
1980年代のホンダといえば…、人によって印象に残っている事柄はいろいろあると思いますが、歴史に燦然と輝く大きな出来事は「ホンダ・F1の栄光」でしょう。1983年に15年ぶりとなるF1への参戦を開始。早くも翌年には初勝利を獲得し、1986年のコンストラクターズタイトルを皮切りに怒濤の快進撃となったのは今でも記憶にしっかり残っています。その快進撃は日本にも多くのファンを生み、現在まで続く「エンジンのホンダ」というイメージを強く残しました。そして市販車に目を向けると、F1への参戦を再開した1983年に登場して、ホンダのスポーツイメージを高めるのにひと役買ったのが「バラードスポーツCR-X」です。ここではその初代「CR-X」について少し話していきましょう。
●文:往機人(月刊自家用車編集部)
若いユーザー層がターゲット。ベルノ店の主力モデルとして登場
「CR-X」という車種名を聞いたことがあるという人は多いと思いますが、初代「CR-X」のフルネームが「バラードスポーツ CR-X」だということは、ホンダ車のファンでも意外と少ないのではないでしょうか。
その名前の通り、初代「CR-X」は2代目「バラード」の派生車種です。
ではその「バラード」という車種はどんな存在でしょう?
「バラード」は、3代目シビックの姉妹車として、1983年に誕生しました。
当時のホンダは、他のメーカー同様に販売チャンネルを増やして新規顧客の掘り起こしを企んでいました。
その一環として誕生したのが「ベルノ店」です。
「ベルノ店」はバブル景気で資金力が上がった若いユーザー層に訴求するスポーティイメージをウリにしていました。
その「ベルノ店」で初めて販売した大衆ファミリーカーが「バラード」です。
初代は4ドアセダンのみでしたが、2代目になると車種展開の拡充を図り、3ドアハッチバックの「CR-X」が追加されました。それが初代の「バラードスポーツ CR-X」です。
初代バラード。1980年式バラード 1500 FXE
2代目「バラード」では「CR-i」や「CR-M」など「CR」で始まるグレード名が使われていて、そのホットハッチ版に「CR-X」の名称が与えられました。
1983年式バラード CR-M
同時期に海外で販売された同モデルは「CIVIC CRX」という名称で、日本では登録商標の関係で間にハイフンが入ったようです。
余談ですが、この時期の「バラード」の高性能グレードには「CR-Z」の名が与えられていて、後に独立の車種名として再採用されました。
1983年式バラード スポーツ CR-X
1983年式バラード スポーツ CR-X
1983年式バラード スポーツ CR-X
注目はエンジンだけにあらず。柔らか素材の樹脂ボディも先駆的だった
確かにこの「ZC型」エンジンが搭載された「Si」グレードの「CR-X」は今でも高い人気を維持していますが、この初代「CR-X」の注目点はむしろその軽量さの方にあると言っても良いかもしれません。
その車重はなんと800kg。これは現行の軽スポーツ「S660」よりもはるかに軽量です。
しかもこれはサンルーフなどのアミューズ装備が組み込まれた中核グレードの「1.5i」の数値で、廉価装備の「1.3i」では760kgという驚異の数値です。
初代「CR-X」というと、14年ぶりにDOHC式が採用された1.6リットルの「ZC型」エンジンのイメージが強く残っているという人が多いかもしれません。
この軽量さを実現するために採用した新技術が「H.P.ALLOY」&「H.P.BLEND」というホンダ独自開発の樹脂素材です。
新素材「H・P・ALLOY」をフロントマスクやヘッドライト・フラップ、左右フロントフェンダー、左右ドアロア・ガーニッシュに採用することで、軽量化と耐チッピング性、防錆を達成。顔から足元まで飛び石や錆にも強く、美しいボディを手に入れている。
「H.P.ALLOY」は「HONDA POLYMER ALLOY」の略で、ABS樹脂とポリカーボネートに耐衝撃性を向上させる新成分を加え合成した独自の樹脂です。
これをフロントフェンダーやフロントマスク、サイドシルカバーに採用しています。
「H.P.BLEND」は「HONDA POLYMER BLEND」の略で、高い耐衝撃性と耐候性をもつ変性ポリプロピレンです。
これを前後バンパーに採用しています。
つまり、ボディの下半分がごっそり樹脂のパネルということになります。
外装の樹脂パネルと言えば1990年に登場した「GM」の「サターン Sシリーズ」が印象に残っていますが、その7年も前に実用していたのは驚きです。
前後バンパーにも新素材の「H・P・BLEND」を採用することで、軽量化や防錆、耐チッピング性の向上が図られた。軽い接触による変形防止も実現している。
軽量&コンパクトな新開発の12バルブ・クロスフローエンジンを搭載。1.5iでは110馬力の高出力を発揮したほか、1.3では20.0km/L(10モード燃費・5速車)という低燃費も実現している。
漫画「よろしくメカドック」に登場して、人気が再燃
初代「CR-X」と聞いて「ああ、あのメカドックに出てた!」と懐かしく感じる人も少なくないのではないでしょうか。
メカドックとは、1980年に「週刊少年ジャンプ」で連載を開始した、国内の本格チューニング&カーバトルマンガの草分け的存在である「よろしくメカドック」のことです。
人気が高く、1984年にアニメ化されましたが、それで観ていた人でも最低で50歳くらいだと思われます。
その劇中で、主人公がゼロヨンレースに出場するために選んだのがこの初代「CR-X」でした。
印象的なのはその改造内容で、エンジンを大胆にミッドシップに搭載してリヤ駆動にしてしまった点です。
