
軍用車両にルーツを持つ「質実剛健」の象徴が、ついに電気という新たな力を手に入れた。試乗したメルセデス・ベンツG580 wiht EQテクノロジーは、一見すれば伝統の意匠を纏った「いつものGクラス」だ。しかし、その内部には1164Nmという怒涛のトルクを4輪で緻密に操る、4モーター独立駆動という革命的なメカニズムが潜んでいたのだ。
●文:川島茂夫 ●写真:澤田和久
佳き時代のGの面影は、BEV時代になっても陰りなし
クルマの世界で近未来といえば、BEVがそのイメージリーダーであることに異論はないだろう。市販されている多くのBEVが、未来的あるいはサイバー時代を想起させる先鋭的なデザインを採用するのは、もはや常套手段といえる。
しかし、G580 wiht EQテクノロジー(以下G580EQテクノロジー)の佇まいは、そうした近未来感を真っ向から否定するわけではないにせよ、どこまでもGクラスという車の基本コンセプトに忠実だ。
電動化というドラスティックな変化さえ、長い歴史の中で積み重ねられてきたアップデートのひとつに過ぎないと思わせる説得力がある。
平面的なボディパネルや外側に露出したドアヒンジなど、戦地や過酷な現場での補修性を重視した設計は、軍用車両や働くクルマそのものであり、質実剛健と実践力の権化といっても過言ではない。その姿のまま、時代の最先端を行くBEVであるという事実に驚きを禁じ得ない。
細部を見ればLEDランプなどに現代的な意匠が施されているものの、それ以外はハードかつタフな用途で頂点を極めたGクラスの姿そのもの。この原点と先進の鮮烈な対比は、見る者に不思議な高揚感を与えるほどだ。
試乗したのはローンチモデルとなるG 580 with EQ Technology Edition 1。伝統のスクエアなフォルムを継承しつつ、空力を考慮したフロントグリルやブラックのアクセントが電気自動車としての個性を主張しつつも、BEVでも損なわれないタフな存在感は、唯一無二の魅力が宿っている。
Gクラス伝統の機能的な設計を継承しつつ、ワイドディスプレイを並べた最新のMBUXを搭載。上質な素材とブルーのステッチでBEVらしい気品を演出する。
「Gターン」を実現してしまう、緻密な制御と機動力
では、単に内燃機関を電動モーターに換装しただけのモデルなのかといえば、決してそうではない。BEVとしてのあり方そのものが、極めてGクラスらしいのである。
ハイブリッドの4WD車であれば、副駆動輪を独立したモーターで回すツインモーター式が主流であり、BEVならなおさらその傾向は強い。
4つのモーターで4輪それぞれの駆動力を緻密に制御する四輪駆動システムを搭載。タイヤサイズは275/50R20。20インチAMGアルミホイールが装着される。
システム最高出力は432kW、最大トルクは1164Nmを発揮する。
だが、G580EQテクノロジーはそれどころか、前後左右の各輪を独立したモーターで駆動する4モーター式を贅沢に採用した。メルセデスのSUVで最上級に位置するマイバッハEQS SUVでさえツインモーターであることを考えれば、この構成がいかに異例であるかがわかる。
各モーターは最高出力108kW、最大トルク291Nmを発生し、システム全体では432kW、1164Nmという途方もない数値に達する。
車両重量はガソリンV8エンジンを積むAMG G63よりもさらに約450kg増加しているが、3トンを超える巨体を軽々と、かつ精密に操るための余りあるパワーを備えている。
最低地上高は内燃機関仕様を上回る250mmを確保し、悪路対応力においても従来型と同等以上の性能が見積もれる。そこに4モーターによる緻密なトルク制御が加わるのだ。
特筆すべきは「Gターン」と命名された超信地旋回機能だろう。
左右輪を逆方向に駆動させ、その場で自転するように転回する様は、ブルドーザーのような装軌車を思わせる。四輪車としては極めて稀なこの機能は、G580が目指した極限踏破性の高さの証明にほかならない。
オンロードで露わになる、紳士的で洗練された走り
残念ながら、今回の試乗環境でその真価の片鱗を拝むことは叶わなかったが、一方でオンロードにおける走りの紳士的な振る舞いには目を見張るものがあった。まず驚かされたのは、パワーコントロールの容易さだ。
オンロードでは、ラダー車とは思えぬほどの追従性を持つなど、上級モデルにふさわしい走り。紳士的な走りに驚かされる。
無骨なオフローダーという印象に反し、動き出しのスムーズさや低速域での扱いやすさは、洗練された高級乗用車を凌駕する。速度域を上げてもそのコントロール感は損なわれず、あらゆる場面で極めて安定したドライバビリティを発揮する。
フットワークもまた、本格クロカンモデルとは思えないほど上質。ラダーフレーム構造でありながら車軸周りの揺動が実に見事に収束されており、しなやかな路面追従性と据わりのいい挙動を両立している。
この操縦感覚と穏やかな乗り心地は、ドライバーだけでなく同乗者にも快適な時間を提供する。機能的なコックピットに上品な内装を組み合わせた空間は、居心地も使い勝手も申し分ない。
もちろん、高い着座位置ゆえの乗降性の厳しさや、日本の左側通行では使いにくい左ヒンジの横開きリヤゲートなど、特有の課題はある。一充電航続距離も530km(WLTCモード)、価格は2635万円(G 580 with EQ Technology Edition 1)と、多くのユーザーにとってハードルが高いのは事実だろう。しかし、Gクラスの本質を愛する人にとって、このBEVは次代のGクラスのアイコンとして、見逃せない存在に映るのは間違いない。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(メルセデスベンツ)
