「8500回転というバイク並みの高回転エンジン」35年前に登場した軽ミッドシップスポーツはF1譲りのメカニズムだった!【ホンダ・ビート】│月刊自家用車WEB - 厳選クルマ情報

「8500回転というバイク並みの高回転エンジン」35年前に登場した軽ミッドシップスポーツはF1譲りのメカニズムだった!【ホンダ・ビート】

「8500回転というバイク並みの高回転エンジン」35年前に登場した軽ミッドシップスポーツはF1譲りのメカニズムだった!【ホンダ・ビート】

日本の狭い国土や厳しい制約から発展してきた軽自動車は、日本人の創意工夫を象徴する存在である。その技術がひとつの頂点に達した1990年代初頭のバブル期、ホンダから歴史的名車「ビート」が誕生した。わずか660ccの実用NAエンジンにF1譲りの制御技術を掛け合わせ、座席後方に搭載するミッドシップレイアウトを採用。量産車初となるフルオープンボディまで実現したのだ。8500回転まで回るエンジンの爽快感や、当時800万円超の「NSX」に迫る本格的な走りの質感を130万円台で提供した奇跡のクルマだった。日常の足から峠道での全開ドライブまでこなす、制約が生んだ最高傑作「ホンダビート」とは…。

●文:横田晃(月刊自家用車編集部)

設計自由度の高い4輪ストラットのサスペンションを採用。またミッドシップの運動特性を考えて、タイヤは前輪が155 /65R13、後輪はグリップ力を高めるため165 / 60R14と太い。

制約という「逆境」から生まれた世界初のミッドシップオープン、ホンダ・ビート

日本人というのは、制約があってこそ創意工夫の実力を発揮する民族なのかもしれない。狭い国土に人がひしめき、多くが山岳地で耕作面積も狭ければ資源にも恵まれないというないない尽くしの環境は、まさに逆境そのものだ。にもかかわらず今日の繁栄を築けたのは、困難をむしろ糧とする日本人の気質ゆえかと思うのだ。

日本独自の軽自動車も、そんな気質を象徴していると思う。マイカーなど夢物語だった1949年に軽自動車という文言が初めて車両規則に登場した当時から、世界最小クラスのその規格はグローバルスタンダードからはかけ離れた、制約だらけの乗り物だった。

しかし、パッケージングやエンジニアリング、商品企画のすべてに緻密な創意工夫が凝らされた軽自動車は、戦後日本の歩みとともに庶民の目標となり、商売や農作業の足となり、女性の社会進出の武器ともなって、日本の自動車史に大きな位置を占めてきた。そして1990年代の初頭に、ひとつのピークとして3台の素晴らしいスポーツカーを生む。その嚆矢となったのがホンダ「ビート」だ。

当時の軽自動車は、1998年に改定された現行軽規格より全長で100mm、全幅で80mmも小さいミニカーだ。排気量は現行と同じ660ccだが、そこからリッター当たり100馬力に迫る64‌psを絞りだす技術は、実用ミニカーのレベルを超えていた。

ホンダはビート発表時、「アミューズメント」という言葉を使った。2シーター・ミッドシップというマニアックなスポーツカーでありながら、誰もが低価格でドライブを楽しめる。ビート(鼓動)のネーミングにはそんな走りの高揚感の意味が込められていた。

ことさら重視されたボディ剛性など硬派な設計を採用する一方で、自由や親しみやすさも追求されたビートはまさにアミューズメントなクルマといえた。

量産ミッドシップ車としては世界初となる、幌トップのフルオープンボディでもあった。

あえてノンターボSOHCエンジンに、F1譲りのチューニングが施された

ビートのエンジンはライバルのようなDOHCやターボではなく、商用車にも搭載されるSOHC4バルブの3気筒がベース。そこに、当時ホンダが黄金時代を迎えていたF1譲りの精緻な制御を実装した電子制御燃料噴射プログラムや多連スロットルなどを組み合わせたチューニングを施し、まるで同社のオートバイのように8500回転以上まで気持ちよく回るNAエンジンとしていたのだ。

そのエンジンの搭載位置は、乗員と後輪の間。前後重量配分に優れ、機敏なハンドリングやトラクションが得られることからレーシングカーでも採用されるミッドシップレイアウトだ。そのうえビートは量産ミッドシップ車としては世界初となる、幌トップのフルオープンボディまで実現させていた。

ビートに先駆けて1989年に誕生した日本車初のミッドシップスーパースポーツカー・NSXと比べると、排気量もパワーも4分の1以下だったが、ビートの本格的な走りの質と楽しさは、まったく引けを取らなかった。しかも800万円以上というプライスを掲げたNSXに対して、ビートは130万円台から買えたのである。

