「SUVとしての 実用性は皆無、 でも、オフロード走破性は一人前!」誰もが困惑したスズキの奇抜なクルマ、【X-90】って何だ?│月刊自家用車WEB - 厳選クルマ情報

「SUVとしての 実用性は皆無、 でも、オフロード走破性は一人前!」誰もが困惑したスズキの奇抜なクルマ、【X-90】って何だ?

「SUVとしての 実用性は皆無、 でも、オフロード走破性は一人前!」誰もが困惑したスズキの奇抜なクルマ、【X-90】って何だ?

1990年代半ば、空前のRVブームに沸く日本市場に、スズキが一台の奇妙なクルマを投じた。その名は「X-90」。本格的なラダーフレームの4WDでありながら、極端に短い全長に2シーターのノッチバックボディ、さらにはTバールーフまで備えるという、当時の常識を完全に無視したパッケージングは世間を大いに困惑させたのだ。荷物が全く積めないという致命的な実用性の低さから販売は極度の不振に終わったが、四半世紀が経過した現在、その突き抜けた個性と遊び心は再び熱狂的な注目を集めている。効率化が極まった現代だからこそ輝きを放つ、自動車史に残る異端児「X-90」とは一体どんなクルマだったのか。

●文:月刊自家用車編集部

強靭なラダーフレーム構造を採用し、駆動方式にはトランスファー(副変速機)を備えた本格的なパートタイム4WDシステムを搭載したオフロード車両だった。

SUVの常識を根底から覆す前代未聞のコンセプトだった

スズキが1995年に世に送り出した「X-90」は、1993年に開催された第30回東京モーターショーに参考出品した同名のコンセプトカーがベースの小型SUVである。実はこのクルマ、日本の自動車史において極めて特異な立ち位置を占める、愛すべき異端児と呼ぶにふさわしいモデルなのである。

1990年代半ばといえば、日本では空前のRV(レクレーショナル・ビークル)ブームが巻き起こっており、各自動車メーカーが競って実用的で荷物がたくさん積めるSUVやミニバンを開発・投入していた時期だ。そんな実用性至上主義とも言える時代背景の中、スズキが市場に投じたX-90は、「SUVでありながら2シーターのノッチバッククーペ」という、当時の常識を根底から覆す前代未聞のコンセプトを持っていた。

多くの人がRVに求める多人数乗車や広大な荷室といった利便性を一切切り捨て、純粋に遊び心と個性を追求したこのクルマは、当時の消費者を大いに困惑させると同時に、熱狂的な一部のファンを生み出すことになる。

ヘッドライトからボンネットに至るまで全体的に丸みを帯びたデザイン。ルーフ部分には、中央のセンターピラーを残して左右のガラス屋根を取り外せる「Tバールーフ」が採用している。

独立したトランクルームを備える「ノッチバックスタイル)」を採用。実用性を度外視したクーペスタイルとなっている。

「エスクード」をベースとしているため、中身は立派なクロスカントリー車だった

X-90のメカニズムを語る上で欠かせないのが、ベースとなったスズキの名車「初代エスクード」の存在だ。その奇抜でおもちゃのような見た目とは裏腹に、X-90の中身は極めて本格的なオフロード車両そのものだった。強靭なラダーフレーム構造を採用し、駆動方式にはトランスファー(副変速機)を備えた本格的なパートタイム4WDシステムを搭載。エンジンは1.6リッター直列4気筒SOHC(G16A型)を縦置きにマウントし、サスペンションもストロークを十分に確保したものを引き継いでいた。

最低地上高はオンロードでの安定性を考慮してエスクードよりもやや下げられていたものの、悪路走破性は本物であり、見かけの可愛らしさに反して林道や雪道、ぬかるみなどの過酷な環境でも力強い走りを見せていた。この「中身は硬派なクロスカントリー車」という大きなギャップも、X-90の隠された魅力の一つとなっている。

搭載されるエンジンは、ベースとなった初代「エスクード」と共通のG16A型 1.6L SOHCエンジン。

コミカルで愛らしいデザインだったが、実用面では?だった

エクステリアデザインは、X-90最大のポイントである。全長3710mm、全幅1695mm、全高1550mmという極端に短い全長に対して背が高いという独特のディメンションを持ち、ホイールベースはエスクードショートと同じ2200mmという短さだった。

この寸詰まりのプロポーションに、全体的に丸みを帯びた張りのあるボディラインと、ファニーな表情を作り出す異形ヘッドライトが組み合わさることで、まるでデフォルメされたチョロQがそのまま現実の世界に飛び出してきたかのような、コミカルで愛らしいスタイリングを実現していた。

さらに、ルーフにはセンターバーを残して左右のガラスパネルを手動で取り外すことができる「Tバールーフ」が標準装備されていた。このガラスルーフを取り外せば、フルオープンカーにも匹敵する抜群の開放感と爽快感を味わうことができ、風を感じながら自然の中を駆け抜けるという、このクルマならではの非日常的なドライブ体験を提供してくれたのだ。

