初は気体水素を使用していたが、その後は世界初となる液体水素エンジン車によるレース参戦も実現。水素の「つくる」「運ぶ」「使う」までを含めた技術開発を進め、充填時間の短縮や航続距離の向上、信頼性の向上など、多くの成果を積み重ねている。
レースという極限環境だからこそ得られる知見を、市販車開発へ還元するという考え方は、トヨタが一貫して掲げる「もっといいクルマづくり」そのものなのだ。
WRCではGRヤリスH2、ル・マンでは液体水素へ
モナコおよびフランスで開催された2026年WRC(世界ラリー選手権)開幕戦ラリー・モンテカルロのオフィシャルコースにて、モリゾウこと豊田章男会長が自らハンドルを握りデモランを行った水素エンジンを搭載する「GR Yaris Rally2 H2 Concept」。
2026年ル・マン24時間レースの舞台、全長13.626kmのサルト・サーキットを走行した「TR LH2 Racing Prototype」。
水素技術への挑戦はスーパー耐久シリーズだけにとどまらない。
2022年には、世界ラリー選手権(WRC)で「GR YARIS H2」がデモランを実施。舗装路やダート、雪道など刻々と路面状況が変化するラリー競技で、水素エンジンの可能性を世界へ発信した。そして2025年のラリー・フィンランドや2026年のラリー・モンテカルロで「GR Yaris Rally2 H2 Concept」がデモ走行を行うなど、ラリーの分野でも開発が進んでいることをアピールしている。
さらに、ル・マン24時間レースでも水素技術への取り組みを加速している。
2023年には「GR H2 Racing Concept」を公開し、水素レーシングカーの将来像を提示。さらに液体水素を採用した「GR LH2 Racing Concept」へと進化させ、2026年には「TR LH2 Racing Prototype」がサルト・サーキットでデモランを実施。水素エンジン技術を世界最高峰の耐久レースでも磨き続けていることをアピールした。
水素エンジンと燃料電池、両輪で進めるマルチパスウェイ
今回発表された「DKR GR FC Hilux(ハイラックス)」は、水素エンジン車ではなく、水素から発電した電力でモーターを駆動する燃料電池車(FCEV)であることが最大の特徴だ。
つまりトヨタは、水素エンジンだけに開発を集中するのではなく、水素エンジンと燃料電池という2つの技術を並行して進化させ、それぞれの特性を生かしながらカーボンニュートラルの実現を目指している。
HEV、PHEV、BEV、FCEV、水素エンジン。用途や地域、ユーザーのニーズに応じて最適な選択肢を提供する「マルチパスウェイ」戦略は、トヨタの電動化戦略の中核を担う考え方だ。
ダカールで得た知見は未来の市販車へ
DKR GR FC Hilux(ハイラックス)
スーパー耐久シリーズ、WRC、ル・マン、そしてダカールラリー。
トヨタは、それぞれ異なる競技特性を持つモータースポーツを”走る実験室”と位置付け、水素技術を磨き続けている。
今回のダカールラリー参戦では、世界でも最も過酷な環境の一つで燃料電池システムの耐久性や信頼性を検証し、その成果を将来の市販車へとフィードバックしていく。
モータースポーツを起点に技術を鍛え、市販車へ還元していく。その開発哲学こそが、トヨタが掲げる「もっといいクルマづくり」であり、今回の「DKR GR FC Hilux(ハイラックス)」は、その象徴となるプロジェクトと言えるだろう。
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