[はたらくくるま] 熟練の運転ワザで巨大な旅客機の向きも自由自在〈トーイングトラクター〉

空港を訪れた時、窓の外の旅客機を眺めることがあるだろう。その時は、ぜひとも旅客機だけではなく、そのまわりで動き回る“はたらくくるま”にも目を向けてほしい。空港には、街中で見かけないような独特な“はたらくクルマ”が数多く存在しているからだ。本企画では、羽田空港にて日本航空(以下:JAL)の“はたらくクルマ”を取材した。

●まとめ:オートメカニック編集部 ●撮影/文:鈴木ケンイチ

トーイング・トラクター KOMATSU WT-250E:トーバーを使って旅客機を動かす 

旅客機を移動するのに“トーバー”を使うのが、トーイングトラクターだ。JALのグランドハンドリング業務を担うJALグランドサービス(JGS)では、羽田空港に小松製作所の車種を中心に約20台を運用しているという。

【KOMATSU WT-250E】寸法:全長7670(GPU含む)×全幅2900×全高2800mm ホイールベース:3300mm エンジン:水冷ディーゼル(コマツSA6D108) 総排気量:7150cc 最高出力:220ps/2400rpm トランスミッション:4速AT 最大牽引力:20000kg 最高速度:33km/h ※諸元値はKOMATSU社の標準モデルのもの

車両を後ろから見たところ。後退時の視界確保のため後ろの窓が大きい。車体後端にあるのが電気供給用エンジンのGPUだ。

トーイングトラクターが旅客機を移動させる仕組みはシンプルだ。トーイングトラクターの後ろにトーバーを6~7cmのピンで接続。トーバーのもう一方を旅客機の前輪に接続する。1本の棒で繋げて旅客機を押し引きする。運転操作はハンドル&2ペダルであって、普通のクルマの運転とほぼ同じとなる。

ただ問題になるのが、トーバーの両側はピンでしか固定されていないこと。旅客機の前輪は左右に自在に動くし、トーバーの車両側もブラブラと自在に動く。つまり、旅客機を移動させたい方向に単純に押せばいいわけではない。トーバー前後の支点と旅客機の前輪のタイヤの向きを考慮しながら、微妙な操作が必要となる。これが難しい。

さらに、トーバーと旅客機前輪との接続部に隙間があるのも厄介な問題だ。そのためじんわり上手に押さないと、旅客機に振動が伝わる。上手な人は、動き出す瞬間が乗客に分からないように、スムーズに押すという。

旅客機がパッセンジャーボーディングブリッジ(PBB)から離れる時は、必ずトーイングトラクターが押している。乗客として旅客機に乗った際には、その動き出しの瞬間に注意してみよう。ガツンと衝撃がくるのか? それともスーッと静かに動き出すのか? ここでトーイングトラクターの運転手の腕前がわかるのだ。

白い2本のトーバーと左奥にトーバーが3本。接続時はタイヤを上にあげる。旅客機ごとに専用のトーバーを使う。

運転席は、前進用と後退用の2種が用意されている。後退用の運転席が存在しない車種もある。

トーイングトラクターがトーバーを用いて旅客機を押して、駐機場から離れているところ(写真は別車種)。

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