
1960年、まだオート三輪が物流の主役だった日本に、驚くべき先進性を持った商用バン「日野コンマース」が登場した。当時としては画期的なFF駆動の採用によるドライブシャフトのない超低床フラットフロアだった。地上高わずか450mmという驚異的な「超低床フラットフロア」を実現。さらに、4輪独立懸架サスペンションの採用により、商用車特有の突き上げを抑えた優れた乗り心地と、低重心による高い走行安定性を両立した先進の商用バンだった。しかし、先取りしすぎたメカニズムにインフラ環境が追いつくことはなく、その真の実力を評価されずに、わずか2年という短い生産期間を終えることになる。
●文:月刊自家用車編集部
日野・ルノー4CV。この車両のエンジンを、コンマースに流用。縦置きに搭載した。
ライトバンタイプとミニバスタイプという豊富なバリエーションが用意された
戦後、ルノー車のノックダウン生産で小型車造りを学んだ日野が、1960(昭和35)年に満を持して発売した自社開発の第一号車がコンマースだ。このクルマは、日野がライセンス生産していた「日野・ルノー 4CV」のエンジンをベースに開発した商用ワンボックスバンだが、当時の常識を打ち破る設計思想で開発された極めて先進的なメカニズムが採用されている。
シンプルなワンボックスデザインを採用するが、5人乗りの400㎏荷積み、または2人乗りの600㎏荷積みのライトバンタイプと10/11人乗りのミニバスタイプという豊富なバリエーションが特徴的であった。また、当時の商用車はFR(後輪駆動)が当たり前だったのだが、ルノー4CV用の836㏄(のちに893㏄)のエンジンを縦置きにしたFF(前輪駆動)を採用することで低いフロア高を実現していたのも革新的だった。
コンマースには、ルノー4CV用から発展した836㏄エンジンを縦置き。前輪を駆動。モノコックボディとトーションバースプリングの四輪独立サスで、低床設計で広い車内を実現。
当時の商用車としては珍しいモノコックボディを採用
さらに、商用車としては珍しいモノコック構造を採用することで、乗用車に近い快適な乗り心地と軽量化を追求したのだ。足回りも同様に、当時の商用車の常識であった「リーフスプリング」は採用せず、フロントに「ダブルウィッシュボーン+トーションバー」、リアに「トレーリングアーム+コイルバネ」という乗用車的な四輪独立懸架方式にするなど、商用車の既成概念を大きく覆すメカニズムとなっている。このことから、「荷物を運ぶ道具」というよりも「快適な移動道具」を目指したクルマであったといえるだろう。
日野 コンマース。丸形2灯のヘッドライトが少し高い位置に配置されており、その下にフロントグリルが設けられる。さらに周囲には独特のプレスラインが施されている。
容積効率を最優先したため、リアエンドはスパッと垂直に切り落とされたような形状となる。
開発者のこだわり? 商用車としてはオーバースペックだった
ただし、航空機エンジニアが参加したその設計は、当時の商用車としては明らかにオーバースペックであった。そのうえ、1トン近い車体に28馬力のエンジンは、荷物をフル積載した状態での坂道走行などには力不足は否めなかった。さらに、当時の技術では、FFのドライブシャフト(ジョイント部分)の耐久性も低く、故障の原因となりやすかったようだ。先進的すぎたがゆえに、当時の日本の道路環境には馴染めず、ビジネスとしては成立することはなく、わずか2年/2000台あまりの生産で姿を消した超レアなライトバンなのである。
フロアからほぼ垂直に生えたステアリング。車内は極めてシンプルだった。
当時のクルマに多かった後ろヒンジのドアを採用。
荷室は、重い荷物を持ち上げずに積み込めるようステップレスを採用していた。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(旧車FAN)
最終型に「プロ」の顔を移植する背徳感 会場で一際赤い輝きを放っていた初代シティ。ベースは最終型ということだが、初期に登場した1981年式の商用バン「シティプロ」のグリルやフェンダーミラーを移植した「先[…]
伝統の血統と「究極のスパルタン」 「フェアレディ(貴婦人)」という優雅な名に反し、その中身は一貫して硬派なパイオニアの血脈を継承している。その祖先はダットサンスポーツSPL212にまで遡るが、市販スポ[…]
操縦安定性の研究者が提案したミッドシップは小型車のスタディだった エンツォ・フェラーリ、フェルディナント・ポルシェ、フェルッツィオ・ランボルギーニなど、世界的なスーパースポーツカーには、夢と情熱でそれ[…]
「既存のパーツを組み合わせて、いかに安く高性能な車を作るか」が開発の至上命題だった 今日まで続く日産のスポーツカー、フェアレディの名は、1960(昭和35)年に初めて使われた。当時の日産社長、川又克二[…]
国産初の2シーターミッドシップスポーツをトヨタが発売したことが驚きだった トヨタ「MR2」が発売されたのは1984年です。前年の東京モーターショーで「SV-3」というMRレイアウトの車輌が発表されまし[…]
人気記事ランキング(全体)
サンシェードを使用しても、車内の温度上昇は避けられない まだ5月だというのに、すでに各地で真夏日を記録。日差しの強さを実感している人も多いのではないだろうか。また、クルマで出かけた際にも、強烈な日差し[…]
欧州で圧倒的な人気を誇るベストセラーを日本仕様に 今回紹介するのは、キャンピングカーの製造で国内トップクラスの実績を誇るナッツRVが手掛けた、フィアットのデュカトをベースにしたキャンピングカーだ。ベー[…]
伝統の血統と「究極のスパルタン」 「フェアレディ(貴婦人)」という優雅な名に反し、その中身は一貫して硬派なパイオニアの血脈を継承している。その祖先はダットサンスポーツSPL212にまで遡るが、市販スポ[…]
ネジのトラブルの代表例、溝がつぶれてしまった場合の対処法 自動車のメンテナンスを自分で行う場合、ドライバーを使用してネジを外すという作業は基本中の基本となる。また、日常においてもドライバーを使用した作[…]
邪魔になりがちなサンシェードを、サンバイザーに収納するという発想 5月ともなると日差しも徐々に強くなり、地域によっては真夏日を記録するなど、2026年の夏も強烈な暑さになりそうな雰囲気も漂わせている状[…]
最新の投稿記事(全体)
多角的な挑戦を象徴する、最新技術を披露 「人とくるまのテクノロジー展」は、毎年5月、6月に開催される、自動車技術会が主催する日本最大級の自動車技術専門展示会。 新型モデルなどの披露が目的のモーターショ[…]
シエラ/ノマドの車格に合わせた17インチ設定 一般的なJB64系ジムニーでは、タイヤの厚みを活かした16インチ仕様が主流となるが、フェンダーがワイド化されたシエラやノマドはボディサイズが大きく見えるた[…]
日産は、長期ビジョン「モビリティの知能化で、毎日を新たな体験に」を掲げており、今回の「自動車技術展 人とくるまのテクノロジー展 2026」では、AIを中心とした「AIディファインドビークル(AIDV)[…]
物流のプロたちが投げかけた「本気の質問」 「ジャパントラックショー」は、大型トラックや物流システムが主役の硬派な展示会だが、フィアットブースに展示されていた2台の商用モデルは、スタイリッシュなスタイリ[…]
「ラグジュアリー=大排気量」にあらず 約16年ぶりにフルモデルチェンジした新型エルグランド。最大の見どころは、日本におけるラグジュアリーミニバンの先駆者として、今の日産が考える最高峰のラグジュアリーを[…]
- 1
- 2





















