
コスモスポーツに続くロータリー戦略の要として、1969年に登場した「ルーチェ・ロータリークーペ」。ベルトーネ時代のジウジアーロによる流麗なスタイルと、マツダ史上唯一のFFロータリーという特異な構造は、当時の自動車界に衝撃を与えた。FF専用の「13A型」ロータリーエンジンまで開発しながら、なぜ短命に終わったのか? 今もなおマニアを魅了してやまない、マツダの執念が宿る名車の軌跡を振り返る。
●文:月刊自家用車編集部
RX87(1967年)
1967年東京モーターショーに後にファミリアロータリークーペとなるRX8とともに、ひとまわり大きなRX87が展示された。スタイルはほぼそのまま市販のルーチェロータリークーペに受け継がれた。
先に販売されたルーチェセダンのクーペモデルとして登場したが、実はそのほとんどが専用設計で別物のクルマだった
世界初の量産ロータリーエンジン車、コスモスポーツが発売された1967年の東京モーターショーに、マツダは美しいハードトップボディを持つアッパーミドルクラスのロータリー車を展示した。それは当時、ベルトーネに在籍していたジウジアーロがデザインを担当。ルーチェ(セダン・ワゴン)の追加モデルとして、1969年に登場した流麗なスポーツクーペ、ルーチェ・ロータリークーペだ。
もっとも、ルーチェのセダン/ワゴンがコンベンショナルなFRだったのに対して、ロータリークーペはFFを採用していたため、内容的にはまったく別のモデルといってもよく、マツダのロータリーエンジン搭載車として、FF方式を取り入れたのは、後にも先にも、このクーペが唯一なのである。
あえてFF駆動にロータリーエンジンを搭載したマツダの意地と戦略
当時のマツダが、なぜ、このルーチェクーペに困難ともいえるFFロータリーを採用したのか、というと、そこにはマツダの深い戦略とプライドが見え隠れしているのだ。当時、大排気量の多気筒エンジン(直6やV8など)でFFを作ろうとすると、エンジンが大きすぎてフロントオーバーハングが長くなり、ハンドリングが壊滅的になるという壁にぶつかっていた。ここに世界に先立ち量産ロータリーエンジンを成功させたマツダのプライドと戦略が交錯することになる。ロータリーエンジンのコンパクトさを武器に、単なるスポーツカーではなく、長距離を優雅に高速移動するための「ラグジュアリーGT」を目指したのだ。
FFにすることで、後席まで完全にフラットな車室が実現でき、当時のクーペとしては異例の居住性を確保することができたのである。これは、ベルトーネによる美しいデザインを活かしつつ、大人4人が快適に過ごせる「最高級車」へのこだわりでもあった。
搭載されるロータリーエンジンもFF専用開発だった
実は、搭載されたロータリーエンジン(13A型)も、このクルマのための専用設計だった。エンジン型式は同じ13型だが、のちにRX-7(FC/FD)に搭載された13B型とはまったく別物だったのだ。ともに12A型をベースとして派生したエンジンなのだが、その進化のアプローチが異なっている。13B型はローター幅を増すことにより排気量をアップさせたのに対して、13A型はローターサイズを大きくすることで排気量アップを図っている。
これは、ルーチェクーペの駆動方式がFFだったことにも起因している。FFの場合、エンジンはもちろんトランスミッションやデフをエンジンルームに詰め込む必要があるため、エンジンの大型化に制約があったのだ。そのため、ローターの直径を大型化し、ハウジングの厚さを薄くすることで、大型化することなくハイパワー化を図ることができたわけだ。その結果、低回転から余裕のあるトルクを発生するこができ、当時のフラッグシップにふさわしい乗り味となっていた。
専用開発ゆえの生産コストの上昇と整備性の悪さが相まって総生産台数は1000台に届くことはなかった
しかし、ほかの車種との互換性を持たない専用設計ゆえのコスト高やエンジンルームに詰め込まれたパワーユニットの整備性の悪さが仇となり、結果としてクラウンをも上回る高い販売価格も相まって、3年の短命で総生産台数976台に終わってしまったのだ。
理想のFF駆動を実現するためだけに、たった1車種専用エンジン(13A型)をゼロから設計・新造してしまうという、今では考えられない”マツダの狂気“ともいえる技術的執念と巨匠ジウジアーロが描いた、半世紀を経ても色褪せない、日本車離れしたエレガントなフォルムが融合した奇跡。そして総生産台数の少なさもあいまって、この車を「幻の名車」と呼ぶにふさわしい最大の理由である。
フロント先端が前方に突き出した「逆スラント」形状を採用し、鋭く精悍な顔つきを演出。ジウジアーロが原案を手掛けた日本車離れしたエレガントで流麗なプロポーションが最大の特徴。
主要データ(スーパーデラックス・1970年式)
