
2024年10月2日から10月4日までリアル展示が東京ビッグサイトで開催された「H.C.R.2024 第51回国際福祉機器展&フォーラム」。その中で、クルマ視点でとても興味深い展示がトヨタのブースで行われていた。ここではそこで見つけた注目すべき展示物を紹介します。
●文:月刊自家用車編集部
最新の保健福祉・介護・リハビリの最新情報が発信される、業界注目の名物イベント
「H.C.R.」は、そもそも何のことでしょう? まずは聞きなれない方も多いと思うので、そのあたりの基礎知識からおさらいさせてください。
H.C.R.(Int. Home Care & Rehabilitation Exhibition)とは、手作りの自助具から最先端の介護ロボットまで、世界の福祉機器が一堂に会する見本市のこと。ちなみに、日本の開催規模はアジア圏としては最大となるそうです。
歴史も古く、スタートしたのは1974年(昭和49年)とのこと。現在の厚生労働省と社会福祉法人全国社会福祉協議会により「社会福祉施設の近代化機器展」として始まりました。以来、50年もの長い間、最新の保健福祉・介護・リハビリに関する情報を毎年発信し続けているという、歴史あるイベントになります。
すでにリアル展示は終了していますが、11月1日(金曜)まではWEB展が開催されているため、興味のある方はぜひアクセスしてはいかがでしょうか?
このリポートでは、会場で見つけた注目の展示物を紹介してみたいと思います。
●トヨタのメッセージは“すべての「行きたい」を叶えていきたい。
通勤や近所までの買い物など、普段の日常的な移動は健常者にとってはごく当たり前のことかもしれない。だが、お年寄りや障がいを抱える方など、今や日本人の4人に1人は移動すること自体に“障壁や困難”があるという。そんな多くの人々の悩みを少しでも解消したい、という思いでトヨタはさまざまな取り組みを行っている。
国際福祉機器展2024(WEB展)
https://www.hcr-web.jp/
(WEB展示閲覧には登録が必要です)
JUU(電動車椅子)
未来のケアモビリティとしてコンセプトモデルを発表。実用化に向けてさらに前進
車いすをさらに進化させた、モビリティのひとつとして捉えているのがとても面白い着眼点。今回はJMS2023にも参考出品されていたモデルをより身近にした「LITE」が出展されていた。
階段を上る機能は省かれたものの、街中の歩道の乗り上げやちょっとした段差程度ならスムーズに進めるため、ストレスの少ない運用が可能だという。
そのほか、まったく新しいアプローチとして、「PROTO」と名づけられたデザインコンセプトモデルが注目を集めていた。
こちらは見ての通り無骨でアウトドアが似合うタフ仕様。
ビッグサイズのブロックタイヤやリヤサスペンションを備えた足回り、さらにチェーンリダクション機構から想像できるビッグトルクなど、純粋に乗り物として興味を引く内容だ。
ちなみに、駆動用バッテリーは水対策を兼ねて上部の円筒形アームレスト内に収められ、交換式を想定しているという。
車いすのワンタッチ固定
固定作業を簡単にすることで、作業者&利用者の心理的な負担軽減を目指す
車いすで外出するには、自家用車などを利用して自助または介助で乗り込む場合でも相当の労力を要するが、これが公共交通機関となるとさらに一気にハードルが上がってしまう。現状ではどうしてもバスの運転手さんや駅員さんたちの手を借りることになってしまい、こういったスタッフの苦労や、ほかの乗客の方を待たせる時間のことを考えると申しわけなくなってしまう……というのが障がい者の方の本音だろう。
そこでトヨタが提唱したのが、「ワンタッチで車いすを車両に固定できる装置」を普及させること。これは車いすでの車両乗降の際、とくに手間がかかる車両への車いす固定の作業を簡単にすることで、作業者・利用者両方の身体的及び心的負担を軽減するのが狙い。現在では、車椅子簡易固定標準化コンソーシアムとして、多くのカーメーカーと車椅子メーカーが連携して活動に取り組んでいる。
コンソーシアムガイドラインに対応したアンカーバー。車いすメーカーのアイデアによるものだという。
簡易固定器具と車載用の専用車いす。車載時にはヘッドレストも装備可能だ。
キモとなる車いすを固定するフック。車両側の床面に簡易固定器具を埋め込む形になる。
車いすは折り畳みも可能だ。このあたりも車いすメーカー側のアイデアによるものだ。
こちらはスズキブースに展示されていたパネル。この分野に多くのカーメーカーが参画していることを確認できる。
NUKUMARU ぬくまる
移動式の本格ミストサウナをモビリティ化。お風呂が必要な人と場所に、迅速に提供可能へ
移動式ながら本格的なミストサウナ(蒸気浴)を可能にした、普通免許で運用できる専用モビリティがこちら。
ハイエースのスーパーロング&ワイドボディハイルーフをベースにしているため全長5380mm、全幅1880mm、全高2285mmとかなり大柄だが、その分車内スペースにも余裕があり、脱衣所や浴室も十分に広い。
またナノミストは人の毛穴よりも小さな粒子のため、角質層にまで浸透して汚れを取り除けるのが長所だという。
