
世界の自動車市場で主役となっているSUVには、ピックアップトラック由来と軍用車由来の2つのルーツがある。日本を代表するオフローダーであるトヨタ・ランドクルーザーも、かつて軍用車両の入札に敗れた歴史を持ちながら、独自に世界的な評価を獲得してきた。
そんなトヨタが、軍用車開発のリベンジとして生み出した究極の四輪駆動車が「メガクルーザー」だ。自衛隊の「高機動車」をベースに民生用として市販されたこの車は、販売台数わずか130台余りという超レア車。流行のファッションSUVとは一線を画す圧倒的な悪路走破性と、安易には乗りこなせない規格外のスペックをもつ“ホンモノ”だった。
●文:横田晃(月刊自家用車編集部)
軍用車をベースに民生用に開発されたメガクルーザーは、悪路走破性に加え、さらに快適に走るため、最新の技術がびっしり詰められたオフロードのスーパーカーだった。
SUVのルーツには、ピックアップトラックから発展したタイプと、軍用4WD車から民生用へと進化したタイプがある。
セダンに代わって世界の自動車市場の主役の座を獲得しつつあるSUVのルーツには、ピックアップトラックのベッド(荷台)に樹脂製のキャビンを載せた、コンバージョンと呼ばれる改造車から発展したタイプと、軍用4WD車から民生用へと進化したタイプがある。前者の代表はバブル時代に日本でも一世を風靡したハイラックスサーフ、後者は第二次大戦中に米軍の制式車両となり、20世紀のアメリカ最大の発明品ともいわれたジープだ。
ちなみにオリジナルジープの米軍での分類は、汎用1/4トントラック。その流れから今日の米国でも、SUVは基本的にライトトラックとして販売台数などがカウントされている。
第二次大戦中に米軍の制式車両となり、20世紀のアメリカ最大の発明品ともいわれたジープ。三菱は、このジープをノックダウン生産していたため、当時発足した自衛隊の前身である警察予備隊の制式車両生産を勝ち取ることができた。
世界を代表するランドクルーザーも実は軍用車出身だった
現在、世界でトップクラスの人気と実力を誇るオフロードカーのトヨタランドクルーザーには、そのそれぞれの出自を持つシリーズがある。ハイラックスサーフの流れを汲むプラド(現250)系はピックアップトラック出身。オフロードの高級車として君臨する300系や、逆にシンプルな作りながら、どんなに過酷な道のりでも必ず生きて帰ってこられるクルマとして世界で支持されている70系は軍用車出身だ。
もっとも、ランドクルーザーは海外も含めて正規の軍用車として使われたことはない。1952年に今日の自衛隊の前身となる警察予備隊(のちに保安隊)が発足するにあたり、制式車両候補としてトヨタと日産、そしてジープをノックダウン生産していた三菱が4WDの1/4トントラックを競作したものの、米軍の主力車両であるウィリスジープとの互換性の高い三菱が勝利し、トヨタはせっかく開発した軍用4WD車の販売先を失ってしまったのだ。
初代クラウンの失敗をよそに、トヨタの海外戦略の大きな足掛かりになったランドクルーザー
そこでトヨタは警察や消防、郵便局や電力会社といった、過酷な現場を持つ公共機関や企業にトヨタジープとしてそれを売り込み、高い評価を得る。日本車として初めて太平洋を渡った初代クラウンが低性能と酷評されてしまった北米市場でも、ランドクルーザーの名で売られたそれは性能も信頼性も高く評価されて、トヨタの海外戦略の大きな足掛かりになったのだから、結果オーライだったと言えるだろう。
トヨタの軍用4WD車開発史における、リベンジマッチとなったメガクルーザー
それから40年あまり後、1996年に登場したメガクルーザーは、トヨタの軍用4WD車開発史における、リベンジマッチとも言える作品だった。このクルマは自衛隊では高機動車と呼ばれる、10名の兵員輸送や火砲の牽引、対空ミサイルやレーダーの搭載など、多目的に使われる軍用4WD車として開発されたクルマを、6人乗りの民生向け仕様としたモデル。軍用車としては今なお自衛隊への納入が続く一方、民間にはわずか130台あまりしか販売されていない、超レア車なのだ。
ボディはフルメタル仕様となっていて、完全なクローズドとなっている。民生用とはいえ、その迫力あるスタイルは、高機動車からの派生モデルであることを窺い知ることができる。
高機動車の後部は、オープンボディで汎用性の高い仕様となっていて、普段は幌が装着されている。軍用車らしく贅肉をそぎ落とした筋肉質なイメージだ。
米軍軍用車ハンヴィーを手本とした自衛隊の高機動車→メガクルーザー
