新型ジムニーを見て「カッコイイ」と興味を持つ人も多いだろう。でもそんな生半可な気持ちで購入すると後悔するくらい、ジムニーは本格オフローダーなのだ。最新タウンカーに比べるとずいぶん乗り心地は悪いし、お世辞にも静かとは言えない。それでもジムニーはその圧倒的な悪路走破性と存在感で、世界中で愛され続ける。初代発売からもうすぐ半世紀。ジムニー誕生とその進化を辿る。
●文:月刊自家用車編集部 ●写真:スズキ株式会社
反対を押し切って始まったジムニー開発計画
オーストリアの軍用車ハフリンガーを研究するなど、新ジャンルの4×4軽自動車開発を模索していたスズキ。ホープスターONの製造権を買い取り、その開発は一気にスピードアップしていった。
クルマの開発には大金がかかる。たった一枚のドアを開発するだけで、そのコストは億単位になるという。いかに自動車メーカーが大企業でも、「売れなかったね」では済まされないのは当然だ。
そこで開発者たちは、入念な市場調査をもとに、想定購買層にぴたりと合わせたクルマを造る。結果、大外れもない代わりに、誰もがあっと驚くような斬新な企画は、通りにくいのも事実。「最近のクルマはつまらない」と吐き捨てるのは簡単だが、そこには深い大人の事情が横たわっているわけだ。
ところが、日本にモータリゼーションがようやく到来した1960年代後半には、そんな精度の高い市場調査はなく、小さなメーカーでは、鶴の一声で新型車の開発が決まった例もあった。おかげでまったく売れずに消えたモデルやメーカーがある一方で、世界を驚かせる企画も世に出ることができた。’70年に初代が登場し、先日20年ぶりに四代目がデビューした世界最小の本格クロスカントリー4WD車、ジムニーもそうした背景から生まれた一台だ。
ジムニーの原型は、’50年代に軽三輪トラックなどを開発販売していたホープ自動車が、’68年に発売したホープスターON360というクルマだった。ホープ自動車の創業者である小野定良は、自動車修理業からメーカーを志した、本田宗一郎にも通じる経歴の人物。ただし、エンジンの開発から始まったホンダに対して、ホープ自動車はフレームとボディこそ自社開発するものの、他の多くの部品は市販品を組み合わせるという、中小企業らしい手法をとった。
マツダやダイハツなどの大メーカーが同じ軽三輪という市場で本格的に攻勢をかけてくると、とても勝負にならず、’65年に一度は自動車メーカーとしての活動を終え、遊園地の乗り物などのメーカーへと転じる。しかし、諦めきれない小野は、大メーカーが手を出さない企画として軽自動車規格の4WD車を造り、捲土重来を期したのだ。
今回もエンジンやトランスミッションは三菱、ブレーキはダイハツなどの寄せ集め部品による構成だったが、その走破性は高く、プロモーション用に作られた8㎜フィルムには、富士山の八合目まで駆け登る様子が記録されていた。
しかし、小メーカーの悲しさ。ON360は、国内で15台程度、東南アジアでも30台ほどが売れたにすぎなかった。ついにギブアップした小野が、泣く泣く手放したその夢の製造権を買い、社内の反対の声を押し切って発売にこぎつけたのが、当時東京駐在常務だった鈴木修・現相談役だった。
■主要諸元 LJ10型(’70年式)
●全長×全幅×全高:2995mm×1295mm×1670mm ●ホイールベース:1930mm ●トレッド(前/後):1090mm/1100mm ●車両重量:600kg ●乗車定員:2(3)名 ●最大積載量:250kg ●エンジン(FB型):空冷直列2気筒2サイクル359cc ●最高出力:25PS/6000rpm ●最大トルク:3.4kg・m/5000rpm ●最小回転半径:4.4m ●トランスミッション:前進4段、後進1段 2段副変速機 ●タイヤ:6.00-16 4P ●価格(東京地区):48万2000円(1970年当時)
■主要諸元 LJ20型(’72年式)
●全長×全幅×全高:2995mm×1295mm×1670mm ●ホイールベース:1930mm ●トレッド(前/後):1090mm/1100mm ●車両重量:625kg ●乗車定員:2(3)名 ●最大積載量:250kg ●エンジン(L50型):水冷直列2気筒2サイクル359cc ●最高出力:28PS/5500rpm ●最大トルク:3.8kg・m/5000rpm ●最小回転半径:4.4m ●トランスミッション:前進4段、後進1段 2段副変速機 ○タイヤ:6.00-16 4PR ●価格(東京地区):48万9000円(1972年当時)
■初代ジムニーの歴史
1967年(昭和42年) ホープスターON360試作車完成。
1968年(昭和43年) ホープスターON360の製造権を取得。
1970年(昭和45年) 4月 初代ジムニー(LJ10-1型)発売。
1971年(昭和46年) 1月 マイナーチェンジ(LJ10-2型)。乗降口がカーテン幌式からスチール枠付き幌ドアに変更、エンジン改良など。
1972年(昭和47年) 5月 水冷エンジンを積む(LJ20-1型)に変更。バンタイプ追加。
1973年(昭和48年) 11月 マイナーチェンジ(LJ20-2型)。保安基準改正に伴い、ウインカーの2灯化など。
1975年(昭和50年) 2月 マイナーチェンジ。4人乗り追加。居住空間向上のためスペアタイヤを車外に移動。 12月 マイナーチェンジ。(LJ20-3型)50年排ガス規制に適合。最高出力が28PSから26PSにダウン。
1976年(昭和51年) 5月 軽自動車の規格変更を受け排気量を550ccに拡大(SJ10-1型)。
1977年(昭和52年) 6月 マイナーチェンジ(SJ10-2型)。トレッド拡大など。9月 ジムニー8(エイト)発売。
1978年(昭和53年) 10月 マイナーチェンジ(SJ10-3型)。幌タイプにメタルドア追加など。
1979年(昭和54年) 10月 マイナーチェンジ(SJ10-4型)。幌のサイドウインドウの大型化など。
1981年(昭和56年) 5月 フルモデルチェンジで2代目(SJ30型)に移行。
※本記事は月刊自家用車2018年9月臨時増刊号ザ・ジムニー・プロジェクトに掲載した記事を再構成したものです。
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