
2023年のジャパンモビリティショー(JMS)のホンダブースで大きな注目を集めた、次期プレリュードのプロトモデル。間近に迫った2025年1月の東京オートサロンではカスタム仕様の披露が発表されるなど、市販にむけて具体的な動きが加速している最中だが、それらに先駆けて開発プロトモデルを試乗する機会に恵まれた。テストコース内での限定された状況でのドライブとなったが、プレリュードというビッグネームにふさわしい走りを体感することができたのだ。
●文:川島茂夫(月刊自家用車編集部) ●写真:本田技研工業
次世代e:HEVを採用した、最新ハイブリッドスポーツ
1978年にミドルサイズのクーペとして誕生した「プレリュード」は、2001年の五代目の販売終了によって長らくラインナップから消滅していたが、2023年のジャパンモビリティショーで新型のコンセプトモデルが発表され、まもなく22年の時を経ての復活となる。
通算して6代目となる次期モデルは、2つの面で注目に値する。
まずひとつは、伝統モデルであるプレリュードの復活だ。世界的にも大きく縮小しているクーペ市場でどれほどの存在意義を構築できるか? 国内でも人気を誇ったクルマだけに、次期型の動向は興味深い。
もうひとつは次世代e:HEV技術が導入されたことだ。現在のホンダハイブリッド車の主力を担うe:HEVは、次の時代を見据えてハードウェアと制御の両面で大きな転機を迎えているが、次期プレリュードは最新システムにいち早くアップデートされることで、その先兵としての役割も担うことになる。
2023年のJMSで発表されたプレリュードコンセプト。
プラットフォームは、シビックタイプRをベースに開発
クルマの性能を大きく左右するプラットフォームは、現行型のシビック タイプRをベースに開発されていることも見逃せないポイント。ただ、タイプRのようにマニアックなスポーツ性を狙ったモデルではなく、快適性の向上を意識した歴代のプレリュードのキャラに近い独自設計が加えられる。
パワートレーンはe:HEVとしては1.5世代といえる内容。2Lエンジン搭載のシリーズ/パラレル切替式ハイブリッドのハードウェアは、現行型シビックe:HEVをベースとした、制御を中心とした新世代技術を導入されたものだ。
今回試乗した開発プロトモデルは、ボディにカモフラージュフィルムが貼られており、ライトまわりのデザインが分かりにくいが、基本的に大きな変更はなく、流麗なスタイリングのまま市販化されそう。
最新制御の恩恵は明らか。力強く、そして伸びやかさも十分
今回試乗したモデルは、製品車の少し前段階になる開発プロトモデル。その試乗で強く感じたのは、歴代プレリュードが継承してきた走りの味を、しっかり再現できていたことだ。
具体的にいうと、走りに品の良い洗練感や落ち着き感が感じられる。車格としてはシビッククラスのクーペになるのだが、その走りには1クラス上のラグジュアリー級のモデルを彷彿させる堂々とした雰囲気がある。そう感じる理由として挙げたいのが、余力感十分の動力性能が与えられていることが大きい。
アクセル入力に対してリニアに反応するさまと、操る手応えのある加速の力強さ、伸びやかさがとても印象的で、シビックe:HEVと比べると明らかに小気味よく走れて、しかも余裕を感じさせてくれる。
プラットフォームはシビックタイプR用をベースに開発されるが、パワートレーンは2Lターボではなく、2L直4エンジンにモーターが組み合わされるe:HEVの最新仕様を搭載。最高出力はタイプR並みとはならなさそうだが、電動駆動ならではのレスポンス性の良さと最新の駆動力制御が組み合わされることもあって、なんとも小気味よい走りが楽しめる。
電動駆動ながら、内燃機スポーツらしい演出があることも憎らしい
駆動力制御にメリハリを持たせていることも見どころのひとつで、エンジンとモーターを制御しレスポンス性を高める「Honda S+ Shift」での走りは、ドライビングのリズム感が高まり、変速を模した回転変化とエンジンサウンドは、軽量フライホイール等々を施したチューニングエンジンを思わせるほど。動力性能や燃費に寄与する機能ではないが、クルマ好きなら「なかなか雰囲気あるな」と、ニヤつきそうな演出だ。
聴覚と視覚に訴えかける新システム「Honda S+ Shift」は、2つの大出力モーターとアクティブサウンドコントロールシステムを連動させることで鋭いシフトフィーリングを実現する、新世代e:HEVの目玉機能。メカニカルな変速機構を持たないe:HEVにおいても、Honda S+ Shift作動時にはパドル操作による変速も行い、まるで有段ギアを変速したようなドライブフィールを実現する。プレリュードを皮切りに次世代e:HEV搭載の全機種に順次搭載していく予定とのこと。
タイプR由来のプラットフォームということで、引き締まった乗り味を想像してしまうかもしれないが、方向性としては、この秋に発売されたシビックRSにしなやかさと強靭さを加えたような仕立てだ。操舵に対して過不足ない回頭性と素直なライントレース性も特徴で、操舵に神経質にならずに済む、扱いやすさと安心感も持っている。
攻めたてるようなスポーツドライビングが求められるスポーツカーではなく、ツーリングを主体にした信頼感の高い走りが楽しめることが、次期プレリュードの真骨頂といっていいだろう。4名乗車ながらクーペとしてはキャビンボリュームを取ったパッケージングも含めて、日常用途との適応も悪くないと思う。タウン&ツーリングを上手にこなすクルーザーとして、ホンダのスポーツモデルの選択肢を大きく広げてくれそうなモデルだ。
