[懐かし名車旧車] ホンダ バラードスポーツCR-X:キラキラしていたホンダ! 懐かしき時代を感じさせてくれるスポーツハッチ

ホンダ バラードスポーツCR-X

ホンダが4輪車の研究を始めたのは1958年、初代トヨペットクラウンが発売されて3年後のことである。ホンダは自動車づくりで先行する幾多の国産メーカーに対抗するため、2輪レースで培った高回転/ハイパワーのエンジンを積み、他社が手を出さない独創的なメカニズムにも積極的に挑戦した。国産4輪車初のDOHCエンジンを積んだ軽4輪トラック「T360」、軽量オープンスポーツ「S500」を1963年に発売。オイルショックや排ガス規制で自動車に逆風が吹いた1970年代には、CVCCエンジンで環境の時代をもリードした。そんなホンダが、S500以来20年ぶりに発表したスポーツ車が「CR-X」。軽自動車並みの超ショートホイールベースと軽量ボディで、FFながらワインディングでは敵なしの走りを誇る、いかにもホンダらしいクルマだった。

●文:横田晃(月刊自家用車編集部)

1983 ホンダ バラードスポーツCR-X

【ホンダ バラードスポーツCR-X1.5i(1983年)】1.5iはデビュー時のトップグレード。ノーマルルーフとサンルーフがあり、ノーマルルーフにはルーフベンチレーションが付いた。フロントロアスカートやデュアルエグゾーストが標準装備、またハーダーサスペンションやリヤスタビライザーも採用された。

【ホンダ バラードスポーツCR-X1.5i(1983年)】主要諸元 ●全長×全幅×全高:3675×1625×1290 ●ホイールベース:2200mm ●車両重量:800kg ●エンジン(EW型):水冷直列4気筒SOHC1488cc ●最高出力:110ps/5800rpm ●最大トルク:13.8kg-m/4500rpm ●10モード燃費:15.0km/L ●最小回転半径:4.3m ●燃料タンク容量:41L ●サスペンション(前/後):トーションバーストラット式/車軸式●ブレーキ(前/後):ベンチレーテッドディスク/ドラム ●トランスミッション:5速MT ●タイヤサイズ:175/70SR13 ●乗車定員:4名 ◎新車当時価格(東京地区):127万円

1.5i以外はアナログメーター(後に1.5iノーマルルーフにも設定)。低い位置にレイアウトされた台形のメーターバイザーは25度の傾斜を付け視認性を高めている。空調やサンルーフの操作スイッチもメーターバイザー内に収められる

大きなサイドサポートが特徴のバケットシート。写真の1.5iはトリコット+ツイルウィーブのコンビ素材。地上から420mm とヒップポイントは低い。北米市場を意識したためか、バックレストがやや広く、小柄な人にはサポート性はイマイチだった。

1.5iサンルーフ車はデジタルメーターを採用。スピードメーターはデジタル表示、タコメーターはグラフィック表示。後期型では全車アナログメーターとなり、デジタルメーターは消滅した。

前期型CR-Xのヘッドランプは、使用時に上部が少し跳ね上がるセミリトラクタブルライトを採用する。

リヤは1マイルシート(1.6kmしか耐えられない?)と呼ばれるエマージェンシータイプ。カタログに「デュエットクルーザー~ 2人の自由のために」と書かれるように、ふだんは後席をたたんで使う2シーターモデルのようにふるまった。ちなみに海外向けには後席がなかった。後席は一体で前倒しが可能。

CR-Xのホイールベースは2200mと短く、トレッドは前1400mm/後1415mmと広い。安定性に優れるスクエアに近いディメンション。また前後のオーバーハングが短く、ドライビングポジションは前後タイヤのほぼ中心。操縦性に優れるスポーツカーの理想に近い。

ルーフベンチレーション(外側)

【ルーフベンチレーション(室内側)】1.5iに設定されたルーフベンチレーション仕様車。車内のレバーで開き、取り入れた空気は飛行機のように頭上から降り注ぐ(2段階に風量調整可能)。F1の潜望鏡型エアインテーク風でCR-Xらしい装備だったが、後期型ではなくなっている。

S800以来となる、久々に世に送り出されたホンダのスポーツカー

人の一生にがむしゃらな青春時代や働き盛りの壮年期があるように、国や企業の歩みにもさまざまな局面がある。もちろん自動車産業もそう。1980年代の日本車は、さしずめ伸び盛りのやんちゃな若者時代だった。

