
1980年代、日本の自動車メーカーが新たな商品企画を模索する中、ホンダが放った個性派コンパクトスポーツ「CR-X」。軽量ボディと機敏なハンドリングを武器に、当時のFR至上主義に正面から挑み、若者たちから高い支持を得る。しかし、バブル景気によるスポーツカー市場の変化に伴い、3代目はオープンエアを楽しむ「デルソル」へと大きく路線を変更。その後も時代の波に翻弄されながら、環境時代に対応したハイブリッドスポーツ「CR-Z」へと挑戦は受け継がれていく。独自の個性で勝負し続けたホンダ・ライトウェイトスポーツカーの系譜と変遷の歴史を振り返る。
●文:横田晃(月刊自家用車編集部)
1st バラードスポーツCR-X(1983-1987)
ジルバを踊るように走れたFFハンドリングスポーツ
全長3675㎜ 、全幅1625 ㎜ 、全高1290㎜ のコンパクトなサイズに、樹脂製フェンダーなどによって、最低で760㎏ という軽量を実現。2200㎜ のショートホイールベースと相まって、キビキビとした旋回性能を実現していた。メカニズム的にはシビックのクーペに当たるが、当時ホンダが展開していたベルノ店の専売車種としてバラードの名を冠した。
2nd CR-X(1987-1992)
キープコンセプトの正常進化で 先代と同様にシビックがベース。敏捷なフットワークに磨きをかける
2代目CR-Xはボディサイズこそわずかに拡大されたものの、デザインも含めてキープコンセプトの見本のような正常進化を遂げた。ホイールベースも2300㎜と軽自動車並みで、車重も全車1tを切る。4輪独立の足回りもエンジンも磨きがかけられ、これぞFFスポーツというハンドリングで、ホンダここにありをアピールした。
3rdCR-Xデルソル (1992-1999)
凝ったオープントップで新しいスポーツカー像を模索
3代目は、ガラリとコンセプトチェンジ。まるでミッドシップ車を思わせるフォルムとなった。全長は一気に200㎜も伸び、ホイールベースも延長されて、機敏なコーナリングマシンの性格は捨てている。代わりに目指したのが、ふたりで快適なオープンドライブが楽しめるデートカーという個性だ。
4th CR-Z (2010-2017)
ファンな走りと環境性能を兼ね備えたハイブリッドスポーツへ
CR-Zは2代目インサイト、シビックハイブリッドに続くホンダグリーンマシーン3号として登場した。インサイトは1.3ℓエンジン+モーターだったが、CR-Zは1.5ℓエンジンとモーターで力強さを確保。後期にはエンジンもモーターもさらにパワーアップ。バッテリーも当初のニッケル水素からリチウムイオンに換装されるなど、進化が続いた。
多彩な個性で勝負した1980年代の国産スポーツ車
1980年代の日本車は、技術的にはようやく世界に追いつき、とくにエンジン技術は1970年代に厳しい排ガス規制をいち早くクリアした研究成果で、トップクラスの高性能に到達しようとしていた。
信頼性や経済性も世界に認められ、ボディを構成する鋼板やタイヤなどの素材技術も1970年代に長足の進歩を遂げた。おかげで主な輸出先となった米国では貿易摩擦を生むのだが、それさえも現地生産を進めるきっかけとなり、どこで作っても同じクオリティを実現できる、世界に冠たる日本式生産技術を飛躍させる好機となった。
ただし、そうした個々の技術を組み合わせて、どんな乗り味や個性を表現するかという商品企画のノウハウは、まだ模索が続いていた。とくにスポーツカーの企画は、これぞジャパニーズスポーツカーという決定打を欠いていた。
フェアレディZやスープラ(日本名セリカXX)などの上級スポーツカーはすでに北米市場でも好評を得ていたが、2シーターピュアスポーツカーのフェアレディZも、4シーターグランツーリスモのスープラも、彼の地に既にお手本が存在した商品企画だ。
一方でライト級スポーツカーは、元祖である英国車などの欧州勢に往年の勢いはなく、日本メーカーにとってはベンチマークする目標がない状態。しかし、逆にまっさらな手探りだからこそ、多彩な企画が生まれることもできた。
1978年に出た東洋工業(現・マツダ)のロータリースポーツカー、サバンナRX-7も、トヨタが1984年に送り出した日本初のミッドシップスポーツカー、MR2も、日本車らしい個性派。そしてホンダが1983年に発売したCR-Xも、やはり個性的な企画だった。
