2023年4月12日に追加情報が公開された「クラウンスポーツ」/「クラウンセダン」/「クラウンエステート」。中でも「クラウンスポーツ」はHEVとPHEVをラインナップし、それぞれ2023年秋と冬に発売することも公表された。今回、富士スピードウェイのショートサーキットで「クラウンスポーツ」のPHEVに試乗できる機会に恵まれた。すでに発売されている「クラウンクロスオーバー」と違いはあるのか!? 第一報をお届けしよう!
●文:川島茂夫 ●写真:奥隅圭之/原 文昭/トヨタ自動車(株)
「遊び足りない大人のために」そんな言葉がぴったりな走りとスポーティなスタイリング&パッケージング
「ラージカローラスポーツ」というのが初見の印象だ。腐すつもりは微塵もない。そこに旧来の高級車の価値感の柵から抜け出そうとするクラウンの気概を感じたのである。
市販開始はHEV(ハイブリッド)モデルが2023年秋、PHEV(プラグインハイブリッド)モデルが2023年冬を予定しており、現時点では公表されたスペックは車体外寸に限定される。なお、HEV/PHEVともには高効率で定評のあるスプリット式を採用。駆動方式は全車E-Fourを用いた4WDとなる。クラウンクロスオーバーに搭載された2.4Lターボデュアルブーストハイブリッドシステムは含まれていない。
公表された車体外寸で全高/全長比等を計算し、カローラスポーツと比較してみたが比率的には全長が長め、全幅が狭めだが、全幅/全高比はほぼ同じ。ちなみに全高は「クラウンクロスオーバー」よりも20mm高く、全長は220mm、ホイールベースは80mm短い。数値的にはずんぐりとしたプロポーションといえるが、本質は余分なものを削り落として身軽になったダイナミズム、つまり弾むような躍動感だ。トヨタではこのパッケージングを「新しいカタチのスポーツSUV」と表現している。
外観の要点となるのはフロントマスクとリヤフェンダー周り。フロントマスクの特徴だが、ヘッドランプがない。実際はあるのだが、「これですか?」と問いたくなるほど。フォグランプに艤装したヘッドランプという体であり、造形的にも存在を隠したいという意図が感じられる。ちなみにヘッドランプがあるべきところの極細ランプはデイライト兼フラッシャー(ウインカー/ハザード)だ。
リヤフェンダーは説明するまでもなく、その張り出し感が特徴。盛り上がる上腕二頭筋とても表現したくなる。装着タイヤの幅広化もあり、全幅も「クロスオーバー」より40mm拡大しているが、視角的ボリューム感はそれ以上だ。後席辺りから後方ベルトラインのキャビン水平形を絞り、合わせてリヤエンドとフェンダーに連続性を持たせボリューム感を演出している。
全長とホイールベースの短縮は居住性と荷室容量に影響が大きく、後席レッグスペースは「クラウンクロスオーバー」より狭まった。大柄な男性の4名乗車に十分なスペースと居心地を得ているが、クラウンシリーズ相対では前席優先と言える。
荷室奥行きも「クラウンクロスオーバー」より狭いとは思われるが、目視ではそう大きな違いは感じられなかった。加えて3BOX車体の「クロスオーバー」の荷室は閉鎖されたトランクルーム。高さが制限されるので荷室奧に積み込むの時の作業姿勢がかなり厳しい。その点5ドアハッチバックの「クラウンスポーツ」は楽なもの。積載の実践力では「クラウンクロスオーバー」以上だ。
2BOX系のスポーティならば走りはヤンチャなホットハッチ系を予想してしまうが、しなやかさを備えた強靭が頼もしく、軽やかな気分のファントゥドライブをもたらしている。
今回試乗したのはPHEV。搭載されるパワートレーンはレクサスNXの450h+と同じもしくはベースとしたものと予想され、同じPHEVでもハリアー/RAV4に対してエンジン/電動系ともにパワーアップ。実際に全開加速性能は1クラス上。ありがちな表現だが「車重を忘れさせる」力強さ。中庸域のコントロール性もよく、じわりと戻すようなペダル操作にも狙ったとおりに付いてくる。繊細だが神経質ではないタイプだ。
同じ傾向はブレーキ操作感も同様。ドンと踏み込んだ時の制動の立ち上がりや制動を抜きながらの回頭でのコントロールが良好。繊細な操作をするほどに扱いやすい。
ただ、走りのハイライトは加減速性能ではない。フットワークである。富士スピードウェイのショートサーキットでは乗り心地のチェックはできず、コーナリング時の脚捌きが主体になるが、そのストローク制御は大人味と評するに相応だった。
「クラウンスポーツ」のサス形式は「クロスオーバー」と基本的には共通だが、全車に電子制御ダンパーのAVSと後輪操舵システムのDRSを標準装着。スペックでは「クラウンクロスオーバー」のRS相応だが、全面見直しと改良が加えられているとのこと。しかも狙いは「クラウンスポーツ」のキャラ付けというより、クラウンが、あるいはトヨタが求める走りの追求である。
操舵開始から間を置かずに回頭と旋回力を立ち上げ始める。初期ロールは抵抗感もなく入るがいたずらにロール速度が速まることはない。それは急激な切り返しや増し切りでも同じ。もっと言うなら空走高速からの急なターンイン、登坂を伴うタイトターンで追い舵を与えた時も同様だ。
厳密には加減速等の負荷変動は起きているのだが4輪の接地バランスが崩れることもなく、変動があっても穏やか。AVSによる接地荷重の制御やDRSの前後輪の旋回力のバランス取りが利いているのだろうが、不安を引き起こすような振る舞いもなく、極めて安定したコントロール性を示した。
強いて難点を挙げるなら切れ味や小気味よさには欠く。往なしと据わりのよさや繋ぎの巧さの裏返しなのだが、オーバーアクション気味の運転を好むドライバーには適さないだろう。
「クラウンスポーツ」を一言で纏めるなら「遊び足りない大人のために」という感じだ。ステータス性よりも若々しい自由さを求めたパッケージングやスタイル。雑味少なく信頼感の高い走り。ヤンチャするほど子供ではないが、心はまだまだ「はつらつ」としている。そんなドライバーのためのクラウンなのだ。
■クラウンスポーツ(プロトタイプ)主要諸元
・全長:4,710mm
・全幅:1,880mm
・全高:1,560mm
・ホイールベース:2,770mm
・タイヤサイズ:21インチ
・乗車定員:5名
・パワートレーン:HEV(ハイブリッド)/PHEV(プラグインハイブリッド)
・駆動方式:4WD
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
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