
9月1日の防災の日に合わせ、トヨタ自動車がトヨタ博物館で災害時の車両給電や車中泊避難のデモンストレーションを実施した。車内コンセントの活用からFCバスによる大規模給電まで、非常時に「走る電源」として生活や地域を支えるクルマの可能性と、被災現場での実際の取り組みを見ていこう。
●文:月刊自家用車編集部(田中) ●写真:編集部
いつも乗っているクルマが非常時の「走る蓄電池」になる!
このところ、日本各地で地震や台風などによる大規模な自然災害が多発している。平穏な日常が一瞬にして破壊されてしまうため、不安を感じている人も多いことだろう。そうした非常時において、単なる「移動手段」を超えた役割として、クルマに大きな注目が集まっている。
トヨタが今回のイベントで強くアピールしたのは、普段乗り慣れているハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、そして燃料電池車(FCEV)といった電動車が、非常時にはそのまま移動可能な頼もしい電源になるという点である。
トヨタの多くのハイブリッド車をはじめとする電動モデルには、車内にAC100V・最大1500Wの電力供給が可能な車載のアクセサリーコンセントが標準装備されている(一部はメーカーオプション設定)。1500Wという出力は、家庭用コンセント1口分と同等であり、炊飯器や電気ケトル、電子レンジ、電気スタンド、さらには複数のスマートフォン充電器を同時に動かすのに十分なパワーを持つ。
ガソリン車をベースにしたハイブリッド車であっても、ガソリンが満タンであればエンジンでの自動発電を組み合わせることで、一般家庭の4~5日分に相当する電力を供給し続ける能力を秘めている。普段乗り慣れているクルマが、特別な工事や設備を追加することなく、そのまま非常用の電源として機能するというわけなのだ。
プリウスからの給電でホットプレートや冷蔵クーラー、照明、スマホの充電などが実際に可能だった。
FCEVとFCバスがコミュニティを救う!
個人や一世帯の暮らしを支える車載のアクセサリーコンセントに対し、避難所や地域コミュニティ全体を支える大型のエネルギー源として期待されるのが、水素を燃料として走る燃料電池車(FCEV)だ。乗用車タイプの「MIRAI」や、路線バスとして導入が進むFCバス「SORA」は、車体内に蓄えた水素から大量の電気を作り出すことができる。
水素で走るFCバス「SORA」でデモが行われた。
デモンストレーションの場では、FCバス「SORA」に外部給電器を接続し、防災用テントや多数の照明器具、大型ディスプレイ、生活家電へ一括して給電する様子が実演された。外部給電器を介すことで最高9kWという高出力を取り出すことが可能であり、まさに移動する巨大な電源としての圧倒的なポテンシャルを見せつけた。
電力供給量としては、乗用車タイプのMIRAIで一般家庭の約1週間分に相当する75kWh、FCバスのSORAに至っては約3週間分に相当する235kWhという驚異的な容量を誇る。これは学校の体育館などの指定避難所全体の照明や寒暖対策、さらにはスマートフォンの充電台数換算で約1万5000回分に相当する給電を行える計算だ。
過去の被災現場で実証された「移動する電力」の真価
これらの給電機能は、単なる理論上のスペックにとどまらず、実際の災害現場でも確実に成果を出してきた。説明会では、過去の重大被災地における具体的な支援実績も共有された。
2018年9月に発生した北海道胆振東部地震は最大震度7を記録。北海道全域で約300万戸が停電する事態に見舞われた。この際、トヨタは被災地にMIRAIを出動させ、札幌市役所本庁舎前にて市民に向けた緊急の携帯電話充電サービスを提供。地震発生当日の朝から稼働し、長蛇の列を作った市民約2,000人の連絡手段確保を強力に後押しした。
また、翌2019年10月の台風15号による千葉県の大規模停電では、過酷な状況下での生活支援としてFCバス「SORA」が派遣された。自衛隊が開設した仮設浴場の脱衣所に電力を供給し、ドライヤーや照明を同時に稼働させることで、被災者が数日ぶりに温かいお湯に入り、髪を乾かすという当たり前の日常を取り戻すサポートを行った。現場からは、停電が長引く中で温風ドライヤーが使えたことへの深い感謝の声が寄せられたという。
やむを得ない車中泊避難に「正しく備える」啓発活動
今回のデモでは、電源給電と並ぶもう一つの重要なテーマとして「安全な車中泊避難」についての啓発も行われた。プライバシーの確保やペット連れでの避難、感染症への不安などを理由に指定避難所には行かず、車内で避難生活を送る人々は相当数いるという。実際に2016年の熊本地震では指定避難所には約600人、指定避難所以外の避難所(公共施設、民間施設)に200人程度の避難者数だったのに対し、クルマの中に避難したのは1400人超というアンケート結果も出ているほどだ。
しかし、狭い車内で長時間同じ姿勢を取り続けることは、エコノミークラス症候群のリスクを跳ね上げることになり、命に危険が及ぶ。また、夏季や過酷な環境下での車中泊は熱中症の危険とも隣り合わせである。
トヨタは車中泊避難を手放しで推奨するわけではないとしながらも、やむを得ず車中泊を選択せざるを得ない人々の安全を守るため、事前の知識と対策の重要性を訴えている。シートを極力フラットにし、隙間を段ボールやクッションで埋めて水平な寝床を確保することや、こまめな水分補給、足首の上下運動などの適度な運動を心がけることが大切であり、これら対策をまとめた「車中泊避難ヘルプブック」を制作・配布して平時からの備えを呼びかけている。
これからのモビリティが災害に強い社会を支える
今回、トヨタ博物館で行われたデモンストレーションを体験して感じたのは、クルマが「人を乗せて移動する道具」から「地域社会の防災インフラを支える存在」へと確実に進化を遂げていることだった。
ガソリン車から電動車への移行がますます進んでいくこれからの時代、一家に一台、そして地域に存在するクルマたちがそのまま防災の砦となる。それだけに、平時から自分のクルマの給電機能を正しく理解し、いざという時の使い方を体験しておくことが、自分自身と大切な家族の命を守る第一歩となるだろう。
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