なぜいまSUVが全盛に?そのふたつの源流

●文:[クリエイターチャンネル] Peacock Blue K.K.
SUV全盛のいま、その源流はどこにある?
2023年2月現在、日本で正規販売を行なっているブランドは国産・輸入合わせて30を超えるが、そのなかでラインナップにSUVをもたないものは皆無となっている。それどころか、ほとんどのブランドでSUVが主力モデルとなっている。
「スポーツ・ユーティリティ・ビークル(Sport Utility Vehicle)」の略であるSUVは、日本語では「スポーツ用多目的車」などと訳されることが多い。ただ、ここでいう「スポーツ」とは、野球やサッカーなどの運動競技を示しているわけではなく、もちろん「スポーツカー」という意味でもない。「娯楽」や「レジャー」といったニュアンスを含む、より広い意味で用いられている。
一般的に、SUVはセダンやハッチバックといったボディタイプのクルマに比べて、最低地上高が高く、室内空間も広いという特徴がある。こうした特徴が「娯楽」や「レジャー」などを含む多様な目的に利用できるというのが、SUVの本義と言えそうだ。
2022年、日本で最も販売されたSUVのひとつであるトヨタ「ヤリスクロス」
少ないコストで多くのラインナップを提供するために
では、SUVの源流はどこにあるのだろうか?
SUVの定義を広く考えれば、古くは1940年代のアメリカにまでさかのぼることができるが、現代的な意味でのSUVを形作るひとつのきっかけとなったモデルという意味では、1994年に登場したトヨタ「RAV4」を欠かすことはできないだろう。
SUVというカテゴリーが一般的ではなかった当時であるが、スキーやサーフィンブームなどの影響もあり、三菱「パジェロ」やトヨタ「ハイラックスサーフ」といった、いわゆる「クロスカントリービークル(クロカン)」は高い人気を博していた。
現在では、クロカンもSUVのひとつとして扱われるケースも少なくないが、本来であればSUVとクロカンはボディ構造によって区別されるべきものである。
ラダーフレームという強固なボディ構造を持つクロカンは、高い悪路走破性や耐久性を持つ一方で、都市部での快適性や、燃費性能、コストパフォーマンスといった面で課題もあった。要するに、アウトドアシーン以外での使い勝手が悪かったのである。
一方、モノコックボディという一般的な乗用車と同じ構造を持つ「RAV4」は、クロカンほどの圧倒的な悪路走破性能こそないものの、セダンやハッチバックと同等の快適性や燃費性能、そしてコストパフォーマンスを兼ね備えていた。
それでいて、クロカンのような特徴的なルックスを持っていたのだから、「RAV4」は売れないわけはなかった。実際、当時人気絶頂のアイドルをCMに起用するなどのマーケティング効果も追い風となり、「RAV4」はまたたく間にベストセラーモデルとなった。
「カローラ」や「セリカ」といった既存モデルの部品や生産設備を流用することのできた「RAV4」は、開発・生産コストを抑えつつラインナップを増やすことができるという意味で、メーカーサイドにとっても大きなメリットが得られた。
その後、「RAV4」と同様の手法により、現在に至るまで多くのSUVが開発されることになるが、これらのSUVは、乗用車と掛け合わせた開発・生産されたという意味で「クロスオーバーSUV」と呼ばれている。
現在、国産自動車メーカーから販売されているSUVの多くに、「RAV4」のノウハウが活用されていることは間違いない。その意味で、「RAV4」はSUVの源流のひとつといって差し支えないだろう。
1994年に登場したトヨタ「RAV4」は、現代的なSUVの源流のひとつと言える
ハイパフォーマンスSUVを語るうえで欠かせない「新興国」
一方、おもに欧州の自動車メーカーがラインナップしているハイパフォーマンスSUVには「RAV4」とはやや異なる源流がある。
それらの源流のひとつに挙げられるのが、ポルシェ「カイエン」である。初代「カイエン」が登場した2002年には、すでにレクサス「RX」やBMW「X5」といったプレミアムブランドのSUVが登場していたが、それらと「カイエン」は開発意図が明確に異なっていたと言われている。
それは「RX」や「X5」が欧米市場をメインターゲットとしていたのに対し、「カイエン」は新興国市場、具体的には中東市場へとねらいを絞って開発したとされている点だ。
1990年代後半には、アラブ首長国連邦・ドバイをはじめとする中東地域が経済的躍進を遂げることはすでに確実視されていた。つまり、プレミアムブランドの次なるターゲットになりうることは明らかであったわけであるが、一方で大きな問題もあった。
それは、一般道や高速道路などのインフラが整うまでには長い時間が要するということだ。経済的にはプレミアムブランドのクルマを買うことができても、実際に走れる道がないのである。
そうしたなかで登場した「カイエン」は、スポーティなイメージが皆無であったSUVに対して「砂漠を250km/hで走れる」という圧倒的な性能を謳い文句に、中東市場で大ヒットを遂げることとなった。
これと同じ状況が、2000年代以降の東南アジアやインド、ブラジル、ロシア、そして中国といった新興各国でも起こった。特に、2009年にはアメリカを抜いて世界第一位の新車販売市場となった中国をターゲットとした、多くのハイパフォーマンスSUVや超高級SUVが登場した。
最低地上高が高いSUVは、サスペンションストロークを長くとれることなどから、路面状況の悪い道路でも比較的快適に走行することが可能だ。それでいて、セダンやハッチバックよりも居住性やデザイン性に優れていることから、現在では国や地域を問わずSUVが主流となっている。
そのため、現代に登場するハイパフォーマンスSUVのすべてが新興国向けというわけではないが、SUVがトレンドとなっている背景には、2000年代以降の新興国の躍進があることは間違いないだろう。
「砂漠を250km/hで走れる」を謳い文句にしたポルシェ「カイエン」
電動化時代はSUVこそがボディタイプの中心に
個々のモデルを見ればこれらの例に漏れるものもあるのは事実であるが、SUVが全盛となっている背景には、クロスオーバーSUVという乗用車ベースの開発手法の定着と、インフラ整備の整っていない新興国市場の躍進といった、2つの大きな背景があると言えそうだ。
電動化が進む昨今では、ますますSUVが主流となっていくことだろう。重心が高くなることから、走行安定性などが課題となりやすいSUVだが、BEVでは重量物であるバッテリーを床下に敷き詰めることが多いことから、内燃機関車に比べて重心を低く抑えることができるからだ。
こうした現状を踏まえると、SUVこそがクルマのボディタイプの中心となりうることはほぼ確実だ。つまり、SUVは単なるブームにはとどまらず、自動車業界における一大潮流ということができるのである。
BEVと相性の良いSUVは、今後の主流となるだろう。(画像は日産「アリア」)
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