
今でこそシートベルトは当たり前の装備ですが、実はシートベルトは昭和44年(1969年)から義務化された装備だったので、それ以前のクルマはシートベルトを装備していませんでした。今回はこの時代のクルマを中心に、当時の安全への意識の変化、シートベルトの立ち位置の変遷をお伝えしたいと思います。
●文:往機人
シートベルトの装備が義務化されたのは、昭和44年(1969年)4月から
現代のクルマは、環境への配慮と並んで、安全性の向上が重要な要素になっています。
例えば、昔はドライバーや同乗者を守る装備はシートベルトだけでしたが、エアバッグが登場したことで衝突時の乗員保護性能が大幅に向上し、車両構造の適正化により歩行者や他の車両への衝撃を少なくする工夫が盛り込まれました。さらに最近のクルマはセンサー技術の進化のおかげで、レーダーとカメラを使った自動ブレーキやレーンキープアシストなども装着されたことで、安全性が向上していることを実感させられます。
しかし、今となっては信じられないことですが、昭和の30年代から40年代の前半あたりまでは、シートベルトすら装備されていないクルマが多かったということをご存知でしょうか?
今回は、シートベルトにスポットを当てて話していきたいと思います。
1969年3月までは、シートベルトが未装着でもまったく問題なし
シートベルトは今では当たり前の装備で、むしろ装着しないで走行するとなんとなく不安を感じてしまうくらいの存在となっています。
しかし、日本でシートベルトの装備が義務化されたのは、昭和44年(1969年)4月からになります。それ以前、1969年3月31日以前までの道路運送車両法では、シートベルトの装着が義務ではなかったので、シートベルトを装備している車種は少数でした。
もちろん装備としては用意されていましたが、大半のクルマは装備無しの仕様が標準で、シートベルトを追加の装備として選ぶことで、ちょっとした特別感を出せるというような存在だったのです。
シートベルトの装着が自動車メーカーに義務化された理由は、その時代にお手本としていた欧州や北米での法改正を見習ったもので、シートベルトを義務化することで、交通事故に遭遇した時の運転手のダメージを低減させるというのが狙いでした。
ちなみにシートベルトが初めて開発されたのはフランスで、20世紀の初頭だったそうです。
義務化当初は、腰を固定する二点式ベルトが主流だった
今のシートベルトは、腰をまたぐ部分と腰から斜めに上がって肩を通って抜ける部分の二本で身体を支える構造の「3点式」が主流となっています。
しかし、義務化の当初はまだ腰だけを支える2点式のベルトでOKでした。そのため、この当時は、斜めの肩と胸を支える部分が無い「2点式」のベルトを装備したクルマが多かったようです。
今の「3点式」の元祖となったシステムは、スウェーデンの自動車メーカー「ボルボ」によって開発されたそうです。航空機のベルトを元に、ハンドルやダッシュボードへの衝突によるダメージを防止するショルダー部を追加した、今につながる構造のベルトが実用化されたのは1958年でした。
つまり昭和44年の時点で、すでに3点式ベルトは世に出回っていましたが、まだシートベルトの重要性が訴求していない時期だったので、装着のストレスや装備のコストを考え、2点式からスタートしたのではないでしょうか。
その後、2点式ベルトにショルダー部分を連結する「2+1点式」が登場し、その後に完全に一本のベルトで3点を繋ぐ今の形に落ちつくことになります。
そんなベルト無しや2点式のクルマをいま運転すると、装着義務違反になるのか?
シートベルトの義務化の流れをザッと見ていくと、以下のような流れになっています。
- 1969年 シートベルトの装備を義務化(装着義務は無い)
- 1971年 高速道路での装着を義務化(運転席のみ)
- 1975年 前席のみ3点式の装備を義務化(一部を除く)
- 1987年 一般道でも装着が義務化(後部座席は対象外)
- 2008年 全席での着用を義務化
- 2012年 全席に3点式の装備を義務化
このように1969年までに製造されたクルマにはベルトが装着されていないケースが多く、1969〜1975年の間に製造された車両には、2点式または2+1点式のベルトを装着したクルマが多い事になります。
もちろん、これらの旧いクルマは公道の走行を禁止されていませんが、ベルトを3点式に変更しないと法律違反になるのでしょうか?
