
半世紀以上の時を超えて伝説の「TE27レビン」が現代の技術で蘇ったと言っていいだろう。GRヤリスの心臓部を移植し、サーキット仕様へと過激な変貌を遂げたGRカローラ。最新の後期型ではボディ剛性や吸気系がさらに磨かれ、極限の走りと大人4人が寛げる実用性を高次元で両立している。待望の通常販売も開始され、現在最も手に入れる価値のある「内燃機関スポーツの至宝」の真価を、その進化の軌跡を踏まえた試乗リポートでお届けしよう。
●文:月刊自家用車編集部(川島茂夫) ●写真:澤田和久
内燃機モデルもまだまだ進化する!
1972年、セリカ用に開発された1.6L DOHCエンジンを、ひと回り小型軽量なカローラクーペに搭載して誕生したTE27型レビン 。モータースポーツで勝つことを宿命づけられたその立ち位置は、今風に言えば「R」の系譜そのものであった。それから50年の時を経た2022年、12代目カローラの5ドアハッチバックをベースに、別車種と言えるほどの過激な設計変更を加えて登場したのが「GRカローラ」である。その姿は、往年のカーマニアの眼にはレビンの再来と映っても不思議ではなかった。
メカニズムの核心部は、WRC(世界ラリー選手権)を頂点としたラリーシーンで勝つために開発されたGRヤリスのパワートレーンや足回りにある。これらを同等の設計思想で各部を徹底的に強化したカローラに導入。ハードウエア的には兄弟と呼べる存在になっている。一方で、GRヤリスよりもひと回り大きい車体寸法を活かし、適性としてはより本格的なサーキット競技や走行会へとシフトしているのが特徴である。
登場以来、着実な進化を遂げてきたGRカローラだが、昨年9月にリリースされた2025年式「後期型」が最新の姿となる。このマイナーチェンジ(MC)では、構造用接着剤の塗布域を拡大することで車体骨格をさらに強化し、吸気系にはクールエアをより効率的に取り込む改良が施された。ニュルブルクリンクでの限界走行において、そのポテンシャルを十二分に発揮させるためのアップデートであり、ハードコアスポーツとしては極めて真っ当な進化と言えるだろう。
しかし、単に速さや剛性のみを追求して終わらないのが、このクルマの奥深い点である。例えば、車内環境へのこだわりが挙げられる。JBLプレミアムサウンドシステムには新たにサブウーファーを追加した9スピーカーシステムを採用。このサブウーファーをアクティブノイズコントロールに活用することで、後席乗員の静粛性を大幅に向上させている。さらに、スピーカーからエンジン音を上乗せするアクティブサウンドコントロールを追加したことで、日常の一般走行においても限界域での走りを想起させるエモーショナルなサウンドを楽しめるようになった。
こうした車体周りの改良は、ドライビングの向上のみならず、意外なことに乗り心地にも恩恵をもたらしている。微小ストローク域での動きが滑らかになったことで、過激な性能の中に確かな「質」が練り込まれた印象だ。決して「快適性」を売りにするクルマではないものの、限界性能を追求したスポーツモデルとしては、同乗者へのストレスが極めて少ない部類に入る。基本パッケージはカローラスポーツを継承しているため、後席の居住性や荷室容量もしっかり確保されており、大人4人での長距離ドライブにも十分対応できる実用性を備えている。
ドライバーの視点に立てば、その懐の深さはさらに際立つ 。サーキットでのタイムアタックから、山道でのリズミカルなクルージング、さらにはハイアベレージを維持した長距離移動まで、あらゆる状況が見事にまとめ上げられている。神経を研ぎ澄まさなければ扱えないような気難しさや、限界域以外でのバランスの悪さは微塵も感じられない。軽負荷域から限界域まで、ドライバーとの濃密な対話を重視した特性こそがGRカローラの真骨頂であり、今回のMCはその美点をさらに磨き上げた形だ。
また、多様な楽しみを広げる試みとして「パフォーマンス・ソフトウェアシリーズ」の展開も見逃せない。これはストリート、サーキット、コンペティションの3タイプからなるソフトウェアアップデートであり、従来型から採用されているサーキットモードをさらに拡張したものだ。アイドルアップやターボのアンチラグ、四輪駆動力配分、4WDカップリングのプレトルクなど、パワートレーンから駆動系に至るまで最大12項目を細かく制御できる。特に「コンペティション」では、駆動力配分を1%単位、プレトルクを1Nm刻みで設定可能という、競技レベルのこだわりが反映されている。
販売面においても大きな変化があった 。これまでの申し込み抽選式から、2025年式後期型より通常販売方式へと改められたのである。試乗したRZのスポーツパッケージ仕様や、素のRZ(AT仕様)でも価格は約600万円と、マニアでなければちょっと手が出しにくい価格帯かも知れないが、販売方法の変化によって入手への心理的ハードルは多少なりとも下がったと言えるだろう。
冷却性能を追求した機能的な外観は、時に物々しく映るかもしれない。しかし、その実態は見た目以上に紳士的であり、道を選ばず着実に育ってきた完成度の高さが光る。急速に進む電動化の潮流の中で、内燃機関を積んだハードコアスポーツを求める者にとって、GRカローラはこれ以上ないほど現実的で魅力的な選択肢であるはずだ。
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