
「東京オートサロン」と言えば、今や国内外の自動車メーカーや大手パーツメーカーが威信をかけてデモカーを並べる巨大イベントだ。しかし、その源流を辿れば、1980年代に開催されていた「東京エキサイティングカーショー」に行き着く 。「何でもあり!」なカスタムカーたちがしのぎを削っていた時代だ。そんな熱気あふれるパワーを感じさせる注目モデルを今年の東京オートサロンで発見した!
●文:月刊自家用車編集部(橘祐一) ●写真:橘祐一
幕張に蘇った「東京エキサイティングカーショー」の魂
毎年1月、厳冬の幕張メッセを熱狂の渦に巻き込む「東京オートサロン」。今では洗練された巨大イベントへと変貌を遂げているが、その源流を辿れば、1980年代に開催されていた「東京エキサイティングカーショー」に行き着く 。
当時は、名もなき小さなチューニングショップや熱狂的な個人ビルダーたちが、自らの理想を形にした手作り感あふれる奇抜な車両を持ち寄り、しのぎを削っていた時代だった 。
2025年、その古き良き時代の「何でもあり」な熱量を現代に持ち込んだのが、栃木県のチューニングショップ「サーキット&ドリームスCLR」が出展した「双竜」である 。
「双竜」は、2023年から製作が開始されたプロジェクト 。昨年の発表時はセンターのキャビン以外が剥き出しの「骨格」状態であったが、2026年は最新の3Dプリンター技術による外装を纏い、「フェーズ2」へと進化を遂げて再び幕張の地に降り立った 。
ベースはなんとトヨタ・セラ……だと!?
ベース車両に選ばれたのは、1990年に発売されたトヨタ・セラである 。バブル経済の絶頂期に、大衆車ベースでありながらガルウイングドア(正確にはバタフライドア)を採用するという、当時のトヨタの遊び心が結実した一台だ 。本来は1.5Lの5Eエンジンを搭載し、最高出力110PSのFF車だった 。
ベース車両は1990年に発売されたトヨタ・セラ。本来は1500ccの5Eエンジンを搭載したFF車。ちなみにノーマルの最高出力は110PS。
しかし、「双竜」においてセラの面影を残しているのは、象徴的なガルウイングドア(正式にはバタフライウイング)とリヤゲートのガラスハッチ(アクリルに変更済み)程度に過ぎない 。キャビン部分を除く車体のほとんどは、強固な鋼管フレームによって新造されている 。110PSの優等生だったセラは、前後で合計1000PSを超える怪物へと作り替えられたのである。
リヤゲートのガラスハッチもトヨタ・セラ用をそのまま流用。ガラスはアクリルに変更されている。
前後でメーカーが違う!異種格闘技的ツインエンジン
「双竜」の核心、それは前後でメーカーの異なるエンジンを搭載するという、前代未聞のレイアウトにある。
フロント:日産の技術「SR20VET」
フロントセクションに鎮座するのは、日産・エクストレイル(初代)に搭載されていたSR20VETだ 。日産の可変バルブ機構「NEO VVL」を備えたこのユニットをベースに、CLRオリジナルのφ86鍛造ピストン、H断面コンロッド、さらにはN15型パルサーVZ-R用のカムシャフトを組み込んでいる 。
フロントに搭載されているのは日産SR20VET。エクストレイル用の可変バルブNEO-VVL搭載モデルがベース。
これにTD-07-25Gという巨大なターボチャージャーを組み合わせ、1000ccインジェクターで燃料を送り込むことで、最高出力は550PSに達する 。
リヤ:ホンダのプライド「K20A R-SPEC」
対するリヤセクションには、ホンダ・シビックタイプR用のK20A(R-SPEC)がマウントされている 。こちらもSR20と同様に、WISECO製φ86鍛造ピストンやTODA製296°カム、バルブスプリングといった一級品のパーツで固められている 。
リヤに搭載されているのはホンダK20A。シビックタイプR用のR-Specがベース。
フロントと同じくTD-07-25Gターボを装着し、その出力は500PS 。同じ直列4気筒2Lという排気量ながら、メーカーも特性も、さらには発生するパワーすら異なる二つの心臓が、一台の車体に同居しているのだ 。
どちらのエンジンにもTD07-25Gターボが搭載されている。
どうして「前後で違うエンジン」なの?
