
ホンダの「シビック」は、車種ラインナップの中ではベーシックな大衆向けの小型車として、ホンダの屋台骨を下支えし続けてきた車種です。初代から時代の要求に合わせて徐々にサイズがアップしていき、より小型の「フィット」が加わったことで8代目からとうとう3ナンバーサイズになっています。しかし、やや年配のクルマ好きにとっては、「シビック」といえば軽量で元気の良い走りが魅力のコンパクトカーという印象が強く残っているのではないでしょうか。ここではそのコンパクトでスポーティな「シビック」のイメージを定着させるきっかけになった“ワンダー”こと3代目の「シビック」にスポットをあてて、すこし掘り下げていきたいと思います。
●文:月刊自家用車編集部(往機人)
先代から何もかもを一新させた“ワンダー”なシビック
“ワンダー”こと3代目の「シビック」が誕生したのは1983年のことです。初代の面影を多く引き継いだ2代目から、世界市場戦略車としてプラットフォームから外観デザインまでを一新、ガラッとイメージを変えて生まれ変わりました。
初代は世界で初めてマスキー法を完全クリアした省燃費車として北米を中心に強く認知されました。2代目はそのイメージを引き継いで北米市場を意識したアップデートがおこなわれ、北米での販売土壌を確かなものにしました。
その土壌を背景に、日本国内の好景気も追い風となって、3代目のモデルチェンジでは、プラットフォームをまったく刷新するという大きな変革を敢行しました。
具体的には、4ドアセダン/3ドアハッチバック/5ドアハッチバックという3車種それぞれで異なる設計をおこなったというのがポイントです。
この時代のクルマは、最も販売量が見込めるセダンをベースにして、主に運転席から後ろを変更して他のボディタイプを追加するのがセオリーでしたが、3代目の「シビック」では、フロアパネルやボディ外板パネルなどの主要部を各ボディタイプで専用設計しています。
同じ「シビック」シリーズということで、デザインテイストの統一感はキープしていますが、通常は共用するヘッドライトやフロントウインドウなどの部品も専用のパーツが与えられているため、外装でほとんど共通する部品が無い仕様になっています。
バリエーションの中心となった3ドアハッチバックでは、初代からの「M・M思想」をさらにレベルアップさせています。
それまでの同タイプのデザインは、スタイリングをまとめるために室内空間を犠牲にするケースが多くありましたが、思い切ってルーフをめいっぱい長く取り、2代目からは考えられないくらいの室内の広さを実現しています。
このコンセプトは外観にも良い効果を与えています。
車高は3タイプで最も低く設定されていますが、ボディ後端をスパッと切り落として角までスペースを確保してヘッドスペースは充分。全体的に四角くシャープな造形ですが、面構成をシンプルにすることで空力特性も高いレベルでまとまっています。
その結果、市場にも好意的に受け取られて販売台数は増加。1984年度のグッドデザイン大賞も受賞しています。
ホンダは、1983年に国際車として高い評価を得ているシビック・バラードシリーズのフルモデルチェンジを実施。3ドアハッチバックは、新しい時代のFF・2ボックスの追求をコンセプトに開発。空力フォルムを意識したボディパッケージながら、ロングキャビン化による居住性スペースの大幅な拡大が図られるなど、使い勝手の良い室内空間を武器としていた。
4ドアセダンは、3ボックスセダンの伝統をいかしたパッケージを踏襲しつつ、空力フォルムを追求して開発されている。実用車らしく、エンジンルームやキャビン、トランクルームそれぞれのスペース効率も煮詰めていることがポイント。
「シビックシャトル」と名付けられた5ドアハッチバックは、従来のセダンの概念にとらわれない楽しい創造空間をもつ、FFニューコンセプトセダンとして開発。
「Si」に搭載されたDOHCは、F1技術が注がれたクラス最強のエンジン
この「ワンダー」で最も大きなトピックは、1984年に高性能版の「Si」グレードが追加されたことでしょう。
この「Si」グレードに搭載されたのは、当時F1で活躍していたホンダがその技術をフィードバックして新たに開発した「ZC型」エンジンです。
1984年に追加された「Si」は、F-1活動で培った独自のエンジン技術を基に開発し た1.6L・DOHC16バルブエンジンを搭載。135PS/15.5kg-mを発揮する高性能モデルとして人気を集めた。当時の価格は137万6000円。
ベースは「シビック」他のスタンダードグレードに搭載されていた1.5LのSOHC直列4気筒「EW型」です。これをベースにボアを1㎜、ストロークを3.5㎜増やして排気量を1590ccに拡大。そこに、新たに開発したDOHCヘッドを搭載しました。
