
空気抵抗の減少を狙ったスピンドルシェイプや2段に分かれたノーズ、ボディと同色のビルトインバンパーなど、斬新なデザインでデビューしたMS60型4代目クラウン。デザインばかりではなく高級オーナーカーという位置付けにふさわしい性能&装備を纏った先進的なサルーンであったが、その先進すぎたデザインゆえに、当時の消費者には受け入れられなかった。
●文:月刊自家用車編集部
紡錘型(スピンドルシェイプ)は今でも斬新。キャビンと一体感を強調したカプセル型ボティで三角窓が廃止された。
クジラとも称された4代目クラウン。車体下側の丸みを帯びたシェイプがクジラのお腹部分に例えられことが「クジラ」の愛称の由来になっている。突起物を極力排することで実現した安全性の高い面構成や、組み込み式カラードバンパーの採用もこのモデルの特徴になる。
先進的スタイルとなった背景には、日産セドリック&グロリアとの熾烈な販売競争があると言われている。
【主要諸元】
全長×全幅×全高:4680×1690×1420mm ホイールベース:2690mm 重量:1360kg 排気量:1988cc水冷直6OHC 最高出力:110ps/5800rpm 最大トルク:16.0kgm/3800rpm トランスミッション:3速マニュアルコラムシフト 型式:MS60型 ●生産台数:26万7500台
新機軸として(航空機の)コクピットタイプのメーター類/燃料残量ウォーニングランプ/ソフトタッチホーンなどが装備された。
コラムフロントシートは3名がけの6名定員。フロアシフト仕様は2名用の5名定員となる。ファブリック仕様も豪華さが追求されている。また室内もトータルでカラーコーディネートされている。
前輪ディスクブレーキ装備やトレッド拡大で、高速走行に対応
オーナーカー時代に向けて提案したスタイリングが時代を先取りしすぎたのか、世間の無理解と保守性に翻弄されてしまった4代目クラウン(MS60系)。何よりの特徴はそのデザインで、空気抵抗の減少を狙ったスピンドルシェイプは、2段に分かれたノーズやボディと同色のビルトインバンパーなどが新鮮だった。さらにワゴンの側面観など、現代の目にも未来的に映る。
メカニズムも先進的で、いずれもオプションながら、後輪ESC(ABSに相当)/EAT(電子制御AT)/クルーズコントロールなどが採用されている。最高級グレードとしてスーパーサルーンが設定されたのも、この4代目からだった。また最終年度には、折から厳しさを増した排気ガス規制に対応し、一部のグレードに電子制御燃料噴射装置が取り入れられている。
エンジンはすべて6気筒になり、2600ccも追加された。クラウンエイトを例外とすれば、初めて3ナンバー規格となるクラウンで、高度経済成長時代を反映していた。
しかし、多くの消費者にとって見慣れぬデザインが不評を被った結果、ライバルの日産セドリック/グロリアに販売の首位を奪われるなど、トヨタの看板車種としては低迷してしまった。そこで発売2年後の1973年、人気挽回を期してマイナーチェンジを実施。前後の一体型バンパーをボディとの同色からメッキに変え、グリルも荘重に改めるなどの対策を尽くしたが、いったん根付いた悪評を覆すまでには至らず、けっきょく1974年にわずか4年という現役生活に終止符を打ってしまった。しかし、その先鋭的なデザインの印象は強烈で、今では旧車ファンの間で垂涎の的になっている。
トヨタがこのスピンドルシェイプを世に問うたのは、けっして一瞬の気まぐれによるものではなく、次の時代に向けての真剣な瀬踏みだった。その意図がほのかに垣間見えるのが、1962年のモーターショーに出展されたコンセプトカー・スポーツX。瀟洒な4座クーペだったが、フロントのコーナー部にスモールライトをはっきり突き出したあたりに、4代目クラウンに通ずるものも感じられる。そんな時間の流れとアイディアの温め方を思うと、スピンドルシェイプが失敗だったのではなく、高級車クラウンに応用したのが意外すぎたということになるだろうか。いろいろな意味で、忘れることのできないクラウンである。
これからのスタイリングをリードすると謳われたとおりカスタム(ワゴン)のデザインも先進性に富むものだった。
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