一方で、インテリアとユーティリティに関しては、尖ったコンセプトのしわ寄せが如実に表れていた。室内は2人乗りと完全に割り切られており、運転席はアップライトで座面が高く、見晴らしや車両感覚の掴みやすさは抜群だったが、シート後方にはわずかな小物置き場がある程度で、背もたれを十分にリクライニングさせる余裕すらなかったのだ。

インパネ周りは初代エスクードのものをほぼそのまま流用していて、ポップな外観と比較するとやや実用車的な無骨さが残っていた。とは言うものの、シートやドアトリムには1990年代らしいカラフルで派手な柄のファブリックが採用され、明るく楽しい室内空間を演出していた。

ダッシュボードは直線的でオーソドックスなT字型のデザインを採用。奇をてらった装飾は少なく、ベースとなったエスクードに通じる、実用性を重視したシンプルで無骨なレイアウトとなっている。

セミバケットタイプのシートの表皮には、当時のレジャーブームやRVブームを反映した、カラフルでポップな柄のファブリック生地が採用されていた。

X-90の挑戦的すぎるコンセプトは、当時の市場に受け入れられることはほとんどなかった

そして、X-90の最も悩ましいポイントが積載性の低さだった。SUVとしては珍しく独立したトランクルームを持つ3ボックスのノッチバックスタイルを採用していたが、トランクの絶対的な容量は小さく、奥行きはあっても深さが圧倒的に不足していたのだ。

さらに、取り外したTバールーフのガラスパネルをトランク内に固定して収納するための専用スペースが設けられていたため、ルーフを外してオープンドライブを楽しもうとすると、トランクには手荷物すらほとんど積めなくなってしまうという構造的な矛盾を抱えていた。スキーやキャンプといったアウトドアレジャーに出かけるには致命的とも言える、この実用性の低さが、購入者を大きく選ぶ最大の要因となってしまった。

結果として、X-90の挑戦的すぎるコンセプトは、当時の一般的な自動車市場に広く受け入れられることはほとんどなかった。レジャー用途でクルマを探す層からは「荷物が全く積めない」と敬遠され、スポーツカーを求める層からは「車高が高く、エンジンも平凡で走りがもっさりしている」と評価され、見事にどのターゲット層からも外れてしまったのだ。

販売成績は極めて低迷し、発売からわずか3年後の1998年頃にはひっそりと生産を終了することとなった。日本国内での総販売台数はわずか約1300台にとどまり、メイン市場として見込んでいた北米などを含めたグローバルでの総販売台数でも約1万6000台という、大手メーカーの量産車としては異例とも言える少なさだった。そのため街中でX-90を見かけることは新車当時から極めて稀であり、「期間限定の特別仕様車だったのではないか」と勘違いされるほどのマイナー車として歴史に名を刻むことになった。

ガラスルーフ部分は2分割のTバールーフを採用する。

ガラスルーフのため、直射日光を防ぐサンシェードが標準装備されていた。

時代を先取りし過ぎたコンセプトは、30年が経った今、再注目されるようになった

しかし、生産終了から長い年月が経過した現在、X-90の評価は当時とは全く異なる角度から見直されつつある。空力性能や居住性、効率性を極限まで追求した結果、似たようなデザインやコンセプトのクルマが溢れる現代の自動車市場において、X-90の持つ「無駄を楽しむ」という振り切った個性は、逆にこの上なく新鮮で魅力的に映るのだ。

実用性を大きく犠牲にしてまで遊び心に全振りした当時のメーカーの野心的な姿勢や、ラダーフレームの本格4WDに2シーターのTバールーフという二度と現れないであろう奇跡的な組み合わせは、一部の熱狂的なクルマ好きやマニアの心を強く惹きつけてやまない。

当然ながら、中古車市場に流通する個体も極めて少なく、他には代えがたい希少価値の高いカルトカーとして、コアなファンによって乗り継がれている。スズキX-90は、商業的な側面だけを見れば紛れもなく失敗作だったかもしれない。だが、クルマが単なる移動の道具や便利な家電のような存在ではなく、人生を豊かにする大人のオモチャであった時代を強烈に象徴する「愛すべき失敗作」として、これからも自動車愛好家の記憶に深く残り続ける名車と言えるのではないだろうか。

主要諸元

全長×全幅×全高:3710×1695×1550(㎜)

ホイールベース:2200㎜

トレッド前/後:1425/1430(㎜)

最低地上高:160㎜

車両重量:1080㎏(5MT)

エンジン型式・種類:G16A型直4SOHC

最高出力:100ps/6000rpm

最大トルク:14.0kg-m/4500rpm

ブレーキ前/後:ディスク/ドラム

サスペンション前/後:ストラット/トレーリングリンク

タイヤ:195/65R15

X-90の持つ「無駄を楽しむ」という振り切った個性は、多様性が好まれる今ならば市場に受け入れられたかもしれない。

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