Bクラスが実質グレードアップ。内外装もスポーティに進化 Bクラスに追加される「アーバンスターズ」は、Aクラス、GLA、CLA、GLBにも導入されているシリーズグレード。従来のオーナーから好評を得ていた[…]
佳き時代の面影を残す、ルーフラゲッジとスペアタイヤホルダーを特別装備 Gクラスはクロスカントリービークルとして誕生以来、基本的なスタイリングと堅牢なボディを保ちながら進化を続けており、2024年発表の[…]
Mercedes-AMG GT 53 4MATIC+ (ISG) Final Edition 特別装備で走りのポテンシャルを向上したメモリアルモデル メルセデスAMG GT 4ドアクーペは、メルセデス[…]
24C0239_017 サーキットを速く走るための、特別なチューニングがプラス 「Mercedes-AMG GT 63 PRO 4MATIC+ Coupé」は、サーキットでのパフォーマンスを追求したい[…]
4台の日本初公開モデルを展示 今回のショーでは、“Feel the Mercedes”というコンセプトをもとに、Mercedes-AMG初の完全電気自動車である「CONCEPT AMG GT XX」や[…]
最新の関連記事(ニュース)
センチュリー(大会本部車) 大会オリジナルモデル、FCEVセンチュリーも投入 1920年の創設以来、100年以上の歴史を持つ同大会に対し、トヨタは2003年から車両提供を開始し、2011年からは協賛社[…]
良好な日米貿易関係の構築に向けて、日本でも成功しそうなモデルを厳選 カムリ(Camry)、ハイランダー(Highlander)、タンドラ(Tundra)の3モデルは、米国で生産され、彼の地で高い人気を[…]
SUPER GT GT500クラスでは、4連覇という金字塔を目指す 今回発表された2026年のモータースポーツ活動計画では、TGRが目指す「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」と「モー[…]
横浜「ザ・ムービアム」で味わう進化感覚の芸術体験 ザ・ムービアム ヨコハマは、約1800m2の広大な空間を舞台に、音と映像が融合した進化感覚の芸術体験を提示するイベント。 まず、イベントの核となるシア[…]
●多様化×電動化×知能化が魅力の「新型RAV4」がサブスクで身近に 6代目となった新型RAV4のテーマは「Life is an Adventure」。力強さと洗練されたデザインと進化した電動パワートレ[…]
人気記事ランキング(全体)
車種専用設計だから、ピッタリ装着。見た目にも違和感なし カーメイトと言えば、使い勝手の良い様々なカーグッズをリリースしており、多くのユーザーから評価されているブランドとして知られている。今回紹介するの[…]
30周年記念車にも適合 ステップワゴン スパーダの力強く伸びやかなシルエットを強調し、フロントフェイスの存在感を高める「バンパーワイドガーニッシュ」。 フロントバンパーに重厚感とワイドな印象を付与する[…]
耐久性抜群でスタイリッシュ。便利な開閉式のリアラダー クラフトワークス(Fun Standard株式会社)は、実用性とデザイン性が高い、自動車用アクセサリーを多数リリースしているブランドだ。そのクラフ[…]
車中泊を安心して、かつ快適に楽しみたい方におすすめのRVパーク 日本RV協会が推し進めている「RVパーク」とは「より安全・安心・快適なくるま旅」をキャンピングカーなどで自動車旅行を楽しんでいるユーザー[…]
国内自社工場一貫生産による高品質。1Kのような間取りが特徴 キャラバンZEROを製作するOMCは東京都武蔵野市にあり、オーダーメイドのキャンピングカーを製造販売。そのこだわりは国内自社工場一貫生産で、[…]
最新の投稿記事(全体)
センチュリー(大会本部車) 大会オリジナルモデル、FCEVセンチュリーも投入 1920年の創設以来、100年以上の歴史を持つ同大会に対し、トヨタは2003年から車両提供を開始し、2011年からは協賛社[…]
佳き時代のGの面影は、BEV時代になっても陰りなし クルマの世界で近未来といえば、BEVがそのイメージリーダーであることに異論はないだろう。市販されている多くのBEVが、未来的あるいはサイバー時代を想[…]
「Z」と「アドベンチャー」専用プログラムを用意 今回導入される新型RAV4のモデリスタパーツは、「Z」と「アドベンチャー」のおのおののグレードに対応する専用プログラムが設定される。 「Z」向けのエアロ[…]
今回の一部仕様変更では「キャリイ」シリーズ全車においてフロントの外観デザインを刷新するとともに、視認性に優れたデジタルメーターディスプレイや利便性を高めるスマートフォントレー、助手席カップホルダーなど[…]
MIRAI×moviLinkで、おでかけプランやスケジューラ連携を実現 今回導入される改良モデルでは、外装の仕様変更とともに、スマートフォン向けカーナビアプリ「moviLink」との連携機能を新たに導[…]
- 1
- 2


