普通に考えれば、同じエンジンを二つ使ったほうが制御がしやすそうだし、クルマの挙動だって安定しやすいはずだ。しかし、CLRの代表・渡邊氏がこの構成を選んだ理由は、極めてシンプルかつ痛快だ。
「面白そうだから!」
同じエンジンを使った車両はすでに他店で作られている。ならば、あえて誰もやらない「異種混合」に挑んでみようということらしい 。かつてのホンダエンジンは回転方向が逆であったが、K20シリーズからは日産SR20と同じ方向になったことも、この無謀とも思える挑戦を後押しした 。
エンジンの制御はMoTechで行われる。ちなみにSR20はM800、K20AはM400が使用されていた。
この異なる二つの個性を束ねるのが、高性能ECU「MoTeC」である 。SR20にはM800、K20AにはM400という異なるモデルのECUを割り当て、緻密な制御を行うことで、ドリフト走行すら可能にする高いドライバビリティを実現している 。なお、トランスミッションはK20A用の6速MTが採用されている 。
3Dプリンターで外装パーツを製作
「フェーズ2」への進化において、最も視覚的な変化をもたらしたのは外装パネルだ 。CLRは昨年から大型の3Dプリンターを導入し、外装パーツの自社製作を開始した 。
120mmもの拡幅を見せるワイドフェンダーや、前後の大型スポイラーなど、キャビン以外の外装パーツはすべて3Dプリンターから出力されたカーボンファイバー製のパネルである 。かつては熟練の職人が粘土を削り、FRPを貼り込んで作っていた造形が、今やデジタルデータから直接、最先端の素材で出力される時代になったのだ 。
六つの咆哮、目指すは公道だ!
「双竜」の特異性を象徴するもう一つのディテールが、リヤに並ぶ「2×3」の合計6本出しマフラーである 。
●右側の3本:日産・SR20からの排気
●左側の3本:ホンダ・K20Aからの排気
●中央:それぞれのウエストゲートから解き放たれる排気
マフラーは2×3の6本出し! 右がSR20、左がK20A、中央はウエストゲートからの排気。
異なるメーカーのエンジンが同時に叫び声を上げるそのリアビューは、まさにこのプロジェクトが達成した「異種共演」の証左と言えるだろう。
タイトでスパルタンなコクピット。機能がそのまま感じられるエネルギッシュな空間だ。
スパルタンなコクピットには、前後のエンジン状態を把握するために二つのメーターが整然と並ぶ 。すでに走行会などのイベントでその実力は証明されつつあるが、CLRの野望はそこで終わらない 。彼らは現在、このモンスターマシンでナンバーを取得し、公道へデビューさせる計画を密かに進めているという 。
遊び心の先にあるもの
「双竜」というプロジェクトは、単なるスペックの追求ではない。そこにあるのは、「誰もやっていないからやる」「面白そうだから作る」という、損得勘定抜きの純粋な創造への欲求だ。
最新の3Dプリンティング技術と、1980年代から続くチューニングの熱量。そして、日産とホンダという日本の誇る二大エンジンの共演。CLRが作り上げたこの「双竜」は、カスタムカー文化が持つ無限の可能性と、大人が本気で遊ぶことの凄みを問いかけている。
今後、この「二頭の龍」が公道のストレートを駆け抜ける日が来ることを、期待せずにはいられない。詳細な進捗や走行シーンが気になる人は、ぜひサーキット&ドリームスCLRの公式X(旧Twitter)をチェックしてほしい 。
●サーキット&ドリームスCLR
所在地:栃木県日光市塩野室町2591
TEL:0288-32-1043
Xアカウント:@ClrTakuro
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