
斬新なデザインと独創的なメカニズム、それでいて実用的なパッケージを持つルノー・アルカナが、マイナーチェンジを実施した。今回の改良でプレミアムな魅力を高めたことで、新型はどう変わったのか? 注目すべきポイントを解説してみたい。
●文/写真:月刊自家用車編集部
国内市場をより野心的に狙う、意欲的なマイナーチェンジを実施
ルノー・アルカナは、2022年春に国内導入された流麗なクーペスタイルのクロスオーバーSUV。ルーテシアやキャプチャーと共通するランプグラフィックなど、最新のルノーデザインを纏っているのが特徴だ。ざっくり、今回実施された改良のポイントは、大きく分けてこの3つになる。
新しいブランドロゴ&エクステリア
日本国内モデルとして、ルノーの新しいブランドロゴを初採用。従来の立体的なロゴから平面調となったことで、大人っぽさを感じさせるシックでエレガントなエンブレムとなっているのが特徴だ。
その一方でフロントグリルは、立体的に浮かび上がるデザインとすることで、シンプルなロゴと対比させている。このあたりのデザインの妙はルノーらしいアプローチ。調和を図っている点も新型の見どころのひとつ。
リヤ周りは、スポーティな印象をぐっと強めた。このように感じる理由としては、前述したブランドロゴが新しくなったことに加えて、クリアレンズを採用したテールライト、バンパー下部とエキゾーストフィニッシャーのブラックアウト処理の影響が大きい。全体的にキュッと引き締まった感じで、従来モデルとは明らかに差別化されている。
新グレード「エスプリ アルピーヌ」の追加設定
そして注目すべきは、グレード構成が大きく変わったことだ。
従来モデルのアッパーグレード「エンジニアード」は廃止(在庫車両分は継続販売される模様)され、その代わりに1ランク上を狙う新グレード「esprit Alpine」(エスプリ アルピーヌ)が設定された。モノグレード展開になるので、実質的には統合された格好だ。
アルピーヌと言えば、ルノー・グループにおけるスポーツモデルの開発部門であり、F1チームを始めその活躍も華々しい。そのため、ハイパフォーマンスなイメージがどうしても強いが、ロードゴーイングカーとして目指すブランド価値は「スポーティ」「プレミアム」「フレンチタッチ」にあり、誤解をおそれずに言えば、トヨタにおけるレクサスの存在、シトロエンとDSの関係に近い。
今回のアルカナに導入された新グレード「エスプリアルピーヌ」も、まさにそこを狙った内容となっている。複雑な切削光輝加工が施されたスポーティな19インチ大径ホイールを始め、アルピーヌのロゴをまとったサイドマーカーや精悍な2トーン仕様ブラックルーフを採用したほか、要望の多かった大型電動パノラミックルーフもメーカーOP(17万円)として新設定されている。
撮影車両は「エスプリ アルピーヌ E-Techフルハイブリッド」で価格は499万円。従来車の同等グレードより約30万円ほど価格は上がってしまったが、装備機能の進化や内装加飾のアップデートを考えれば許容範囲といえるだろう。
フロントエンドに装着されたフラットデザインの新しいエンブレムと、ハーフダイヤモンドシェイプが立体的に浮かび上がる斬新なフロントグリルは、新型の大きなアイコンになっている。
ツートーンのブラックルーフも精悍さを高めてくれる演出のひとつ。存在感あふれるスタイリングを手に入れている。
アルミホイールも新意匠専用デザインの19インチホイール。
インテリアの魅力の向上
レザーフリーのインテリアに変身したことも大きなトピック。
アルピーヌのロゴが鮮やかなフロントシートは、素材の1割がバイオテクノロジー由来のTEPレザーとスエード調表皮のコンビ。ステアリングや後席はTEPレザー製となっている。
質感溢れるキャビンの造り込みも魅力のひとつ。各所に最上級仕様「エスプリ アルピーヌ」専用の加飾が加えられることで、従来よりも社格感が向上している。
フロントシートには、アルピーヌロゴとブルーステッチがあしらわれる。
ただこれだけにおさまらないのが、いかにもフランス車らしいところ。エコやサステナビリティだけではない遊びゴコロも注入されている。
ステアリングや内装の凝ったトリコロールステッチ、9.3インチタッチスクリーンの新センターモニターの採用や、さらにダッシュボードやドアパネルの素材もスポーツシックな雰囲気のものにチェンジされている。いざ運転席に乗り込むと、従来モデルとの印象が明らかに異なる。細部にこだわり感が強まったことも、強力なライバル勢に対してアドバンテージになると感じる。
車載ITも進化。搭載モニターが9.3インチのマルチメディアEASY LINK機能を備えるタッチスクリーンに変更されている。モニター下に物理スイッチが配置されており、操作感の良さも際立つ。ここは嬉しいポイントだ。
ロングホイールベースがもたらす、広い室内空間とラゲッジスペースが得られることもオススメのポイント。
E-Techフルハイブリッドのレベルの高さを再確認
今回のマイナーチェンジで上級&スポーティ志向が強まったことで、プレミアムSUVとしての魅力も高まったアルカナだが、やはりこのクルマを語る上で外すことができないのが、独特のパワートレーンが生み出す走りの質の高さだろう。
