
急に冷え込む冬の朝、クルマの暖房を全開で走り出す――多くのドライバーが無意識にやっている習慣だ。しかし実は、その“何となくの操作”が燃費悪化の原因になっていることは意外と知られていない。カーエアコンは暖房も冷房も、扱い方ひとつで効率が劇的に変わる装置だ。間違った操作を続ければガソリンを無駄にし、車内の快適性すら損なうことになる。そこで今回は、冬のドライブでこそ知っておきたいカーエアコンの正しい使い方と注意点を、実体験を交えながら深掘りする。
●文:月刊自家用車編集部
冬のエアコンは“いきなり全開”が一番ムダになる理由
冬の朝は車内が冷え切り、シートもハンドルも硬く感じる。そんな状況で暖房を思い切り上げてしまうドライバーは少なくない。しかし、暖房はエンジンの排熱を利用しているため、エンジンが冷えたままだと温風は出ず、ただファンを回すだけの状態になる。これは燃料を使って空気を送るだけの“ムダ使い”そのものだ。
効率良く暖めたいなら、エンジンがある程度温まるまで暖房を控えめにしておくのが最適だ。走行開始から数分間は、シートヒーターやステアリングヒーターなど電気的な装備がある車なら先にそちらを頼ったほうが早く体感温度が上がる。エンジンが温まってさえいれば、暖房は本来とても効率の良い装置で、必要以上に燃費を悪化させることもない。
冬はどうしても“早く温まりたい”という焦りが出る季節だが、エアコンの効率は物理的に決まっている。焦りを抑え、正しい順序で作動させるだけで、同じガソリン量で格段に快適な車内に変わる。
設定温度の極端な操作は快適さより燃費悪化を招く
車内が寒いとつい温度設定を最大近くまで上げてしまう。しかし、これはエアコンの効率を大きく落とす要因となる。特に冬の暖房は車内全体を温めようとファンが強めに回るため、思った以上にエネルギーを使ってしまう。
車内を早く快適にするため極端な温度設定してしまう人も多いはず。しかし設定温度は、燃費に悪影響を及ぼすことを忘れてはいけない。
マレリの情報によれば、日本車の最適温度は25℃前後とされる。25℃は一見高く感じるが、「車内を温める」という目的に対してエネルギー効率が良く、体感的にも自然な暖かさが得られる設定だ。逆に30℃付近まで上げてしまうと、温風が強く出続けて乾燥しやすく、さらに燃費にも悪影響が出てしまう。
冬こそ“急激に温めたい欲”が出る季節だが、設定温度を上げすぎることは逆効果だ。数度下げるだけでも効率は大きく変わり、長距離ドライブでは燃料消費に明確な差が出る。
A/Cボタンを“常にON”は冬のあるある誤解
A/Cボタンは冷房だけのスイッチだと思われがちだが、正確には除湿を伴う空調を起動するボタンだ。つまり冬の暖房中にA/Cをオンにすると、温めながら湿度を下げる動作が入る。これが乾燥の大きな原因になる。
A/Cボタン
もちろん、冬の朝イチでフロントガラスが曇った場合はA/Cをオンにする必要がある。しかし、曇りが取れたあとにA/Cを切らずに走り続けるドライバーは意外と多い。その状態が長く続くと、車内はどんどん乾燥し、のどが痛んだり目が乾きやすくなったりと快適性を損なう。
A/Cボタンは必要なときにだけ使うのが基本だ。冬は“ONにしっぱなし”が最も不向きな季節であり、むしろ使う頻度は一年で最も少なくて良い。
内気循環と外気循環の切り替えは冬ほど重要になる
内気循環は車内の空気をそのまま循環させるモードで、冬は暖房効率が高まるため重宝する。温まった空気が外へ逃げにくく、車内を短時間で暖められる点は大きなメリットだ。
内気循環と外気循環の切り替えボタン。
しかし、内気循環を長時間続けると酸素濃度が下がり、眠気を感じやすくなる。特に暖かい車内では眠気が加速し、冬場の事故原因として見逃せないポイントとなる。さらに二酸化炭素濃度が上がりすぎると集中力低下や頭痛の原因にもなる。
効率と安全性を両立するためには、1時間に一度は外気導入に切り替えて空気を入れ替えるのが理想だ。寒さが厳しい季節こそ、酸素不足は体感しづらいため注意が必要となる。暖房効率と健康面のバランスを理解したうえで切り替えることが重要だ。
乾燥しやすい冬の車内は加湿対策が欠かせない
冬の暖房は車内の湿度を極端に下げてしまう。温風は湿度を奪う性質があり、ヒーターを強めに入れるほど空気はどんどん乾燥する。そのため、走り始めて30分もすると、のどのイガイガや目の乾きが気になり始めることが多い。
温風を直接浴びると温かい反面、極端に乾燥してしまう。風向きを調整して快適に運転したいところ
加湿器を設置するのが最も効果的だが、電源がない車内では濡れタオルを吊るすだけでも湿度は明確に変わる。わずかな湿度の改善が快適性を大きく引き上げ、疲労感の低減にもつながる。
必要以上の乾燥は風邪やウイルス感染のリスクを高める点も忘れてはならない。特に家族連れの冬ドライブでは、乾燥対策を軽視するべきではない。
風向きの設定は“足元へ暖気、頭上へ冷気”の基本を守る
冬の暖房は風向を足元へ向けるのが鉄則だ。温風は上昇するため、足元から暖めることで自然と車内全体が均一な温度になりやすい。一方、顔に直接温風を当てると乾燥が加速し、さらに体温調整がうまくいかず疲れやすくなる。
車種によってはエコモードを搭載しているので、積極的に利用してみよう。
逆に夏の冷房では風を上部に向けたほうが効率が良い。冷気は下へ落ちるため、天井方向から冷たい空気を回すほうが均一に涼しくなる。季節に応じて風向を変えるだけでエアコンの効率は大きく変わる。
冬の暖房で効率が悪いと感じたら、温度設定以前に風向が間違っている場合が多い。まずは風向を見直すだけで、驚くほど暖まり方が変わることがある。
フィルターの汚れは暖房効率を落とす“隠れた犯人”
エアコンフィルターは1年に1回が交換目安と言われているが、実際には数年放置しているドライバーも珍しくない。汚れたフィルターは空気の流れを阻害し、暖房も冷房も効きにくくしてしまう。また、ホコリやカビが溜まるとニオイの原因にもなり、冬の暖房でそのニオイが車内に広がることもある。
寒い季節の暖房効率を最大化したいなら、フィルター交換は欠かせない。エアコンの性能を100%引き出すためにも、季節の変わり目での点検は習慣化しておきたいところだ。
冬こそ“正しい使い方”が燃費も快適性も左右する
冬のカーエアコンは、間違った操作をすると燃費に直結するだけでなく、乾燥や酸素不足といった体調面のリスクも生む。逆に、正しい使い方さえ理解していれば、同じ燃料で格段に快適な冬ドライブを手に入れられる。
冬は効率と健康面、快適性のバランスを取ることが重要だ。少しの工夫で車内環境は大きく改善し、走行中のストレスや疲労感も軽減される。エアコンは“操作するだけの装備”ではなく、扱い方で結果が変わる精密な空調システムであることを意識して使いたい。
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