
「三菱 ギャラン」と聞いてピンと来る人はおそらく35歳以上ではないでしょうか。「ギャラン」という車種名は2017年に生産を終えた「ギャラン・フォルティス」まで継続していましたが、このモデルはランサーとして開発されたモデルを国内で販売するにあたって中型セダンの名称だった「ギャラン」に変更したもので、実質オリジナルの「ギャラン」と言えるのは、2005年に生産を終えた8代目までと言っていいでしょう。その「ギャラン」の系譜を過去に辿っていった際に、ひときわ輝く存在があります。それがここで取り上げる「コルト ギャランGTO」です。
●文:往機人(月刊自家用車編集部)
ロングノーズのプロポーション、空気抵抗を減少させ高速時の浮き上がりをおさえる機能とスポーティな美しさを調和させたダックテール、当時の国産車としては画期的な曲率50インチのサイドウィンドウによるタンブルフォームを採用したGTO。
メーターパネルは6連(左から時計、燃料系、電圧系、速度計、回転計、水温計)、さらにセンターコンソール中段に2つ(油圧計、油温計)。合計8つの丸形メーターが並ぶ。スポーティなインパネはライバル他車にも影響を与えた。
レバー操作でスライドしながらシートバックが倒れるウォークイン式を採用。また前席シートベルトは3点式。
三菱車としては初のスペシャルティクーペ
「ギャランGTO」が発売されたのは、“いざなぎ景気”と呼ばれる高度経済成長期のただ中だった1970年です。国民総生産が世界2位まで駆け上がり、大阪万博の活況に国民が湧いた年でもあります。
大衆セダンとしてヒットした「コルト1000」の成功をベースにして、その上位車種として、1969年に「コルト ギャラン」を発売します。新たな時代へ向けてスポーティな車種の拡充を計画していた「三菱」は、「ギャラン」のデザインをイタリアの有名デザイナー「ジョルジェット・ジウジアーロ」との競作で練り上げて、市場にも好評を得ていました。
そして、そのスポーティ路線をさらに特化させたモデルとして、デザインを一新させて新開発の高性能エンジンを搭載した「コルト ギャランGTO」をリリースしました。量産車の販売に先駆けて、前年のモーターショーでそのプロトタイプである「三菱 ギャラン GT-X」を発表して、そのスタイリングや高性能エンジンへの市場の期待値を確かめています。
その当時、高性能をウリとする他メーカーのライバル車種と比較して、性能が高いわりに価格が抑えめということで販売の結果は上々。メディアなどでの性能の評価も高いものでした。しかし、直接のライバル関係にあった「トヨタ・セリカ」よりも価格が高かったことや、その後に訪れるオイルショックの大きな波を受け、フラッグシップだったDOHCモデルは短命に終わります。
最終的には燃費の問題を排気量をアップさせることで補い、2000ccユニットを主軸にして1978年まで販売されました。
コルト1000の上位機種として「ギャラン」のネーミングを冠したコルトギャラン。スポーティ色がより濃くなり若者に人気を博した。写真は最もホットモデルだったAⅡGS 。ラリーやスピードレースに出場する人のために、スポーツキットも用意された。
当時の1.6リッター最強を誇った「サターン」エンジン
「ギャランGTO」には「三菱」が開発した高性能ユニットの「サターン」シリーズが搭載されました。「サターン」は土星の意味で、これ以降の「三菱」のエンジンには天体に関係する名称が与えられるようになりますが、その元祖にあたるシリーズです。
「サターン」シリーズは新時代を戦うため、環境問題への対応を盛り込みつつ、出力の向上を図っています。当初「ギャランGTO」に搭載されたのは1.6リッターSOHCの「4G32型」で、後に排気量を1.7リッッターにアップした「4G35型」が追加されますが、注目すべきはその間に追加された「MR」グレードに搭載された、DOHCの「4G32型」ユニットです。
DOHC版の「4G32型」は、SOHC版をベースにして「三菱」が独自開発したDOHCのヘッドを搭載した高性能ユニットです。76.9 x 86 mmのボア×ストロークを持つ1597ccのDOHCユニットは、大口径40φの「ソレックス」キャブレターを2基装備して、当時最高の125psを6800rpmで発揮しました。
ベースのSOHCが110psで、同時期に発売された「トヨタ・セリカ」に搭載の1.6リッターDOHC「2T-G」ユニットが115psだったので、この時代の1.6リッタークラス最強エンジンとして君臨しました。 まさに「MR=Mitsubishi Racing」のグレード名を冠するにふさわしい高性能ユニットでした。
GTO-MRに搭載されたニューサターンエンジン4G32型。排気量1597cc DOHCユニットを搭載、大口径40φのソレックスキャブレターを2基装備することで、当時クラス最強の125PSを発生した。
特徴的だったダックテールスタイルが、米国マスタングの「パクリ」疑惑も
「ギャランGTO」は、「コルト ギャラン」から引き継いだ「ダイナウェッジライン」と呼ばれる、前に行くに従って細くなるくさび形のシルエットを基本に、当時の空力のトレンドである「ダックテール」形状を採り入れた独特なフォルムが魅力でした。
しかしその特徴的なフォルムが、当時北米で大ヒットを誇っていた「フォード マスタング」に酷似しているという評判が一部で生まれ、まるでパクったかのように批判されることがありました。ちなみに「GTO」の後に発売された「トヨタ・セリカLB」も同様のダックテール形状を採用していたことから、同じ批判を受けています。
しかし、当の「マスタング」がダックテールを採用したのは1969年に発売された後期モデルからで、開発の時期は「GTO」と丸々被っていることと、当時の「三菱」は「フォード」ではなく「クライスラー」と技術提携をおこなっていたことなどを踏まえると、「マスタングをパクった」という疑惑の根拠は薄いように感じます。
そんな「コルト ギャランGTO」ですが、中古車の市場では人気のメインストリームではないものの、現存の台数がけっして多くないことから価格はやや高めで取引されているようです。特に台数が1000台も無い「MR」はプレミア価格になっているようなので、それ以外のグレードがオススメです。
GTOの特徴のひとつは、当時トレンドであった「ダックテール」と呼ばれたテールエンドが跳ね上がったフォルム。この形状がフォード・マスタングのデザインに酷似していることから、「パクリ疑惑」を呼び起こした。
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