圧倒的な〝ホンモノ〟に惹かれたユーザーから激烈な人気! もはや新車だけじゃない、ランドクルーザー70が注目を集める理由を大分析

2023年11月、9年ぶりに国内販売が再開されたランドクルーザー70は、あっという間に予定台数をはるかに上回るオーダーが殺到して、ディーラーではオーダーストップ状態。納車は4年待ちとアナウンスされるほどのヒットモデルになっているが、実はそれ以前の少し古い時代の70も中古車市場では大人気で、新車価格以上のプライスが付く個体も珍しくないほどだ。正直、最新オフローダーと比べるとスペックの数字は見劣りするだけに不思議に感じるユーザーもいるだろうが、これまでのランドクルーザーシリーズの成り立ちをじっくり確認していくと、人気を集めるのは当たり前と思ってもらえるはず。ここでは70の現在の立ち位置を中心に人気を集める理由を確認してみよう。

●文:横田晃

成り立ちからして、他モデルとは別物

キャンプを始めれば、作家物のカスタムナイフが欲しくなるし、料理をするならル・クルーゼみたいなブランドモノの鍋釜を揃えたくなる。自分の腕前では使いこなせないこともわかってるんだけど、欲しくなっちゃうんだよなあ……。実はトヨタのランドクルーザー70というオフロードカーも、そんな男ゴコロをそそる一台として注目されているのだと思います。

ざっくりおさらいしておくと、ランドクルーザーは1951年に、陸上自衛隊の前身となる警察予備隊の制式車両への採用を目指して開発され、自衛隊への採用には漏れたものの、北国の警察や消防署、営林署や電力会社などの現場の足として定着。

1955年に出た2代目は、国産乗用車としては初めて米国に輸出された初代クラウンが酷評されて一時撤退する中、頑丈さや大きめのエンジンによる動力性能が支持されて、トヨタの北米市場開拓の先兵となりました。

1960年に出た3代目の40系と呼ばれるモデルが世界で人気を呼び、その24年の長寿を誇った後を継いだ4代目が、今回の主役となる1984年デビューのランドクルーザー70です。

最初の世代となるランドクルーザー70。圧倒的な走破性と、乗用車ライクな快適性、使い勝手などを高度に両立したキャラはマニアから圧倒的な人気を集めている。

華美な加飾とは全く無縁な実用最優先で設計されたキャビン。これこそがランドクルーザーと尊ぶ声も多く聞かれるほど。当時はガソリンエンジンが新開発の4Lの6気筒(155PS/30.0kg・m)に変更されたこともトピックスだった。

基本的な設計はそのままに、40年も世界で販売されているレジェンド

この70系は基本設計はそのままに、2024年の今日まで、じつに40年も世界で販売されてきています。

ただし、日本国内では、1または4ナンバーの商用車登録だったランドクルーザー70は、その乗用車規格車から派生したランドクルーザープラドに後を任せる形で2004年に一度は販売を終了。その後、2014年に期間限定で30周年記念車が再販されて、あっという間に完売。そして2023年11月、3ナンバーの乗用車規格となってふたたび日本の土を踏むと、またまた人気が大爆発して、新車を注文しても数年待ちという状況が続いています。

ちなみに初期の70系は、MTのディーゼルエンジン車がメイン(ATもあったが少数派)でしたが、2014年の限定車はV6、4LのガソリンMT車で、全車1ナンバーの普通トラック/バン登録。4ドアのほかにダブルキャブのピックアップも設定されました。現在販売中の再販車は4ドアボディのみで、2.8LのクリーンディーゼルエンジンにATの組み合わせ。駆動方式は全世代の全車が、自分で2WDと4WDを切り替えるパートタイム方式となっています。

登場30周年を記念して2014年に限定販売されたモデルは、たちまち完売。スーパーカーと同様に、都市では無駄な高性能がステイタスと感じるユーザーも多いようだ。

前世代の70と比べると、インパネまわりもリファインされているが、実用優先の設計思想はまったく変わっていない。限定車のパワートレーンは4LのV6エンジンに5速MTとの組み合わせ。最高出力は231PS、最大トルクは36.7kg・m。