答えはNOです。車両に関する法律は、新たに作られた条項が年式を遡って適応されることはありません。
つまり、製造されたときの法律が適用されるということになります。元からベルトが無いクルマには装着の義務自体がなく、元から2点式または2+1点式のベルトのクルマはショルダー部の装着の必要は無いということになります。
後付のシートベルトを装着する旧車ファンも……
ちなみに、筆者の知り合いがシートベルトが無い年式のトヨタ・パブリカに乗っていましたが、あるとき走行中に検問に引っかかったそうです。
止められた理由はベルトの未装着でした。しかしオーナーは装着の義務が無いことを知っていますので、そのこと伝えたところ、若い警察官は困惑してしまい、奥にいるベテランの警察官に聞きに行きました。その後、装着義務が無いことを確認した若い警察官が謝罪してくれて、無事に放免されたそうです。
これは2点式ベルトのクルマでも起こります。外からはベルトが未装着に思えますが、車内を覗き込んでもらえればしっかり装着していることが分かります。
実はそんな経験を何度もしている旧車のオーナーは少なくないはずです。ある意味、旧車オーナーにとっては、あるある鉄板ネタといえるものだと思います。
余談ですが、筆者も2+1点式タイプのクルマをしばらく所有していましたが、なんとなく不安(安全面で)を感じていたので、義務ではありませんが、必ず3点固定のシートベルトを装着して運転していました。
旧いクルマに乗っていると、現代のクルマでは考えられないことに遭遇します。でもこんな希少な機会を体感できることも、旧車の楽しみのひとつと思っています。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(トヨタ)
トヨタの水素技術とインフラの継続的な開発を担う、重要なキーモデル トヨタは「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」とカーボンニュートラル社会の実現を目指し、これまで日本のスーパー耐久シリ[…]
グレード体系を再編。従来モデルに設定があったSグレードが廃止 今回実施される一部改良では、トヨタセーフティセンスの機能強化や、ステアリングヒーター、シートヒーター(運転席・助手席)を全グレードで標準化[…]
統合によるスケールメリットで、次世代商用車の開発が加速 今回発表された合意内容は、三菱ふそうトラック・バス株式会社(以下、三菱ふそう)と日野自動車株式会社(以下、日野)は、対等な立場で統合し、商用車の[…]
カーボンニュートラルの実験場としてのスーパー耐久 スーパー耐久シリーズでは、メーカーの技術開発車両による参戦のためにST-Qクラスが設けられている。これまでもGRスープラや日産フェアレディZ(RZ34[…]
【1990 ランドクルーザープラド70系】廉価かつ高性能を両立したベーシック4WDへ 1985年にヘビーデューティのランドクルーザー70系に追加された4気筒専用ショートボディのワゴンがプラドのルーツ。[…]
最新の関連記事(旧車FAN)
1989年「レクサス」誕生。最初は「LS」と「ES」の2本立て レクサスの最初の商品は、日本では初代セルシオとして販売されたLSと、カムリのV6エンジン車、プロミネントがベースのES。LSの完成度と比[…]
ホンダの黎明期はオートバイメーカー、高い技術力を世界に猛アピール ホンダ初の4輪車は、エポックメイキングどころか、異端児だった!? …と、YouTubeのアオリ動画のタイトルみたいに始めてしまいました[…]
【1990 ランドクルーザープラド70系】廉価かつ高性能を両立したベーシック4WDへ 1985年にヘビーデューティのランドクルーザー70系に追加された4気筒専用ショートボディのワゴンがプラドのルーツ。[…]
【1967 ランドクルーザー50系】求められるニーズに合わせたバン(ワゴン)仕様の50系を分離独立 1960年に登場した3代目ランドクルーザー(40系)は、24年も生産され続けたロングセラー。その長い[…]
最初のATは、フルードカップリングとプラネタリーギアを組み合わせたステップATだった 煩雑でスムーズに変速するには操作技術が必要なマニュアルトランスミッションに代えて、誰でも楽に運転できるトランスミッ[…]
人気記事ランキング(全体)
ワゴンのように使えるキャンピングカー Camper-Rの最大の特長は、キャンピングカーでありながらワゴン車のような自然な使い勝手を持つ点にある。乗車定員は5名で、セカンドシートには柔らかなボディホール[…]
ベース車はホンダ N-VAN e: ! 大空間が魅力のEV軽キャンパーだ 今回紹介する軽キャンピングカーは岡モータース(香川県高松市)のオリジナルモデル、ミニチュアシマウザーCP。ジャパン[…]
ホイールに付いた黒い頑固な汚れの原因はブレーキダスト 新車で購入した際はピカピカだった自慢のホイール。しかし、時を経てよく見てみると、黒い汚れが固着しているのに気づく。洗車しても全然落ちないほど頑固な[…]
太陽光を活用した電源システムで、電力の心配から解放される 「ミニチュアクルーズ ATRAI SV」の大きな特徴のひとつが、標準装備されるSHARP製225Wソーラーパネルだ。車両のルーフにスマートに装[…]
忘れがちなタイヤの空気圧。最悪の場合は事故の原因に… 普段、やや忘れがちなタイヤの空気圧の存在。走行時に不安定な挙動を感じて初めて「もしかしたら空気圧が減ってる?」と、ちょっと不安に感じることもあるか[…]
最新の投稿記事(全体)
救急車ベースという新発想──バンコンの常識を超える室内高 「ヤアズ」のベース車両は、日産NV350キャラバンのスーパーハイルーフ・スーパーロング・ワイドボディ仕様。もともとは救急車として使用される特別[…]
初期のCVTは、駆動プーリーのみで変速比幅は狭かった ベルトやチェーンで動力を伝達する方法は古くから行われていた。この方式で変速までも行おうと考案されたのがCVTだ。 オランダのDAF社は1959年、[…]
ドリンクホルダーを拡張できる便利アイテムを発見 筆者はいつもコーヒーや炭酸飲料などが好きで、ほぼ毎日のように飲んでいる。ドライブ中にも眠気覚まし的によく愛飲している。車にはドリンクホルダーがいくつか設[…]
トヨタの水素技術とインフラの継続的な開発を担う、重要なキーモデル トヨタは「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」とカーボンニュートラル社会の実現を目指し、これまで日本のスーパー耐久シリ[…]
1989年「レクサス」誕生。最初は「LS」と「ES」の2本立て レクサスの最初の商品は、日本では初代セルシオとして販売されたLSと、カムリのV6エンジン車、プロミネントがベースのES。LSの完成度と比[…]
- 1
- 2