
【クルマのメカニズム進化論 Vol.1】トランスミッション編(2)〜オートマチックトランスミッション〜
1900年代の初め、アメリカで生まれたプラネタリーギヤを活用したステップATはトランスミッションの主流となって進化を続けた。今は9速まで多段化が進み、ホンダは10速の採用を計画している。今回は、このオートマチックトランスミッションの進化を見ていこう。
※この記事は、オートメカニック2016年当時の記事を再編集したものです。
●文:オートメカニック車編集部
1939年、世界で初めて実用化されたフルードカップリングとプラネタリーギヤを組み合わせたGMのAT、ハイドラマチックのユーザーガイド(GMアーカイブスから)。
1961年、ベンツがATを初採用した時の広告の図。クラッチ操作が不要の2ペダルであることが強調された。しかしヨーロッパではMTが主流で、ATは高級車に限られた。
最初のATは、フルードカップリングとプラネタリーギアを組み合わせたステップATだった
煩雑でスムーズに変速するには操作技術が必要なマニュアルトランスミッションに代えて、誰でも楽に運転できるトランスミッションを目指して開発されたのが、フルードカップリングとプラネタリーギヤ(遊星歯車機構)を組み合わせたステップATだった。
フルードカップリングは既に船舶用として1900年代の初めから使われていたが、それを自動車に採用したのはGM(ゼネラルモーターズ)だった。1939年、オールズモビルにハイドラマチックの名称を付けて販売を開始した。
プラネタリーギヤは当時、革新的なものというわけではなかった。1908年、T型フォードはこれを使った2速マニュアルトランスミッションを搭載し、通常の噛み合いギヤよりも容易な変速を可能にしていた。
GMの広告ではクラッチペダルが不要なことが強調され、運転の方法が解説された。1948年になるとトルクコンバーターが実用化され、時をおかず、アメリカではAT時代へと突入していく。
ベンツ300SEに搭載されたステップAT。GMのハイドラマチックに遅れること約20年。アメリカはATの先進国となったが、ヨーロッパはまだマニュアル全盛だった。
日本ではトヨタが先行2速ATから出発
1959年、アメリカではAT比率が80%にも達していた。この時代、日本では初めての国産ATが産声を上げた。1速は手動選択でもっぱら発進と急登坂用。2速が走行用で、フルードカップリングのスリップを活用してあらゆる勾配の道路に対処した。
開発したのはトヨタ。名前はトヨグライド。搭載されたのはクラウンをベースにした商用バントヨペット・マスターラインだった。トヨグライドはその後、クラウンにも採用されたが、ステップATの普及は遅々たるものだった。
初期のステップATの制御はすべて機械式だったが、1970年、トヨタは電子制御のEATをコロナに搭載した。変速制御をコンピューターに委ねるものだったが、今のような精密なものではなく、変速には常にショックが現れ、ドライバーに違和感を与えた。
これを元に改良を重ねたのが1981年開発された「トヨタECT」だ。すべてがマイクロコンピューターによって制御されるというのは世界で初めてのことだった。これ以後、ステップATの電子制御は進化を続ける。
トヨタECTの変速段数は3速をベースにODを加えたものだったが、1989年、日産はセドリックに5速ATを搭載する。変速段数が増えると途切れのない変速によってドライバビリティが向上するだけでなく、燃費にもよい影響を与える。これ以後、ステップATは多段化への道を歩むことになる。
トヨタは2003年に6速をセルシオに採用。ダイムラーとBMWは2000年代初期に7速を実用化し、上級モデルに搭載した。2006年にトヨタは8速をレクサスに採用した。2重遊星歯車にラビニオ型遊星歯車を組み合わせたもので、従来の6速用トランスミッションケースを拡大することなく、多段化に成功したのだった。
2013年に入るとダイムラーは9速を採用、2014年にZFは横置きエンジン用の9速を開発し、手始めにランドローバー・イボークに提供された。
メルセデス・ベンツが世界に先駆けて採用した7速ATの7Gトロニック。パフォーマンス向上だけではなく、効率のよい回転域を使えることから燃費も向上した。
2006年、トヨタは世界初の8速ATをレクサスに搭載し、マジェスタなどにも拡大採用した。これ以後、大型車の多くは多段ステップATを採用するようになっていく。
2013年、ダイムラーはメルセデス・ベンツに9速の9Gトロニックを採用した。途切れのない変速が可能になり、ステップATの可能性を拡大した。
見逃せないロックアップの進化、低速域から精密制御
多段化と共に見逃せないのはロックアップの進化だ。初期のそれは上段ギヤの高速域に限ったものだったが、今では低速、低回転域からフレックス制御が行われ、発進と共にロックアップが行われる。トルクコンバーターの滑りが抑えられ、マニュアルトランスミッションに匹敵する伝達効率が得られるようになっている。
マツダではこのロックアップに注目し、多板化を図り、精密な電子制御によってロックアップ領域を大幅に拡大している。パドルシフトの普及も進んだ。ブリッピング制御を行うものや変速パターンを選択できるものもあり、スポーツ性も高まっている。