中古車市場ではプレミア価格で取引中、1000万円を超える個体もアリ

2024年夏現在の中古車市場には、欲しくても買えないランドクルーザー70の登録済み新車(いわゆる新古車)が、法外なプレミア価格で流出しています。新車価格480万円に対して、1000万円のプライスボードを掲げるクルマが珍しくありません。

それにともなって、数十年落ち、走行距離数十万㎞という“大古車”も、とんでもない値で売られています。ざっと中古車の専門サイトを見ても、1990年代の走行20万㎞車が300万円以上しているのです。

その値の是非はともかく、これだけの人気を呼ぶ理由が、ランドクルーザー70の“ホンモノ感”にあることは間違いないでしょう。

2023年にレギュラーモデルとして復活した現行70は、パワートレーンや安全関連機能は最新に生まれ変わっているが、基本的には1世代も2世代も昔のクロカンのまま。エクステリアは40系を彷彿とさせる独立フェンダー、飛び出ているフロントウインカー、丸型2灯ヘッドランプや、3スロットパネルなどが受け継がれながら、ガラス面積が増え、空力性能も向上したモダンなスタリングに変化している。

最新モデルも近代化は最小限。〝安易に変えてはいけないクルマ〟として、互換性を最優先

トヨタの社内でも、ランドクルーザーシリーズは、ランクルひと筋何十年という専門エンジニアの手で開発されています。世界中を巡ってランクルの使われ方を熟知した彼らだからこそ実現できる機能性能が、世界での評価を支えています。

その開発者に話を聞くと、ランドクルーザー70というクルマは「安易に変えてはいけないクルマ」なのだといいます。

日本では、水深70㎝の渡河を前提に設計されたこのクルマでなければ行けない場所はほとんどありませんが、地球上には、セダンでは到底走れない、埃やぬかるみが待ち受ける砂漠や道なき道しかないジャングルを数時間走らなければ医者にもかかれない土地がいくらでもあり、そこではランドクルーザー70の走破性や信頼性は、まさに命綱だといいます。

そして、多くの場合貧しいそれらの土地では、一台のランドクルーザー70のボディが朽ち果てて廃車となっても、足回りやブレーキなどの部品が大切に保管されて別のランドクルーザー70に移植され、人々の命を救うのです。

インパネなどのデザインは不変。商品企画は商用車規格に準ずるため、樹脂の質感などはけっして高くないが、それはそれで魅力的に思えるのが不思議なところだ。

ラゲッジの使い勝手もシンプルで、後席がタンブル機構で折りたためるため、奥行きが1355mmと長く、さまざまな荷物が積みやすいのも魅力のひとつになっている。

代わりがいない、リアルオフローダー

だから最新のランドクルーザー70の足回りにも、じつは60年前のランドクルーザー40と互換性のあるパーツが使われており、開発責任者はまるで古文書のようになった図面に、過去何代もの先輩と並べて承認の判を捺すのだと彼は笑いました。

地球のどこかで誰かの命を救う、ホンモノのクルマ。そのストーリーはたとえ40年前のランドクルーザー70でも、いや、40年前のモデルだからこそ、ピュアに男の心をくすぐります。1000万円のプレミア価格で手に入れる新車より、もしかしたら百戦錬磨の傷跡の残る古いクルマのほうが、ロマンチックかもしれません。

エンジンは新開発の2.8ℓ直4コモンレールディーゼルターボ(204PS/51.0kg・m) 。ミッションは6速ATが組み合わされるが、駆動輪を切り替えるトランスファーはマニュアル式。ビークルスタビリティコントロールやアクティブトラクションコントロールといった、操縦安定性に欠かせない制御システムを採用するが、極力余計なものは削ぎ落とし、シンプルなメカニズムで高いオフロード性能を実現している

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