しかもターボ化して大パワーを得るという、まさにWRCグループBのモンスターマシン「ルノー5ターボ」の手法をそのままホンダ車で再現してしまったのです。
当時のクルマ好きキッズたちは、「えええ! エンジンを荷室に積んで良いの?」とド胆を抜かれました。
そんな初代「CR-X」は、今の旧車ブームの中でもしっかりその存在感を示し、ホンダを代表する名車の一角として支持されているのです。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(旧車FAN | ホンダ)
ホンダ シティR(1981年) 若い技術者たちが常識の打破へと挑んだ開発プロジェクト 町おこしを成功させる決め手は、若者とよそ者、そして馬鹿者を参加させることだという。新しい風を求めて積極的に行動する[…]
ホンダ N360(1966〜1968) 半人前扱いだった軽自動車を若者の憧れに変身させた、二輪車で培った高性能技術。 民主的、という言葉を自動雑誌で使うのは勇気がいる。けれど、ホンダN360という軽自[…]
軽トラックTN360のボディを取り去ったフルオープンマルチパーパスカーだった ホンダZの誕生と時を同じくして鮮烈なデビューを飾ったのが、個性の塊とも言えるバモスホンダである。ベースとなっているのは、主[…]
四輪ラインナップの中核として期待され生まれた「1300」 「ホンダ・1300」は、1969年に発売されたホンダの小型乗用車です。 1960年代のはじめ、オートバイメーカーとしてすでに世界的な地位を確立[…]
自動車業界を震撼させた通産省の業界再編法案 近代日本の産業の多くは、俗に「護送船団方式」と呼ばれる国の指導下で成長してきた。銀行や保険会社の利率や商品構成が、つい最近までどこも同じだったように、国の保[…]
最新の関連記事(大人気商品)
自力ではほぼ無理? 拭き取りにくいフロントガラスの奥の方問題 車種によって異なるが、例えばプリウスのように、フロントガラスが極端に寝かされたデザインだと、奥の方まで手が入りにくく、洗車の際や窓が曇った[…]
コンパクトなサイズのディスプレイ。取り付けは超カンタン どうしても必要というワケではないが、なんとなく気になるグッズやアイテム、皆さんもあるのではないだろうか? 今回紹介するのは、自車の車速や方角など[…]
シートサイドのスペースを有効活用できるUSB付きポケット 車のシートサイドや、シートとコンソールにある隙間などはデッドスペースになっていることが多い。小銭などの小物を落としてしまうことも多く、一度落と[…]
「サクラチェッカー」Amazonのサクラ度を見抜くWebサービス 忙しさのあまり買い物に行けないユーザー御用達のAmazonは、凄まじい数の商品が並ぶ通販サイトだ。しかし、そこに潜む闇は浅いものではな[…]
アウトドアショップで発見「ポーチマイクロファイバーレンズクロス」は、車に積んでおきたい便利グッズ アウトドアショップで見つけた商品は「ポーチマイクロファイバーレンズクロス(チャムス)」というもの。一見[…]
人気記事ランキング(全体)
ナットの取り外しの基本を無視すると、トラブルの原因に… 整備作業においてボルトやナットの脱着は避けて通れない基本中の基本の作業。それだけに、ソケットレンチやメガネレンチの使用頻度は必然的に高まる。が、[…]
社内のエンスー達による趣味的な活動から始まったロードスターの開発 工業製品の商品企画は、マーケットイン型とプロダクトアウト型に大別できる。市場のニーズを調べつくして、「これこそがあなたの必要としている[…]
どんな車にも絶対ついているのがサンバイザー 車種を問わず、あらゆるタイプの車に装備されているサンバイザー。軽自動車でも高級車でも、オープンカーでも装着されていることが多い。サンバイザーは、その名の通り[…]
新型プリウスオーナーに朗報! 最新のフロントガラス周り事情に対応した内窓専用ワイパー 今回紹介するのは、内窓専用ワイパーの『エクスクリア360ワイパーフラット』。幅広いカー用品を展開するカーメイトから[…]
ネジはナメやすい! だからこそ、ちゃんとした外し方をマスター まず断っておきたいのが、本記事で紹介するテクニックは、自動車整備を前提にしている。それ以外のシチュエーションは想定していないのでご注意頂き[…]
最新の投稿記事(全体)
イベントの概要はこちらをご参照ください。 今回のご紹介は、イベント終盤に開催される抽選会についてです。毎年数十万円の景品が、イベントの入場券を持っているだけでもらえるチャンスがあるラッフル抽選会ですが[…]
外装塗装の変更に伴い、価格改定も実施 今回実施される一部改良では、シビックRSやフリードに導入されている新たな外装塗料を採用。塗料に使用するクリア材を、従来のアクリルメラミン素材から、より機能が向上し[…]
コーティング剤が人気だが、ワックス派も確実に存在 簡単系コーティング剤は、カー用品店でも独立したコーナーが設けられるほど人気のジャンルだ。その立役者の1つが、シュアラスターのゼロウォーターだ。とは言う[…]
アウトランダーPHEVのコア技術を、専門の技術説明員が解説 三菱自動車ブースの主役は、2024年10月に大幅な改良を施し、市場に投入されたフラッグシップモデルのアウトランダーPHEV。リアル展示会のブ[…]
408&308で好評のボディカラー「オブセッションブルー」を採用 今回導入される「GT Obsession Blue」は、GTグレードに、2008初採用のボディカラー「オブセッションブルー」をまとった[…]
- 1
- 2