アルカナはハイブリッド車の展開に力を注いでおり、1モーター式のマイルドハイブリッド車に加えて、輸入車としては珍しいストロングハイブリッド車もラインナップしている。実はこのストロングハイブリッドシステムが、まさに出色の出来なのだ。
世の中には各社各様にハイブリッドシステムが存在しているが、今のところ筆者の中では、2つのハイブリッドシステムが、アイデア的にも、機構美的にも抜きん出ていると感じている。
その1つは、お馴染みのトヨタが展開している「シリーズパラレルハイブリッド(スプリット式・THS2)」だ。こちらは2つのモーターと遊星ギヤを利用した動力分割機構を用いているのが特徴で、モーターとエンジンの動力をバリアブルに混合させることが可能。そのためプリウスなどの一般モデルのミッションは変速ギヤを持たず電気式CVTと表記される。仕組みを理解するにはオープン式のデフギヤを想像するとある程度わかりやすいのだが、結構複雑なのでここでは割愛させていただく。
最近では走りのパフォーマンスを高めた2.4Lターボエンジンに駆動用の1モーター組み合わせるデュアルブーストハイブリッドシステムを、クラウンクロスオーバーやレクサスRXなどの上位機種に展開しているのも見どころだ。
そして2つ目が、ルノーが展開している「E-Techフルハイブリッド」だ。
アルカナやルーテシア、キャプチャーなどに搭載されているシステムで、ハイブリッド方式の分類ではシリーズパラレル式のためトヨタと同様となるのだが、こちらはもう、何というか“割り切り感”がハンパないのがすごい。
「エンジンって発進から加速で燃費がとくに悪くなるんでしょ? だったらそんなの使わなきゃいいじゃん?」という、まさに逆転の発想から生まれたハイブリッドシステムだ。
とにかく考え方が合理的。さすがはフランス、メートル法や熱気球、映画などを生み出したのは伊達ではない。簡単に説明すると、停止~発進~低速までは駆動用モーターがすべて担当し、巡航速度になればエンジンが主体でモーターがアシストにまわるというとても思い切ったシステムになる。
2つの電動モーターと1.6L直4エンジンで構成されるE-TECHフルハイブリッド。発進時はモーターによる、ほとんど無音の滑らかな走り出し中速域で加速が続くとエンジンが始動、そして高速域では高効率なエンジンで走行する仕組み。力強さに加え、燃費の良さも高く評価されているユニットだ。
また、その際に動力切り替えを担うのが、個性的な独自ミッションのドッグクラッチ。
クラッチの名はあるものの式、回転合わせを行う摺動装置は備えておらず、簡単に言えば飛び込み式の機械的結合となるため、エネルギー損失も最小限なのが特徴だ。
高精度な回転センサーを用いることで切り替え時のショックは皆無。今回の試乗でも、なんとかその動力切り替えの瞬間を感じ取ってやろうと意地悪く感覚をとがらせてみたのだが、音が僅かにコツッ、としたかしなかったか……というのが私のセンサーでは関の山。
F1活動で得たノウハウも注入された電子制御ドッククラッチマルチモードAT。
マイナーチェンジ前のモデルがデビューした時にも、同じような意識で試乗に挑んでいたのだが、今回も正直なところ分からなかった。それほどにスムーズかつシームレスなんだな……、と受け取ってもらえればありがたい。ほかにもエンジン駆動時の効率を高めるために機械式変速ギヤも備えているが、この基本システム自体もF1チーム(アルピーヌ)で鍛えられているという点にも魅力を感じてしまう。
欧州モデルらしくサスチューンは硬めだが、ゴツゴツとした感覚は皆無。路面からの衝撃を巧みにいなすなど、上級モデルらしい腰の入った走りを楽しむことができる。高速長距離での快適性を求める向きにとっては理想的な一台にもなりそうだ。
ちなみにエネルギーマネジメント分野もアップデート。駆動用バッテリーの残量に配慮して早めに充電を行う「E-SAVE」機能も追加した。これはモデルチェンジ前の後期仕様の一部には搭載されていた機能らしいが、バッテリー残量が少なくなった時にモーターアシストが弱くなることを予防するシステムで、バッテリー残量が約4割になったあたりから充電を積極的に行うようになるという。機能のON/OFFがタッチ式センターメーターから簡単に行える点も簡単だ。
実際に新型アルカナで横浜~木更津を往復ドライブしてみた印象は、とにかくスムーズで快適だったことに尽きる。トルコン車やCVT車とは違うソリッド感を残した加速がとても愉しく、ついついアクセルペダルを踏みがちになってしまったほど(その分燃費は落ちてしまいますが……)。大径19インチを履く割には、路面当たりはしなやかで路面のギャップも上手に往なしてくれる。とてもリヤサスがトーションビーム式とは思えないほど。
そしてロードノイズが気にならないことも見逃せないポイント。新しいシャシーモジュールのおかげもあるのだろうが、国産モデルと比較しても同等以上と感じる美点が多い。プレミアムを楽しめるSUVとして、とても魅力的に思える一台だ。
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