●全長×全幅×全高:4585㎜×1635㎜×1385㎜●ホイールベース:2580㎜●車両重量:1255㎏●エンジン(13A型):水冷2ローター655cc×2●最高出力:126PS/6000rpm●最大トルク:17.5㎏-m/3500rpm●最高速度:190㎞/h ●トランスミッション:4速MT●10モード燃費:6.9㎞/L●タイヤサイズ:165HR15●最小回転半径:5.3m●乗車定員:5名 ◎新車当時価格:175万円
メーターは少し低めの位置に水平に並ぶ。右が200㎞/hスケールのスピードメーター、中央がタコメーター、左が時計。
ロータリーエンジンを縦置きして前輪を駆動するFF車だった。この13A型ロータリーは、共に12A型をベースとするが、のちにFC型 サバンナRX-7などに搭載された13B型とは異なるアプローチで進化を遂げたFF専用ロータリーだった。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(旧車FAN)
徹底した顧客目線から生まれた、大人のためのパーソナルクーペ ホンダという自動車メーカーに対し、F1をはじめとするモータースポーツの輝かしい戦歴や、高性能なスポーツカーを連想する方は多いでしょう。創業者[…]
1st MR2 (AW11) 2nd MR2 (SW20) 3rd MR-S(ZZW30) 日本初の商品企画の源は挑戦者であり続ける姿勢 最近のトヨタに若々しいイメージを持つ人は少ないかもしれない。豊[…]
ローレルセダン1800GL(1970年) エンジンはプリンス製だが、他はすべて日産が開発。当時の先進技術を結集 1966年に出た日産サニーとトヨタカローラを起爆剤にして、マイカーはサラリーマン層にも急[…]
“セマフォー” ウインカーがなかった時代の腕木式方向指示器 交差点で曲がるときや、車線変更のとき、他車に曲がる方向を伝えるためのウィンカー。ウィンカーを出さないクルマに遭遇するとイラッとしたりヒヤッと[…]
1位 「“パクリ”の声もあった」特徴的なテールランプがスゴい!53年前のトヨタ「セリカ リフトバック」はなぜ今も人気? この記事で分かること 1973年に登場したトヨタ「セリカ リフトバック」の歴史や[…]
人気記事ランキング(全体)
手のひらサイズのコンパクト設計。配線不要でポン付け完了 どうしても必要というわけではないが、なぜか惹かれるガジェットがある。今回紹介するコンパクトな後付けディスプレイもそのひとつだ。 現在のクルマには[…]
ミラー上部のデッドスペースにピッタリ! 悪路走破時の頼もしいギア CX504Kは、ジムニー(JB64)およびジムニーシエラ(JB74)のメーターフード上部やダッシュボード形状に合わせて設計された専用デ[…]
値引き情報の見方 ◎車両本体目標車両本体価格からここまで取れれば成功という額。付属品からの値引きは含まない。 ◎リセール予想次に買い替えるときの下取り査定額。2~3年後の評価をA~Eの5段階で評価、更[…]
一般乗用車と同じ車幅で取り回しに優れたベース車両 キャンピングカーとしての優れた居住性と、日本の道路事情における扱いやすさを両立させるために、ベース車両選びは極めて重要である。高い利便性と優れた機動性[…]
KGモーターズ「mibot」はどんなクルマ? mibotは、1人乗りの超小型EVとして開発されたモビリティです。 最大の特徴は、なんといっても「1人乗り」に割り切っていること。一般的な乗用車のように家[…]
最新の投稿記事(全体)
専用ブラックパーツをプラスした外観デザイン 特別仕様車「ローンチエディション」は、通常モデルには設定のない「AMGラインプラス」と「ナイトパッケージ」を標準採用。AMGラインプラスに含まれるブラックの[…]
専用装備と特別インテリアで仕立てられたコスパの良さも魅力 新型CLAシューティングブレークは、CLAならではの流麗なスタイリングを受け継ぎつつ、伸びやかなルーフラインとテールゲートによる高い実用性を兼[…]
操縦安定性と上級セダンにふさわしい上質な乗り心地を追求 1989年のブランド創設以来、レクサスの礎を築いてきたフラッグシップモデル「LS」。 今回の改良では、歴代モデルが貫いてきたイノベーションの精神[…]
値引き情報の見方 ◎車両本体目標車両本体価格からここまで取れれば成功という額。付属品からの値引きは含まない。 ◎リセール予想次に買い替えるときの下取り査定額。2~3年後の評価をA~Eの5段階で評価、更[…]
値引き情報の見方 ◎車両本体目標 車両本体からの値引き目標額を示している。実際の値引き額は、販売店や購入時期、グレード、オプションなどによって変動する。 ◎リセール予想 購入したクルマを将来売却すると[…]
- 1
- 2





