優れた高速安定性もプレリュードの強みになるのは間違いない。歴代モデルは高速クルーズを得意とするカップルズツアラーとして人気を博したが、次期型も余暇を楽しむパートナーとして大きな注目を集めそうだ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(ホンダ)
「ビッグ3」が反対した法律「マスキー法」と、ホンダの逆転劇 世界で最も早く自動車が普及するモータリゼーションが起きたアメリカでは、1960年代にはその弊害が問題化していました。1940年代からカリフォ[…]
ブラック加飾でスポーティ感を演出した、日本専用の上級グレードを投入 2022年より海外で展開している6代目CR-Vは、国内向けモデルとしてFCEV(燃料電池車)が投入されているが、今回、e:HEVを搭[…]
役人が決めるか、市場が選ぶか。自動車業界を揺るがした「特振法」の真相 敗戦当初は復興のためにさまざまな分野で保護貿易が認められていた日本も、経済成長が進むにつれてそれが許されなくなりました。自動車に関[…]
欧州仕様車専用カラー「レーシングブルー・パール」が用意される 新型プレリュードは、2.0リッターガソリンエンジンと、ホンダ独自の軽量デュアル電動モーターオートマチックトランスミッションを組み合わせた最[…]
意欲作だった「1300」の失敗と厳しくなる排気ガス規制のダブルパンチというピンチ 初代「ホンダ・シビック(SB10型)」が発売されたのは1972年です。1960年代にはすでに2輪の業界で世界的な成功を[…]
最新の関連記事(クーペ)
仕向け地に合わせて作り分けられた”双生児”の個性 最近では少なくなってきましたが、かつてはいわゆる兄弟車がたくさんありました。トヨタならカローラとスプリンター、日産ならサニーとパルサーとラングレーにロ[…]
日本車が手本とした、美を優先する伊デザイン。その代表が117クーペ 日本において、商品のデザインが売れ行きを大きく左右することに最初に気づいたのは、松下電器器具製作所(後の松下電器産業、現パナソニック[…]
史上最強のポルシェ911、T-ハイブリッドで新境地へ システム最高出力は711PSを発揮 新型911ターボSは、ミュンヘンで開催されたIAAモビリティで発表された、911シリーズのトップモデル。ポルシ[…]
コンテッサ1300クーペ(1965年) 高い技術から生み出された美しいクルマは、大きな注目を集めることに 今では、日野自動車が乗用車メーカーだというと、首を傾げる人も多いかもしれない。日本初の国産トラ[…]
豊かになった日本の若者にも受け入れられた、スポーツ性と色気 当時の日本の若者に、初代プレリュードが魅力的に映らなかったのは仕方ない。 今見ると端正なフォルムも、当時のセリカやスカイライン、サバンナRX[…]
人気記事ランキング(全体)
車内には、活用できる部分が意外と多い カーグッズに対して、特に意識を払うことがない人でも、車内を見渡せば、何かしらのグッズが1つ2つは設置されているのではないだろうか。特に、現代では欠かすことができな[…]
日常擁護型の本格キャンパー 街乗りの実用性とキャンピングカーの快適性。その両立は多くのモデルが言葉として掲げるが、実際に成し遂げるのは容易ではない。その点、日産のディーラー直営ショップが手掛ける「スペ[…]
ブラック加飾でスポーティ感を演出した、日本専用の上級グレードを投入 2022年より海外で展開している6代目CR-Vは、国内向けモデルとしてFCEV(燃料電池車)が投入されているが、今回、e:HEVを搭[…]
ホイールベース拡大を感じさせない、巧みなパッケージ設計が光る 2012年に登場した初代CX-5は、魂動デザインとSKYACTIV技術を全面採用した、マツダ社内では6世代商品と呼ばれているシリーズの第一[…]
オフローダーとしてのDNAをプラスすることで、アクティブビークルとしての資質をよりアピール 「デリカ」シリーズは、どんな天候や路面でも安全かつ快適に運転できる走行性能と、広々とした使い勝手のよい室内空[…]
最新の投稿記事(全体)
上質なコンパクトカーに新たな選択肢 プジョー208は、優れた取り回しと洗練されたデザインが評価されているハッチバックモデル。現行モデルは、独自設計のi-Cockpitの採用や、運転支援機能が強化された[…]
「’41」と名付けられた特別なミリタリーグリーン色を採用 ラングラー ルビコンは、世界で最も過酷な山道と言われるルビコントレイルを走破するモデルとして命名された、ジープのラインナップの中で最も高いオフ[…]
2026年度内の量産化を公言 スズキブースの目玉は「Vision e-Sky」と名付けられた、軽EVのコンセプトモデル。 スズキは「日々の通勤や買い物、休日のちょっとした遠出など、軽自動車を生活の足と[…]
BEVとしての基本性能を大きく底上げ 2021年にスバル初のグローバルバッテリーEV(BEV)として登場したソルテラは、電動駆動の利点を追求しつつ、余裕あるSUVボディや先進の安全装備機能が充実するな[…]
クルマ好きに贈るとっておきの一冊 自動車がとても珍しかった戦前から、販売台数過去最高を記録した1990年代までのクルマ業界の成長を振り返ることで、ニッポンの物づくりの力強さと開発者たちの熱い想いを肌で[…]
