ステップATは電子制御によってエンジンとも統合制御されるようになった。登坂、降坂時に適切なギヤにホールドされるほか、学習機能を備えたものもあり、ドライバーの運転パターンに合わせた変速制御も可能になった。
カーナビからのGPS情報を元にコーナーの曲率に合わせた最適な変速段数にシフトする制御も行われるなど、進化を続けている。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(旧車FAN)
【1967 ランドクルーザー50系】求められるニーズに合わせたバン(ワゴン)仕様の50系を分離独立 1960年に登場した3代目ランドクルーザー(40系)は、24年も生産され続けたロングセラー。その長い[…]
「キャロル」はマツダ・イズムの塊だった 初代の「キャロル(KPDA型)」の発売は1962年です。 広島の地でコルク製品の製造業から始まった「東洋工業」は、戦時中に軍の下請けで3輪オートバイの製造を始め[…]
1951 前身となるジープBJ型が誕生。1954年からモデル名を「ランドクルーザー」に変更 いまやおなじみの「ランクル」の始まりとなったのが、1951年に開発されたトヨタ・ジープBJ型だ。梯子型シャシ[…]
国産車黎明期は、「赤」と「白」はパトカーなどの専用色だった ボディカラーにこだわってクルマを選ぶ人は、珍しくないでしょう。とくに女性には、購入の動機に色が気に入ったからと答えるユーザーは多く、それに応[…]
雷の語源を持つ「レビン/トレノ」の元祖とは? AE86系の車輌は、当時の販売チャンネルの関係から、「カローラ・レビン」と「スプリンター・トレノ」に分けられていました。そしてその分類は「AE86」が始ま[…]
最新の関連記事(大人気商品)
知らない間に進行してしまうヘッドライトの曇り。原因は紫外線 「最近、なんかヘッドライトが暗いな…」「光が拡散しているような気が…」。愛車のヘッドライトの光量について、このように感じたことはないだろうか[…]
ネジがナメてしまうトラブルを未然に防止するドライバー ネジを外そうと力を込めてドライバーを回すと、ビス山(ネジの十字の部分)から工具の先端部分が外れ、ビス山が潰れてしまう「ネジがナメた」と呼ばれる現象[…]
春から初夏の車内での休憩にぴったりのアイテム ドライブの合間のちょっとした休憩、車の中でちょっと睡眠をとりたくなることはよくある。筆者は取材などでロングドライブすることも少なくなく、さらに趣味が釣りな[…]
自力ではほぼ無理? 拭き取りにくいフロントガラスの奥の方問題 車種によって異なるが、例えばプリウスのように、フロントガラスが極端に寝かされたデザインだと、奥の方まで手が入りにくく、洗車の際や窓が曇った[…]
コンパクトなサイズのディスプレイ。取り付けは超カンタン どうしても必要というワケではないが、なんとなく気になるグッズやアイテム、皆さんもあるのではないだろうか? 今回紹介するのは、自車の車速や方角など[…]
人気記事ランキング(全体)
ベース車両は日産のNV200バネット 日産「NV200バネット」は、2009年に登場した小型商用バン。全長4400mm、全幅1695mmという取り回しのしやすいサイズ感で、都市部でも扱いやすいことが大[…]
樹脂パーツの劣化で愛車が古ぼけた印象に…。でもあきらめないで! いつも目にしている愛車が、なんとなく古ぼけた感じに…。それ、樹脂パーツの劣化が原因かもしれない。最近の車種は、フェンダーやバンパー、ドア[…]
エブリイ“ワゴン”をベースにしたことで得た快適性 RS1+のベースとなるのは、スズキ・エブリイワゴン。同じくATV群馬が展開する「RS1」がバン仕様であるのに対し、RS1+は乗用モデルならではの快適性[…]
ミニバンの余裕を生かしたキャンパー設計 「フリースタイル」のベース車は、ホンダ・フリード+。もともとフリード+は、2列シート+広大な荷室という構成で、荷物の多いユーザーや趣味を楽しむ人々から支持を集め[…]
ソニーの最新技術を採用、夜間も強いニューモデル コムテックは、様々なタイプのドライブレコーダーをリリースしており、ハイエンドから普及機、ユニークなモデルなど、多様なユーザーの要望に対応する。また、ドラ[…]
最新の投稿記事(全体)
ビッグマイナーで商品力を強化。国産ライバルがひしめく超激戦区に殴り込み ルノー・キャプチャーは2013年に初代モデルが誕生し、2019年に現行の2代目モデルが登場している。全長4.3mほどのBセグメン[…]
長年培ってきた音の技術が注がれるハイエンドモデル パイオニアが新たに立ち上げた車載用ハイエンドシリーズ「GRAND RESOLUTION」。そのスピーカー2モデル「TS-Z1GR」と「TS-HX1GR[…]
高速道路上での不意の車両トラブルに迅速に対応できる緊急表示器「パープルセーバー」 高速道路や自動車専用道路では、緊急のトラブルでクルマを停車させる場合、後続車にその危険性を認知させるため、停止表示器材[…]
幼少期の記憶から始まるモータースポーツの入口 子どもの頃に遊園地やテーマパークで気軽に乗れたゴーカートの楽しい思い出は、大人になっても色褪せないものである。でも今までは、それが単なる楽しい思い出で終わ[…]
描かずにはいられない、「的」となる人々 来場者の似顔絵を描いてもらえるかも!? また、会期中は小川けんいち氏本人が会場に在廊し、来場者の似顔絵をその場で描く特別サービスも実施予定です。作家と直接触れ合[…]
- 1
- 2