
マツダは世界で初めて量産車に“ロータリーエンジン(以下RE)”を搭載して発売しました。それが「コスモ・スポーツ」です。REは従来のレシプロエンジンに比べ、圧倒的なパワーとふけ上がりのスムーズさ、軽量コンパクトと多くの優位点を持ち、“夢のエンジン”とも呼ばれました。マツダは実用化が難しいとされていたREを情熱でカタチにして、実用に耐えるエンジンとしてリリースしました。ここではその「コスモ・スポーツ」の後継となる「コスモAP」について、すこし掘り下げていきたいと思います。
●文:往機人(月刊自家用車編集部)
コスモスポーツ
REエンジン搭載した国内初の量産車、コスモスポーツ。その後、REエンジンは、ファミリア、ルーチェと搭載モデルを追加していったが、環境問題と中東戦争の影響で窮地に追いやられていく。
コスモAP
コスモの名前を引き継いだ2代目コスモAP。環境問題で窮地に追い込まれたRE搭載車を救った、マツダ開発陣の執念の結晶とも言えるクルマであった。
厳しい排出ガス規制をクリアした証を車名に掲げる自信
「コスモAP」が登場したのは1975年のことです。
1967年に登場した「コスモ・スポーツ」の市場の評判は上々で、その後にファミリア、ルーチェなどRE搭載ラインナップを追加していき、マツダ(当時は「東洋工業」)は大躍進を遂げました。しかし、その後に訪れる環境汚染の悪化と、中東戦争の影響で原油の供給が滞ってしまったために、世界中の自動車業界がその対応に追われることになります。
マツダはREに社運を賭けていましたが、REの弱点である燃費の悪さと未燃焼ガスの多さが環境問題への対応を困難にさせ、好調から一転して窮地に追い込まれ、REの象徴だった「コスモ・スポーツ」の製造は中止に追い込まれました。周囲からはRE自体の存続も危ぶまれましたが、3年の期間を経て、環境時代を生きるRE搭載車を新たに誕生させました。それが「コスモAP」です。
REの優れた点は、なんと言ってもその高い性能でしょう。最初期の「10A型」で、レシプロ換算約2倍という圧倒的な出力と、7000rpmまでスムーズに拭け上がるフィーリングは「夢のエンジン」と呼ぶにふさわしいパフォーマンスでした。
しかしその一方で、その独特な燃焼プロセスと構造による燃費の悪さと未燃焼ガス排出の欠点も抱えていました。先述の環境汚染の悪化と、中東戦争の影響が、REの欠点を直撃したのです。この深刻な問題を前に、マツダの技術者や経営者は頭を抱えたことでしょう。
しかし、世界で初めて実現困難とされたREをモノにして見せたマツダに根付く、執念と言っていいほどの想い入れは、REの火を絶やさずに持ちこたえさせました。
ローターに装着されるシール類などの構造を徹底的に見直すとともに、2次エアの導入による希薄燃焼化や、“サーマルリアクター” と呼ばれる排気ガス再燃焼装置を開発するなど、あらゆる方向から改良を重ねました。その結果、他メーカーもその攻略に苦戦するほど厳しい基準の「昭和51年排出ガス規制」を見事に解決して見せました。その排出ガス対応技術は「REAPS(RE ANTIPOLLUTION SYSTEM=ロータリーエンジン低公害システム)」と呼ばれ、対策済みの「12A型」と新開発の「13B型」は「コスモAP」に搭載されました。
「コスモAP」の“AP”はANTIPOLLUTION=低公害の意味で、その2文字からはエンジニアの苦労とそれを成し遂げた誇りが感じられます。
全体的に低く構え、横幅を強調したスタンスと、長く伸びたノーズが特徴的なスタイリング。空力デザインを追求し、特に2ドアハードトップモデルでは、空気抵抗係数(Cd値)0.32という当時世界トップクラスの空力性能を誇った。
2ドアクーペのセンターピラー部分に小さなサイドウィンドウ(オペラウィンドウ)を設定。コスモAPの特徴的なひとつで、この独特なデザインは、当時のアメリカ車にみられた豪華なスペシャリティカーのトレンドを反映していた。
初期モデルは、直線基調のインストゥルメントパネルを採用し、メーター類が非常に機能的に配置された。左右非対称のデザインを採用し、ドライバー側に傾斜を付けることで操作性と視認性を向上させている。
コスモAPの「AP」は「アンチ・ポリューション(公害対策)」を意味し、当時の昭和50年(1975年)排出ガス規制や51年規制に適合したロータリーエンジン(12A)が搭載された。その後、13Bロータリー搭載モデルも追加されている。
SPEC
●全長×全幅×全高:4545×1685×1325mm●ホイールベース:2515mm●車両重量:1220kg●エンジン:13B型水冷2ローター654㏄ ×2●最高出力:135PS/ 6500rpm ●最大トルク:19.0kg・m/4000rpm(1975年式リミテッド)
高級スペシャリティクーペとして生まれ変わった新生「コスモ」
マツダの「コスモ」は、初代「コスモ・スポーツ」のDNAを引き継ぐクーペスタイルのシリーズです。初代は車の未来を感じさせるデザインのスーパースポーツでしたが、2代目の「コスモAP」は、環境問題と日本の経済力の高まりを反映した高級スペシャリティクーペとして生まれ変わりました。
苦心して復活させたREは、他メーカーがパワーダウンを余儀なくされるのを尻目に、1146ccの「12A型」で125ps、1308ccの「13B型」では135psのパワーを発揮して大きな差を見せつけました。しかも、燃費は対策前との比較で40%も向上させています。
そしてその印象的な外観も注目です。高級車らしい大きなグリルに金属感を高めるライトベゼルが付いた丸目4灯ヘッドライトの構成は精悍で堂々としたたたずまいを見せ、ボディサイドの面はゆったりと大きく滑らかな面で優雅さを感じさせます。また、サイドウインドウの中央部に、セダンで言う“クオーターウインドウ”のような処理を導入。ボディサイドの面の流れにアクセントを加え、これも「コスモAP」のアイコンになっています。
ちなみにこの2代目「コスモ」にはREだけでなく、直列4気筒レシプロエンジン搭載モデルもラインナップされました。「コスモL」と名付けられたこのモデルは、北米市場からの求めに応じて追加されたもので、レシプロエンジンの搭載に加えて、ルーフからトランクにかけての構成を変更しているのが特徴です。
「コスモAP」はルーフからテールに向けてなだらかに降りていくファストバックスタイルですが、「コスモL」はトランク部が区別されたノッチバックスタイルとなります。さらにルーフ後部がレザー風の表皮に覆われた“ランドウトップ”というアメリカの高級車によく見られるスタイルで仕上げられていて、これが車名の「L」の由来となっています。
これらの構成がニーズにマッチして、この2代目「コスモ」シリーズは、国内の登録台数だけでも14万台を超えるヒットを記録しました。いまはそれほど大きな存在として話に上がることが少なくなってしまいましたが、マツダのREの歴史を語るにはけっして欠かすことのできない存在だと言えるでしょう。
現在は残存台数が少ないのか、旧車のイベントでも見掛ける機会は少なくなっています。もし街中で見掛けたら、かなりラッキーだと思います。
「コスモL」のLは、最大の目玉であったランドウトップ(Landau Top)の頭文字に由来する。ランドウトップとは、屋根の後部をレザーやビニールで覆い、クラシックな高級馬車(ランドーレット)のようなスタイルを再現したもの。
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