1950年代に外国車を手本に始まった国産乗用車の歴史は、高度経済成長がピークを迎えた1960年代後半のモータリゼーション到来で一気に大衆化。続く1970年代の排ガス対策の成功で、エンジニアリング面では外国勢と肩を並べた。

そうして蓄積したさまざまなノウハウが、オリジナルの商品企画で花開いたのが1980年代だ。1983年にデビューしたバラードスポーツCR-Xも、ホンダらしいキラキラとした個性で世界に挑んだ若武者だった。

シビックより、全長もホイールベースも極端に短いスタイルを採用

ホンダは北米の厳しい排ガス規制を世界で初めてクリアしたCVCCエンジンを積むシビックで、1970年代から北米市場で高く評価されていた。2輪/4輪でのレース活動、とりわけ1960年代からのF1での活躍によってスポーティーなイメージも獲得していたが、じつは初の4輪製品となった1963年のS500(S800へと発展して1970年まで生産)以来、量産スポーツカーは作っていなかった。

1978年に初代プレリュードでスペシャリティカー市場に参入し、1982年登場の2代目プレリュードは日本でも大ヒットとなったが、キャラクターとしては上質なデートカー。刺激的な走りを楽しむタイプのスポーツカーではなかった。

そうした中で生まれたCR-Xは、じつにホンダらしいユニークなスポーツカーと言えた。ベースとなったのはCR-Xの2か月後に登場する3代目シビック。1.3L/1.5Lのエンジンをはじめとするメカニズムはほぼ共通で、事実上シビッククーペだったが、プリモ店で売られるシビックに対して、CR-Xの販売店はプレリュードと同じベルノ店。冠されたバラードの車名は、同店扱いのファミリーカーの名だ。

実際、CR-Xにはシビックとまったく異なるキャラクターが与えられていた。伸びやかなロングルーフで広さとデザインを両立させたシビックに対して、後端を切り落としたファストバックのCR-Xは、低い全高と相まってひときわコンパクト。シビック3ドアが全長3810mm/ホイールベース2380mmなのに対して、CR-Xは全長3675mm/ホイールベースは2200mmしかない。結果、プラス2の後席は体育座りを強いられ、大人4人でのロングドライブはまず不可能という、割り切った作りだったのだ。

FFでもスポーツカーになれる。ホンダが世界に問うた意欲作

海外向けは潔く2シーターとされたCR-Xがそのコンパクトネスで目指したのは、当時のFF(前輪駆動)車につきまとっていたハンドリングに対するネガティブイメージの払拭だった。

前輪駆動車は戦前から海外に存在していたが、その狙いはおもに広い室内空間の獲得であり、走りに関しては長い歴史で熟成されたFR(後輪駆動)車に一日の長があった。

1959年に誕生した英国のミニはFFながら俊敏なハンドリングを兼ね備え、レースやラリーでも活躍したものの、タックインやステアリングへのキックバックといったメカニズムに由来するクセは強く、とても上質な走りとは言えなかったし、高性能エンジンとの組み合わせも望めなかった。

1966年に登場したスバル1000が独創的な等速ジョイントの採用などで、FF車にFR車並みの快適な走りをもたらしたが、ハンドリングはまだまだアンダーステアの塊。一方で、1967年のホンダN360は2輪車譲りの高性能空冷エンジンとショートホイールベースの組み合わせでFFのクセが強く出たために事故が多発し、欠陥車呼ばわりされる目にも遭っている。

メカニズムを凝縮することによって広い室内を実現させるM・M(マンマキシマム/メカミニマム)思想を掲げてFF車の研究開発を続けてきたホンダは、FRに負けない走りを追求し、初代プレリュードで、ついに専門家から「FR車と遜色のない上質なハンドリング」と評された。そうして、続くCR-XでいよいよFRに負けないスポーティーなハンドリングを披露したのだ。

ワイドトレッドに超ショートホイールベースの組み合わせにより優れた回頭済性を誇り、FRに負けないスポーティーなハンドリングを実現した。

【EW型1.5L12バルブSOHCエンジン】1.5Lの3バルブSOHCはエコカー的な1.3Lとは段違い。シティターボと同じPGM-FIを採用し、最高出力はライバル車の1.5Lのサニーターボ(115ps)と遜色ない110ps。