初代ランドクルーザーがジープを手本としたように、メガクルーザーこと高機動車にも米軍の手本がある。オリジナルジープの製造を手掛けていたウィリス社の流れを汲むAMゼネラル社が1985年から製造していた、軍用車のハンヴィー(High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle)だ。
もともとハンヴィーは純軍用車だったが、俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーの要望から1992年に民生仕様のハマーH1が生まれた。その後、AMゼネラルを傘下に入れたGMが、シボレーのSUVベースのハマーH2(2002年)と、より小型のH3(2006年)へと発展させて2010年まで販売し、日本でも個性派の高級SUVとして一定の人気を得た。
ただし、メガクルーザーは軟派な商品企画のハマー(H2、H3)とは、一線を画すホンモノだ。オープンボディに幌屋根の高機動車と比べれば、フルメタルキャビンのメガクルーザーは多少快適だし、クーラー(エアコンではない)やオーディオも標準装備されていた。主に自治体などの災害対策部門に購入されたこのクルマの主舞台は、あくまでも非常時だ。
シンプルな直線で構成された運転席回り。ドライバーを囲い込むように大型のセンターコンソールが採用されていた。
不整地走行でもしっかりと身体をh-ルドしてくれるセミバケットタイプを採用。
15B-FT型4.1L直噴ディーゼルは、インタークラー付空冷ターボチャージャーを搭載することで、最高出力155ps/最大トルク39.0kg-mを発揮した。
オフロード走破性能の高さは、まさに軍用車そのものだった
全長5mを超える巨体ながら、逆位相のみのリヤステア機構を備えて、最小回転半径はコンパクトカーのヴィッツ並みの5.6mと優秀。駆動軸が直接車輪を回すのではなく、重機のように最後にもう一段減速するハブリダクションドライブを採用することで、最低地上高は420㎜もあり、ひとかかえもある落石や地割れで段差のできた路面も、容易に乗り越えて走り続けることができる。
その究極の走破性は、まさに軍用車そのもの。ちなみにメガクルーザーは1ナンバーのトラック登録で、3トンに迫る車両重量と合わせて、準中型免許以上がなければ運転できない。車幅も2170㎜と、中型トラック並みだ。搭載される4.1Lのディーゼルエンジンも、トヨタの3トンクラスのトラック、ダイナなどと同じ。トランスミッションがひと世代前の4速ATなのも、経済性より高い信頼性を重視した結果だ。
中古車サイトで検索すると、メガクルーザーは新車当時の980万円を上回る、1500~3000万円近い値がつけられている。けれどハマーH2などと同様のファッション感覚で安易に自家用車にするのは、お勧めしかねる一台ではある。
メンテナンス性の向上を図るため、後ろ開き構造のボンネットフードを採用。
サスペンションは4輪ダブルウイッシュボーン式独立懸架。不整地や悪路での走破性・踏破性を考慮して、最低地上高をより大きく取れるようにフロント・リアともにハブリダクション機構付きアクスルを採用。
スペアタイヤはテールゲートに搭載される背面タイヤとして装着された。しかし、37インチという大径タイヤは非常に重いため、チェーンで巻き上げる昇降装置がついていた。
メガクルーザーのボディ色はホワイトとダークブルーの2カラーが用意されていた。
メガクルーザー主要諸元(1996年)
| 全長×全幅×全高 | 5090×2170×2075(㎜) |
| ホイールベース | 3395(㎜) |
| トレッド 前/後 | 1795/1775(㎜) |
| 最低地上高 | 420(㎜) |
| 車両重量 | 2850kg |
| 最小回転半径 | 5.6m |
| エンジン型式・酒類 | 15B-FT型インタークーラー付ディーゼルターボ |
| 総排気量 | 4104cc |
| 最高出力(グロス) | 155ps/3200rpm |
| 最大トルク | 39.0kg-m/1800rpm |
| 燃料タンク容量 | 108L |
| トランスミッション | 電子制御式4速AT |
| サスペンション前後 | ダブルウィッシュボーン式独立懸架 |
| ブレーキ前後 | インボード式ベンチレーテッドディスク |
| 駆動方式 | フルタイム4WD |
| タイヤ | 37×12.50R17.5-8PRLT |
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