コンパクトクラスのスポーツカーは、北米ではセクレタリーカーとも呼ばれ、働く女性の足としても人気があった。彼の地ではすでにシビックやアコードが高い評価を得ていたホンダが、メカニズム的にはシビックのクーペに当たるCR-Xで狙った市場もそこだ。
一方、日本国内ではマイカー時代がすっかり定着し、若者が通勤やデートに使う自分専用車のニーズが顕在化していた。すでにカローラやサニーのクーペが担うその市場で後発のホンダが勝負するためには、独自の個性が必要だ。
そうして、1983年に発売された初代CR-Xには前席重視のフレッシュなデザインと、フェンダーなどに樹脂を使い、軽量コンパクトで意のままに操れる、恐ろしく機敏なハンドリングが与えられたのだ。唯一無二のその個性は、国内外の市場で好評を得た。
【初代】バラードスポーツCR-X
1984年にシビックとともに加わったSiは、1970年に生産を終了したS800以来、14年ぶりとなるDOHC車。135PSの1.6Lエンジンはホンダらしくよく回り、ファンを喜ばせた。。
オモチャ的な寸詰まりのプロポーションだが、塊感のある、新鮮な躍動感が表現されていた。フェンダーやドア下部ガーニッシュなどは新開発の樹脂製部品。
低く抑えたインパネは、この時代からのホンダの伝統。メーターは通常のアナログのほかに当時流行していたデジタル式も用意。
スポーツ走行はFR車の定評に挑んだ敏捷な走り
意のままに操れる機敏なハンドリングが、スポーツカーの武器になることは誰にでも分かる。ただし、ホンダにはそのハンドリングで苦い経験があった。1967年に発売して大ヒットし、4輪メーカーとしてのホンダの足場を固めた軽乗用車、N360が、限界領域での制御の難しさから事故が多発し、欠陥車疑惑をかけられたのだ。
前輪駆動車の操縦特性の解析もまだ十分になされていなかった当時、2輪車譲りの高性能エンジンを積んだFFのN360の走りには、確かにじゃじゃ馬な面もあった。捲土重来を期したホンダは以後、操縦安定性の研究に力を入れ、CR-Xでその成果を見せた。
全長3.7m足らず、ホイールベースわずか2200㎜ のCR-Xは、相対的に他に類を見ないワイドトレッドを持ち、低い重心や車高、ロールを抑えた旋回姿勢と相まって、まさにミズスマシのような超クイックなハンドリングを、FRより容易に楽しめたのだ。
1970年代までの日本車の足回りは、スポーツカーであっても古いリジッド式のリヤサスペンションが珍しくなかった。タイヤもようやくラジアルが普及したばかり。限界性能は低く、レースでも、滑り出してからのコントロールの幅が広いFR車の豪快な走りが見せ場だ。
ドリキンこと土屋圭市氏がツーリングカーレースでAE86型トレノを駆って横っ走りを決め、喝采を浴びたのもだからこそ。メディアでも、スポーツ走行ならFRで決まりといった論調が主流だった。
そんな風潮に対して、CR-Xは正面から異議を唱えた。初代は1.5Lでも十分にスポーツ走行が楽しめたが、1984年にS800以来となるDOHCの1.6Lを積むSiが登場。アフターマーケットにも普及しつつあったポテンザやアドバンなどのスポーツタイヤの性能と相まって、FRとはまた違う、俊敏な走りを見せる。
さらに1987年に登場した2代目は4輪独立サスを装備。1989年に加わった160PSを誇るホンダ独自のVTECを備えたDOHCエンジンとの組み合わせで、峠やサーキットで上級スポーツカーをも追い回す走りを披露したのだ。
ところが、日本中を狂わせたバブル景気の波が、CR-Xの立ち位置をぐらつかせる。ホンダ自身が発売したNSXや日産のスカイラインGT-Rが上級スポーツカーの頂点に君臨する一方で、軽自動車にもビートやカプチーノなどの個性派スポーツカーが登場した。
さらに、高性能を武器としないユーノスロードスターが世界的な人気を呼ぶと、CR-Xの個性はいつしか霞んでしまったのだ。
2代目 CR-X
先代のイメージを受け継ぎながらも、フォルムはより流麗になり、フラッシュサーフェス化も進められて空力性能が高まっている。
1980年代半ばの、日本メーカーの技術力と資金力がもっとも高まりつつあった時期の開発だけに、伸びやかで大胆な造形は今も古びない。