1.6Lエンジンは、市販乗用車で世界初の4バルブ内側支点スイングアーム方式のシリンダーヘッドを採用。数々の軽量化を計ることで、高性能と小型軽量化を両立している。
いまではホンダの高性能ユニットと言えば高回転型のショートストローク仕様のイメージが強いですが、「ZC型」のボア×ストロークの値は75㎜×90㎜とロングストローク仕様となっているのが意外です。
これは、元になった「EW型」がボアとボアの間隔を狭くして全体のサイズをコンパクトにした設計のもので、ボアの拡大が厳しかったという点と、高性能エンジンといえど日常使いでの扱いやすさは必要だという判断があったためだと思われます。
高い燃焼効率や高回転、高出力を貪欲に追求する開発陣の執念は、のちのVTECエンジンの開発へと繋がる、重要なステップになっている。
それでも、圧縮比の高い(9.3)浅いペントルーフ型燃焼室や、世界初の中空構造を導入した軽量カムシャフト、軽量で高剛性なピストンなど、回転の負荷やフリクションロスの低減を徹底したことで135psを6500rpmで発生させています。
ライバルのトヨタ「4A-G」がショートストローク仕様で130ps/6600rpmなので、ほぼ同等の回転性能を持ちながら、厚い低速トルクも両立していました。
性能の高さが“環状族”に支持されて、さらなる人気を獲得
この“ワンダー”を語るなら“環状族”の話を避けるわけにはいきません。
“環状族”とは、1980~1990年中盤くらいの時期に、大阪の「阪神高速1号線(通称:環状線)」で夜な夜なおこなわれていた“ストリートレース”を競う“走り屋”のことです。海外でも一部のJDMマニアの間で「KANJO-ZOKU」とそのまま呼ばれているようです。
“ワンダー”は、この“環状族”に圧倒的な支持を受けるようになり、高性能な「Si」グレードの誕生でその構図はさらに強まりました。
この「シビック」一強という構図は大阪環状独特のもので、それ以外の地域では“走り屋”といえば軽量なFR車というイメージが根強くある(あった)ので、“環状族”のことを初めて知った人は「なんでシビックなの?」と疑問に思うことでしょう。
“環状族”がシビック御用達になった要因は“環状線”のコース特性と、交通事情、そして“環状族”たちの走りのスタイルの特徴から来ているようです。
大阪環状線は合流や分岐が多いレイアウトのため、自動車専用道路としては比較的速度域が低く、夜でも交通量が多かったようです。そのため、改造車で速く走ろうとしても減速の頻度が高く速度は伸びません。
そして、“環状族”の特色として集団での度胸試し的なノリが強かったので、一般車を除けながらなるべく速度を保ちながら走るスタイルが主流でした。“あみだ走り”と呼ばれた車輌の間をすり抜ける走り方には、クイックなハンドリングとそれをフォローする軽量性が求められます。
その当時の車種の中では、ツルシ状態で800kgを軽く切る軽量な車体に、中速から上まで力強くフケる強心臓、そしてステアリング操作と加速の相性が良いFF方式という要素が揃った“ワンダー”は、大阪環状線にもってこいのクルマだったというわけです。
その特性を活かすため、内装は軽量化のためにすべて取っ払った“ドンガラ”状態にして、ゴツいロールバーを装着。仕上げに当時人気の高かったツーリングカーレースの影響から、スポンサーのロゴが入ったカラーリングを真似たり、パロディでアレンジした“おもろい”風味の外観の車輌が多く見られました。
非合法な暴走行為をする“走り屋”としては珍しくハデで目立つ外観に仕上げる傾向が強いのは大阪の気質が反映されていたのだと思われます。
この“環状族”たちの日常をリアルに描いた「ナニワトモアレ」というマンガが2000年代初頭に人気となって、新たに“環状族”がフィーチャーされ、環状スタイルのカスタムもリバイバルしました。
この“ワンダー”は、元々残存数が少なかったことで中古車のタマ数は多くありませんでした。そこに加えてリバイバルブームが重なり、中古車の相場はやや高騰しているようです。
もしも機会があれば、カッ飛び軽量FF戦闘機の元祖と言える“ワンダー”の魅力を味わってみてください。
シビックSiと兄弟関係になるバラードCR-X Siは、MM思想の設計哲学を薄め、より「走る喜び」を追求した2+2シーターのスペシャリティクーペになる。シビックSiよりも軽量で、より運動性能を追求したキャラは走り屋から高く評価され、シビックSiとともに長らく愛され続けていた。
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