
いくらクルマ好きだといっても、不動車を喜んで手に入れる方はレアな存在。鉄くず同然のクルマを引っぱり上げてくるなんて、業者かマニアが部品取りをするのが関の山。ですが、そのポンコツ不動車がランボルギーニだったらどうでしょう。しかも、この世に338台しか存在しないミウラP400Sとなれば、多少ボロでも喜んで手に入れるはず。そんな鉄くず同然のミウラが、1億5000万円と思わず二度見する値段で落札されました。
●文:石橋 寛(月刊自家用車編集部) ●写真:RM SOTHEBY’S
フェラーリを突き放した”奇跡のモデル”
ランボルギーニ・ミウラはスーパーカー世代でなくとも、クルマ好きなら誰もが憧れる名車中の名車かと。
1966年にP400(ちなみに、PはPosteriore=ミッドシップを表すとされています)は、ジャンパオロ・ダラーラとパオロ・スタンツァーニという天才的エンジニアによって設計され、スタイリングはカロッツェリア・ベルトーネに在籍していたマルチェロ・ガンディーニという奇跡のようなモデルです。
横置きV12エンジンは当初350馬力とカタログに記載され、1968年に発表されたP400Sでは4つのウェーバー 40IDL-3Lキャブによるものか、370馬力までパワーアップされました。なお、ライバルのフェラーリがミウラに対抗するモデルをリリースしたのは、1973年デビューの365GT4BBとさえ言われています。
クルマのオークション大手、RMサザビーズにて96万7500ドル(約1億5000万円)で落札された1969年製ランボルギーニ・ミウラP400S。事故でフロントフードを失っている。
1978年から倉庫で眠っていた事故車
アメリカの自動車専門誌「ロード&トラック」が1970年4月号でP400Sをテストした際、0-60mph加速5.5秒、最高速度168mph(約270km/h)を記録していますが、同年8月の「オートカー」誌によるテストでは最高速度172mph(約277km/h)を記録。パフォーマンスも超一流と認めざるを得ません。
が、ランボルギーニのテストドライバーだったボブ・ウォレスによれば「高速域はややナーバス」というコメントもあり、黎明期のミッドシップスポーツらしい荒々しさ、じゃじゃ馬ぶりも垣間見えるかと。それゆえ、貴重なミウラが事故で消失してしまった例は少なくない数に上がるとか。
今回ご紹介するのは、そんな事故を起こして長期間ヤードで眠っていたサンプルです。1968年モデルのP400Sで、1978年にアメリカで衝突事故を起こして以来、修復されることがないまま保管されていたとのこと。
見つけ出したのは、ルディ・クラインというその道では有名な「鉄くず好き」。なにしろ、ヤードならまだしも砂漠に埋まっていたクルマや、朽ち果ててフレームの一部しか残っていないようなクルマをサルベージ(救助)して、オークションに出品するのです。
一見したところフレームのダメージは少なく、現代の技術ならば修復はさほど難しくはないだろう。
朽ちたまんまでも価値は上がり続ける
そんなクライン・コレクションの中では、このミウラはだいぶましな方でしょう。たしかに、フロントフードは影も形もありませんが、エンジンやインテリア、あるいは超希少な純正マグネシウムホイールまで残っているのです。
さらに、残っているだけでなくエンジンをはじめとした各所のナンバーマッチングも認められる(積換でない証拠)とのこと。もちろん、出荷時のボディカラーそのままであり、このあたりの書類、記録もしっかり残っているそうです。
ならば、後はフロントフードを見つけてきて、板金をはじめとしたレストア作業で復元もいけるはず。と思いきや、「このままがいい」という専門家もいるというのが驚きです。見つかった時の状態をさらに保持することで、値下がりどころかグイグイ値上がりするとのこと。
つまり、株の塩漬けと同じく、下手に触らないで「ミウラのタマ」が枯渇した頃に売りさばくといった魂胆。実際、こうしたプレミアムな鉄くずはレストアして、さらなる高値が付くものもありますが、朽ちた状態で取引されることも少なくないのだそう。
いずれにしろ、鉄くずオークションの世界は奥が深い。マニアでなくとも、お宝ニュースから目が離せそうにありません。
メタリックブルーも工場出荷時のもの。ボディカラーをはじめ、各部が出荷時のオリジナルというのは価値が高い。
ボディの傷みは見るも無残なもの。とはいえ、ランボルギーニの代表的モチーフ、ハニカムグリルも健在。
ランボルギーニ純正のホイールはマグネシウム製というのが定説。事故を起こしたわりに、コンディションは悪くなさそうだ。
同じく1969年製の健全なミウラP400S。リフトアップライト周辺にまつ毛と呼ばれるフィンがP400と区別するポイント。
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