インパネのデザインもキープコンセプト。低いダッシュボードで広い視界を確保。初代にはなかったセンターコンソールも装備されて、ドライバーを包み込むようなコックピット感覚を強めた。
DOHCエンジンは当初は先代と同じZC型だが、1989年に可変バルブタイミング・リフト機構のVTECを備えるB16A型も搭載。160PSの高性能を発揮した。図は先に搭載されたインテグ
オープンエアの楽しさを付加価値に加えて大変身
高性能はNSXに、機敏なフットワークはビートにお株を奪われたCR-Xの3代目が、それまでとは違う楽しさにスポーツカーの価値を求めたのは、ホンダの商品戦略の上では当然のことだった。
セカンドカーが珍しくない、豊かな時代のスポーツカーらしく、2人乗りと割り切る一方で、スイッチひとつでメタルルーフがリヤに凝ったアクションで格納される電動トランストップを装備した。
170PSまでチューンされたDOHCエンジンを積むものの、走りの方向性は2代目までのゴーカート的な超クイックな味付けではなく、気持ちよくオープンエアドライビングが楽しめるデートカーというキャラクターだった。
1992年にNSXにタイプRが誕生して話題を呼び、1995年のインテグラ、1997年のシビックにも設定されてストイックな走りを望む層を満足させたことも、CR-Xのホンダにおける立ち位置を変えさせていた。戦闘モードを感じさせないデルソル=太陽というサブネームも、それを告げていたのだ。
しかし、残念ながら3代目CR-Xデルソルは、ライバルとなるロードスターのような支持は得られなかった。そうしてCR-Xの名は、1999年に消えてしまうのだ。
3代目 CR-Xデルソル
狭いながらも後席を備えたパッケージから、潔く2人乗りに変身。ルーフを閉じれば広いトランクも得られる。
伸びやかで流麗なシルエットは、ストイックな走りのスポーツカーだった先代とは全く違う、オシャレなデートカーを表現していた。
インパネも外観と同様にやや丸みを帯びた優しいデザイン。硬派な走りのクルマのエッセンスは、あえて排したような造形だ。
この時代に日本車がもっとも進化した部分のひとつがシート。快適性もホールド性も、1980年代前半とは別物の完成度に到達していた。
環境時代にも対応した新しいスポーツカー像
バブル崩壊後の、いわゆる失われた20年で、日本のあらゆる市場環境は大きく変わった。自動車市場では、過剰な高性能指向が影を潜める一方で、安全性能や環境性能といった、インテリジェントな価値が評価されるようになる。
世界的にSUVがセダンやクーペに取って代わる人気を博し、日本国内ではそれに加えてミニバンがファミリーカーの主流を占めるようになったのも大きな変化だ。
スポーツカー市場は世界的に縮小傾向が続き、一部の超高級車以外は多くが淘汰されたものの、ライト級スポーツカー自体には底堅いニーズもある。そうした背景の中で、ホンダがCR-Zで再び挑んだのがハイブリッドスポーツカーという合わせ技の商品企画だ。
1.5LのエンジンはMT車でも120PSと決して高性能ではないが、モーターのアシストによってひとクラス上の力強さが得られるホンダ独自のIMAシステム。ハンドリングもCR-Xの時代よりずっと洗練され、機敏さと上質さを兼ね備えていた。
しかし、残念ながらCR-Zは一代限りで終わってしまった。スポーツカーが注目を集めなくなったとは思いたくはない。夢は、諦めたら終わりなのだから。
4代目 CR-Z
低いフロントノーズからテールエンドまで、なめらかに繋がる流線型のシルエット(ワンモーションフォルム)を採用し、空気抵抗の低減とスピード感を両立している。
全長は4mをわずかに超えるが、十分コンパクト。全幅は1.7mを超える3ナンバーサイズで、相対的にショートホイールベースで機敏に走った。
レイヤードデザインのインパネは、スポーツカーらしいタイト感と解放感を併せ持つ。視界も広く、MTやステアリングフィールも上々だった。メーターもスポーツモードでは赤く灯る演出。
エンジンをモーターがアシストするホンダのIMAシステムは、エンジン車と変わりないナチュラルなフィールが武器。ひと回り大きな排気量の走りを、ひとクラス下の燃費で楽しめるのがポイントだ。
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