
私たちが普段、何気なく街で見かける自動車。その1台1台は、膨大な部品と緻密な計算に基づいた生産ラインから生み出されている。今回は、群馬県太田市にあるSUBARU(スバル)の主力生産拠点「矢島工場」を取材した。自動車業界が直面する「多様化」や「電動化」という大きな波に、スバルがどのような最先端のモノづくりで挑んでいるのか、その舞台裏をリポートしよう。
●文:月刊自家用車編集部(川島茂夫) ●写真:SUBARU
SUBARUの心臓部「矢島工場」って?
群馬県太田市に位置する「矢島工場」は、東京ドーム約11個分(約55万平方メートル)という広大な敷地を持つ、スバルのクルマ製造の中心的拠点である。ここでは主にフォレスターなどの世界で愛されているスバルの代表的なSUVモデルが生産されている。
プレス、溶接、塗装、そして最終的な組み立てから検査にいたるまで、一台のクルマが形になるすべての工程がこの工場に集約されており、日々多くの車両がラインから送り出されている。
市場の多様化がモノづくりを難しくしている現実
一般的に、自動車の生産ラインは「決まった数を一定のペースで作り続けること」で最も高い効率を発揮するよう設計されている。生産台数が減ればラインの効率は落ち、かといって売れ行きに合わせてラインの設計や人員配置をその都度組み替えるのは、ラインを一時停止させる必要もあるほど大変な作業となる。そのため、コンスタントに売れ続けてくれるモデルは、工場の生産管理面から見れば非常にありがたい。早い話が優等生なのだ。
しかし、現代の自動車市場は多様化が進んでいる。かつてのように「セダン」「ワゴン」「クーペ」といった単純な区分ではなく、ユーザーのライフスタイルや好みに合わせて、カテゴリーもキャラクターも各車各様に細分化されている。
そのため、メーカー側の都合(生産効率)を優先して、ユーザーに「みんな同じクルマを買ってください」と強要することはできない。ユーザーにとって重要なのは、価格(コスパ)と性能、実用性、そして趣味的な魅力だからである。とはいえ、メーカー側も設備投資に莫大な金額がかかるため、ユーザーのニーズ通りに安直に製造ラインを増やすわけにもいかない。こうして、生産効率の安定化は難しくなるというジレンマを抱えることになる。
スバルが出した答え「混流生産」の新しい方法
この「多様なニーズへの対応」と「高い生産効率」を両立させるためにスバルが実践しているのが、異なる設計のモデルをひとつの組立ラインで同時に流す「混流生産方式」である。
スバルは以前からこの方式を採用していたが、自動車の「電動化」にともない、矢島工場の新しい組立ラインは今、新たな局面を迎えようとしている。今回の見学では、まさにその柔軟な生産性の現場を目の当たりにすることができた。
取材した新しいラインでは、今後「フォレスター」の内燃機関(ターボ)車に加え、BEV(バッテリー電気自動車)である「トレイルシーカー」と「bZ4Xツーリング」の3車種を同時に組み立てる予定となっている。
一見すると、「ガソリン車とBEVを同じラインで流すのは難しそうだけど、同じBEV同士(トレイルシーカーとbZ4Xツーリング)なら簡単なのでは?」と考えがちである。しかし、現場の話によると「意外とそれが大変だ」という。
実は、クルマの車体設計と組み立ての作法は一体になっている。 「bZ4X(ツーリング除く)」やスバルの「ソルテラ」はトヨタの工場で組み立てられており、車体設計もトヨタ流の組立作法に則っている。一方で、「トレイルシーカー」は純スバル流だ。そのため、両者では「リヤサスペンション周りの組み付け順序」が異なっているというのだ。
作業員の負荷を低減する工夫はもちろん、組付け精度向上などのために専用の治具を活用している。こちらはリヤサスペンション回りの組付け工程。
技術と工夫で差を埋める「治具と台車」のメカニズム
この組み付け順の違いを解消するために、現場では見事な工夫が施されていた。 スバル流の「トレイルシーカー」が部品をひとつずつ車体に組み付けていくのに対し、トヨタ流の作法を持つ「bZ4Xツーリング」は、あらかじめ「治具(じぐ)」を使ってサスペンションやサブフレームを一体化(アッシー化)し、それを台車で運んで車体に一気に組み込むという手法をとっている。
車種によって異なる工程を、治具や台車を巧みに用いることでクリアする。これこそが、スバルの混流生産における「対応力の要」となっている。
もちろん、すべてが完璧にスムーズというわけではない。 例えば、内燃機関車に必要な「排気系や燃料タンクの取り付け」や、BEVに必要な「バッテリーパックの組み付け」の瞬間、対応しない方の車種は作業をスキップ(素通り)することになる。この間、その担当エリアの作業員の手が空いてしまうため、コスト的には一時的な効率低下を招く。スバルではこれを今後の課題とし、専用工程の自動化(無人化)を進めることでさらなる改善を図るという。
スバルの混流生産で欠かせないのが組み付ける部品をワンセットにした台車の活用だ。
先の読めない時代を生き抜く、モノづくりの柔軟性
こうした多品種生産の効率化や、市場の販売状況に細かく合わせた生産割合のコントロールこそが、混流生産の核である。さらに、複数の工場で同系統の車種を生産して融通し合う「ブリッジ生産」と組み合わせることで、スバルは世界規模の需要変動に的確に対応している。
今回の工場見学で特に興味深かったのは、未来のスタンダードとされる「BEV」と、これまでクルマ社会を長く支えてきた「内燃機関車」が、同じラインで混流生産される姿そのものであった。
現在の自動車市場は、一時期のBEVシフトの加速から一転して失速が見られたり、HEV(ハイブリッド車)が復調したりと、近々の動向が非常に読みづらい不安定な時代を迎えている。この先、市場がどちらに流れても、混流生産であればしっかり対応できるというスバルの体制は、まさに変化の激しい現代を生き抜くための強力な武器と言えるだろう。
私たちが乗る愛車の裏側には、こうした工場の緻密な「ウンチク」と、時代に寄り添う技術者たちの柔軟な知恵が詰まっているのだと、深く実感させられる工場見学であった。
プラズマ洗浄を行うBEV用の高品質バッテリーパックを製造する工程。
スバルとトヨタの両方のモデルが完成検査ラインに並んでいる。それぞれのモノづくりへのこだわりが込められている。
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