石鹸やシャンプーは不要で、1人当たりわずか330mlの水で運用できるという点も驚きのポイント。
入浴が億劫になりがちなお年寄りの介護の現場はもちろんだが、2024年初頭の能登半島地震災害における被災地支援でも活躍した実績がある。
リラックスできる木肌が特徴の内装。展示車両は、実際に今年1月に発生した能登半島地震災害の被災地支援を行った車両だという。
リヤゲートを開けるとバックヤードが現れる。ミストシャワー装置や20Lの水タンク、バッテリーや外部給電要コードなども備えている。
キネティックシート
誰しもが、楽に正しい運転姿勢を保てる未来のシート
昨年のJMS(ジャパン・モビリティ・ショー2023)では、骨格の状態で出展されていた画期的なアイデアのシートが、表皮などもまとうことで市販化に向けて大きく前進していた。
人体の構造に着目したシートバックとシート座面が背骨の自然な動きに追従することで、ドライビング時の優れたホールド感と快適なサポート性を両立。車いすユーザーだけでなく、長時間の運転で疲れる方、高齢者、運転に自信が無い方にとっても朗報という製品だ。
今回は純スポーツモデルのGRヤリスに装着して参考出品。
これは、車いすユーザーが乗降しやすく、シート高も低い2ドアモデルを選ぶことが多いという実情を鑑みてのことだという。機構的には、パワーシート機能やターンチルト機能も装備可能というだけに幅広い普及が見込まれるとのこと。
今回、GRヤリスに装着されての参考出品となったキネティックシート。リクライニングやリフターといったシート機能は標準シートと変わらず利用できるということがミソ。
昨年2023年のJMSで出品されていたキネティックシートの骨格。ワイヤーの張力を上手に利用しているのが分かる。
ネオステア
足が不自由なユーザーでも、クルマを安全に楽しく走らせることができる期待の技術
こちらも昨年のJMS2023の参考出品をブラッシュアップしたものだが、デザイン面や機能面がさらに洗練された印象になっている。
クルマを動かすための操作はすべて手で行い、その機能をステアリングに集約しているのが見どころ。アクセル・旋回・ブレーキはすべて電気信号で行うバイワイヤが前提となっているが、現状では法規的な問題があるため、市販までにはまだしばらく時間がかかりそうなのが残念。シミュレーターでの操作感がとても良かっただけに今後の展開に期待したい。
ペダルレスコックピットという斬新なアイデアが魅力のネオステア。
デモカーとしてランドクルーザー250に搭載されていたが、角ばったデザインがクルマ全体のイメージととてもマッチしていた。
ブレーキもハンド式。自転車やスクーターのように左指で行うタイプ。バイワイヤ式となる。
ウインカーや先進運転支援機能などのボタンがより洗練されたデザインに進化。
機能を確認できるシミュレーターも設置。ステアリングの左右ロックtoロックが持ち替え不要の180度というのもバイワイヤならでは。
ケアバギー
目が離せない、医療的ケア児をサポートしてくれる頼もしい専用バギー
呼吸をするためにたんなどの吸引などが日常的に必要な医療的ケア児のことを考えて開発された専用バギー(ティルト・リクライニング機構付きモジュラー型車椅子)。
呼吸器や酸素ボンベ、吸引機や着替えなど外出時に必要なアイテムをすっきりと収納できるなど、開発チームの実体験が活かされているのがポイント。
スロープ車のカスタマイズにより後ろ向きにバギーを車載することもできるため、運転席から子どもの様子が常に確認できるように設計されている。
全国に約2万人もいる医療的ケア児のことを考えて開発されたバギー。外出時に必要となる多くの荷物をすっきりと収納可能。
運転席の横で子どもの様子を確認できるため安心。吸引などの措置が必要なら直ちに対処できる。
モバイルトイレ
屋外イベントや緊急時に深刻になるトイレ問題を解決してくれる!
健常者でも出かけた際にはどうしても気になるのがトイレの場所。これが、車いすなどで移動がままならない人ならどれだけの障害になるかは想像に難くない。そんな不自由を少しでも解消するために考案されたのがこのモバイルトイレだ。
重量750kg以下のため普通免許で牽引が可能で、慣れれば15分程度で設置が可能になるという。長さ5200mmのスロープは傾斜角5度で広い室内スペースとともに車いすや介助者に配慮した設計となっているのが見どころ。
トイレは衛生的かつ節水型の真空式を採用しており、タンク容量は1日程度の運用は余裕の90Lだ。また、電源は電動車や発電機、家庭用コンセントにも接続可能なため運用の自由度が高いのも魅力。
さらに、車両サイドには上下水道接続用のノズルも備えているため、使用回数の上限がない定置型としての運用も可能となっている。
機能が凝縮されてた長さ3000mm、高さ2300mm、幅1895mmのモバイルトイレ本体。
長さ5200mm、幅800mm、傾斜角5度のスロープ部。設置箇所の路面状態に合わせて傾き調整などが行える脚部を備えている。
車体後部横には上下水道を接続するためのノズルを完備。電源も外部からの給電とすれば、使用回数の制限もなくなる。
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