シビックと同じワイドトレッドに超ショートホイールベースの組み合わせのシャーシは、生まれながらに優れた回頭性を備えていた。フロントにトーションバー式のストラット、リヤには独自のトレーリング式ビームを採用したSPORTECと呼ぶサスペンションは軽量コンパクトだ。

さらにフロントフェンダー/ドアガーニッシュ/バンパーなどに樹脂部品を採用することで、1.5L車で800kgという車重を実現していた。当時はタイヤも急速に進化し、60扁平タイヤも認可されたばかり。ブリヂストン ポテンザ/ヨコハマ アドバンといったスポーツタイヤも登場して、走り指向のドライバーから注目されていた。それらをオプション設定したCR-Xは、SOHCながら気筒当たり3バルブを備えて110psを発揮する1.5Lエンジンの切れ味を活かした、ミズスマシのように俊敏な走りを見せたのだった。

2輪GPレースで活躍したスポーツエンジンが、ホンダDOHCの源流

アクセルのオンオフで姿勢が急変したりステアリングを取られたりすることもない、よく躾けられたハンドリングを見せたCR-Xの評判をさらに高めたのが、1984年に登場したZC型DOHC1.6Lエンジンを積むSiだった。

S800の生産終了以来、ホンダの4輪車では14年ぶりに復活したDOHCエンジンは、4連アルミシリンダーブロックや2本で2.35kgという超軽量中空カムシャフトといった凝ったメカニズムを採用。6500回転でグロス出力135psを絞り出した。それでいてSOHCの1.5Lと比べてもわずか3kg増という軽量設計は、まさにホンダの真骨頂。高回転化が望めるDOHCでありながら、ロングストロークで扱いやすさもしっかり確保していたのもホンダらしい個性と言えた。

フルパワーを与えても反力でステアリングが暴れ出したりしないよう、自社開発した独自の等長ドライブシャフトを採用するなど、高性能なだけでなく、フィールにも目を配ったCR-X Siはワインディングダンサーとして高く評価され、FFの走りはFRに及ばないという当時の風評を見事に払拭したのだった。

今日でこそ、軽自動車にまでDOHCエンジンが積まれているが、1970~1980年代前半までのそれは、世界的には限られた高性能車のための特別なメカニズムだった。

1970年にトヨタがヤマハと組んで量産に成功し、セリカを皮切りに搭載車を増やしたが、そのベースは実用OHVエンジンだ。対するホンダは1950~1960年代には2輪/4輪のGPマシンにDOHCエンジンを搭載。国際的なレースで蓄積した技術で初の4輪製品となったS500だけでなく、軽トラックのT360にもDOHCを積んでいたのだ。

そうして培った真に高性能を引き出すためのDOHCエンジンのノウハウが、CR-X Siには息づいていた。カムがバルブを直接押すのではなく、ロッカーアームを介すことで大きなバルブ開度を実現させたのもその一例だ。

そのメカニズムのおかげで、可変バルブタイミング&リフト機構のVTECも生まれる。低速域と高速域でバルブタイミングとリフト量を切り替える機構は、2代目CR-Xに1989年に積まれたB16A型ではネット160psを実現。NAながらリッター100馬力という驚異の高性能を誇った。以後、ホンダの独創的な機構に触発された各自動車メーカーから、高性能だけでなく、低燃費や低排出ガス性能をもDOHCで追求したエンジンが続々と登場するのである。

バラードスポーツCR-X の変遷

1983年
・7月:バラードスポーツCR-X発売
・10月:1.5iノーマルルーフにアナログメーター車を設定
1984年
・11月:1.6LのDOHCを積むSi追加
1985年
・9月:マイナーチェンジ。ヘッドライトをセミリトラクタブル式から固定式に変更、デジタルメーター廃止など
1986年
・10月:Si F1スペシャルエディションを400台限定発売
1987年
・9月:フルモデルチェンジで2代目に移行

【バラードスポーツCR-X Si 後期型(1984年)】北米向けモデル(シビックCRX)の固定式ヘッドライトに変更を受けた後期型。Siはヘッドライトの他、バンパー形状やサイドシルデザインを変更。内装も若干の見直しを受けた。また油圧式のパワーステアリング車を多くのグレードで選択できるようになった。