日本国内での販売しか見込めない軽自動車に、ここまで凝りまくった商品企画と完成度が実現できたのは、やはり空前の好景気のおかげだ。後にそれは「バブル」と呼ばれさんざん悪者にされるが、誰もが明るい未来を疑いなく夢見られた当時は、楽しくも幸せな時代ではあったと思う。

吸気効率を大幅に向上する3連スロットルをはじめ、ホンダのF1テクノロジーが注入されたMTREC(エムトレック)と呼ばれた3気筒12バルブSOHCエンジンは、とにかくシャープに吹け上がった。

前ヒンジのボンネット下にはスペアタイヤや冷却水タンクなどがあり、荷室としては使えない。

幌はシート後ろに格納されるので、トランクルームはオープン時でも使える。ただバッテリーが邪魔をするなど容量は極々少ない。エンジンの熱が入り込むなど積載物も制限された。

ビートは、走りの「質」にこだわった本格派スポーツカーだった

日本車は、数値性能的には1980年代後半に世界の水準に追いつき、次に数値上の限界性能ではなく、走りの個性/安心感/気持ちよさといった“乗り味”の領域が問われる段階に差しかかっていた。NSXはまさにその領域をしっかりと作り込むことで、ジャパニーズスーパーカーとなった。その弟分となる、たった660ccのエンジンを積むビートもまた、1970年代の日本製スポーツカーのようなヤンチャなカッ飛び小僧ではなく、走りの質にまでこだわった本格派スポーツカーだった。

専用開発のプラットフォームを持つビートのフルオープンボディは、モノコック構造ながら実用軽自動車には求められない高い剛性を実現。サスペンションは4輪ストラット式の独立で、リヤにはデュアルリンクを備えて緻密なジオメトリー変化による安定した車両姿勢を追求。前43:後57の重量配分に合わせた前後異サイズのタイヤや4輪ディスクブレーキなど、理想の走りを追求したメカニズムが惜しげもなく奢られていた。

おかげでしっかりとした接地感が掌に伝わるステアリングフィールやハンドリングのリニアリティ、緩急自在のブレーキタッチなど、感性の領域に至るまで本物のスポーツカーに仕上げられていたのだ。

高性能バイクのそれをイメージしてデザインされ、パネルから独立してレイアウトされた3連メーター。中央のタコメーターは8500回転からがレッドゾーン。ミッドシップのスポーツカーといえばタイトなコックピットを思い描くが、ビートのそれはむしろ開放的とも言える。

サバンナを駆けるシマウマをイメージしたというシート。ドライバーズシートは180㎜ のスライドの他、前5度、後ろ10度のリクライニングもできる。なおセンターコンソールは2㎝ 左に寄せられ、運転席は助手席よりわずかに広くされた。

主要諸元 ビート(1991年型) 
●全長×全幅×全高:3295㎜ ×1395㎜ ×1175㎜ ●ホイールベース:2280㎜ ●車両重量:760㎏ ●駆動方式:ミッドシップエンジン・リヤドライブ●乗車定員:2名●エンジン(E07A型):直列3気筒SOHC656㏄ 12バルブ●最高出力:64PS/8100rpm●最大トルク:6.1kg-m/7000rpm ●最小回転半径:4.6m●10モード燃費:17.2㎞ /L●燃料タンク容量:24L変速機:前進5段後進1段●サスペンション(前/後):マクファーソン・ストラット式独立懸架/マクファーソン・ストラット式独立懸架●タイヤ(前・後):155/65R13 73H・165/60R14 74H●価格(東京地区):138万8000円

躾けの難しいミッドシップレイアウトながら、全開で峠を駆け回る楽しさが味わえた

室内空間はタイトだったが、センターコンソールを助手席側にわずかに寄せるなどの工夫を凝らして、ドライビングというゲームを楽しむにはちょうどいい広さを確保。5速MTの操作量やシフトフィールも、NSXと同様にスポーティかつ上質に仕上げられていた。

躾けの難しいミッドシップレイアウトながら、リニアに吹け上がるNAエンジンとあいまって、限界領域での運動特性もけっしてピーキーではなく、超高回転型のエンジンを回し切って、全開で峠を駆け回る楽しさが味わえた。64‌psのパワーではサーキットでの速さは知れていたが、タイトな峠道の下りなら兄貴分のNSXを追いかけることさえできたし、手動式の幌を開けての爽快なドライブも満喫できたのだ。しかも、当時の10モード燃費はリッター17.2km。大量の買い物には向かなかったが、日々の足としても使い倒せるコスパの高いクルマでもあったのだ。

1名乗車時で43:57という前後重量配分と低重心を極めたビート。理想に近いボディバランスは、優れたトラクション性能や軽快で安定した旋回性能、また軽自動車とは思えぬ接地性能の高さの源となった。

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