【ホンダ バラードスポーツCR-X Si 後期型(1984年)】S800生産終了以来、じつに14年ぶりに復活したDOHCエンジンを搭載するSi。4連アルミシリンダーブロックや2本で2.35kgという超軽量中空カムシャフトといった凝ったメカニズムを採用することで、6500回転でグロス出力135psを絞り出した。■主要諸元 ●全長×全幅×全高:3675×1625×1290mm ●ホイールベース:2200mm ●車両重量:860kg ●エンジン(ZC型):水冷直列4気筒DOHC1590cc ●最高出力:135ps/6500rpm ●最大トルク:15.5kg-m/5000rpm ●10モード燃費:14.8km/L ●最小回転半径:4.3m ●燃料タンク容量:41L ●サスペンション(前/後):トーションバーストラット式/車軸式 ●ブレーキ(前/後):ベンチレーテッドディスク/ドラム ●トランスミッション:5速MT ●タイヤサイズ:185/60R14 ●乗車定員:4名 ◎新車当時価格(東京地区):150.3万円

【ホンダ バラードスポーツCR-X F-1スペシャルエディション(1986年)】ホンダが世界を席巻した第2期F1参戦、1986年は9勝を上げ、常勝ホンダの始まりといえた年。コンストラクターズチャンピオン獲得を記念して発売された限定モデルには、専用フォグランプ/専用リヤスポイラー/特別インテリアがを採用。アコードやシビックにも同じ限定モデルが設定された。

CR-Xの大きな特徴となったサンルーフ。小さなルーフでも大きな開口を得るため、アウターレールなしにサンルーフが屋根の上をスライドしていく設計(後期型)。

【ZC型1.6L16バルブDOHCエンジン】1970年のS800販売終了以来、長らく途絶えていたホンダDOHCが復活。新設計のZC型はつや消しブラック塗装のカムカバーよろしく、F1エンジンRA164Eから多くのテクノロジーが受け継がれている。

CR-Xの系譜

初代バラードCR-X(1983〜1987年)

初代バラードスポーツCR-X(1983年〜1987年)

2代目CR-X(1987〜1992年)

初代のキープコンセプトとなった2代目。ボディサイズはわずかに拡大されたが、Siでも車重は900kg以下。4輪ダブルウィッシュボーンのサスペンションを採用、1989年にはリッター100psのDOHC VTECエンジンが搭載され、走りのポテンシャルは向上した。初代の後方視界の悪さを解消するべく、リヤにエクストラウインドウを設定、ややチープな印象もあった内装の質感も大幅に高められた。

【ホンダCR-X 1.6Si(1987)】●全長×全幅×全高:3755×1675×1270mm●ホイールベース:2300mm ●車両重量:880kg ●エンジン(ZC型):水冷直列4気筒DOHC1590cc ●最高出力:130ps/6800rpm ●最大トルク:14.7kg-m/5700rpm ●10モード燃費:15.2km/L ●最小回転半径:4.5m ●燃料タンク容量:45L ●サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン式/ダブルウィッシュボーン式 ●ブレーキ(前/後):ベンチレーテッドディスク/ディスク ●トランスミッション:5速MT ●タイヤサイズ:185/60R14 82H ●乗車定員:4名 ◎新車当時価格(東京地区):149万8000円 ※出力/トルクはネット値

3代目CR-X delsol(1992〜1999年)

全長を一気に200mm拡大。DOHC VTECを積む上級モデルには電動で開閉するトランストップが採用され、軽量スポーツからスペシャリティカーへとコンセプトチェンジが図られた。またエマージェンシーのリヤシートはなくなり、完全な2シーターとなった。一方廉価版の1.6LSOHC車は手動開閉式のオープンルーフが採用された。ちなみに「デルソル」は「太陽の~」を意味するスペイン語。

【ホンダCR-X delsol 1.6SiR(1992年)】●全長×全幅×全高:3995×1695×1255mm ●ホイールベース:2370mm ●車両重量:1090kg ●エンジン(B16A型):水冷直列4気筒DOHC1595cc ●最高出力:170ps/7800rpm ●最大トルク:16.0kg-m/7300rpm ●10・15モード燃費:13.6km/L ●最小回転半径:5.1m ●燃料タンク容量:45L ●サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン式/ダブルウィッシュボーン式 ●ブレーキ(前/後):ベンチレーテッドディスク/ディスク ●トランスミッション:5速MT ●タイヤサイズ:195/55R15 83V ●乗車定員:2名 ◎新車当時価格(東京地区):188万円 ※出力/トルクはネット値

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